未来に向けた挑戦!!第3部 もっと喘息の人たちに優しくしたい#04】── 実用化編:まだ見えていなかった課題―
以下のストーリーに登場する人物、施設名は全て架空のフィクションです。
遠藤と竹中は、静岡県立医療機器研究所の所長室に呼ばれていた。
窓の外では、静かな雨が降っている。
この静岡県立医療機器研究所は、あのウィルス防護グラスを開発した研究所だ。
ウィルス防護グラスの開発の中心的存在であった北川准一は、マスク型喘息治療薬開発の主任研究員の遠藤良介とはライバル関係にあった。お互いが意識し合っていた。先にPMDAの承認を得たのは北川のウィルス防護グラスであったが、遠藤に焦りはなかった。そしてようやくマスク型喘息治療薬も承認を得た。
開発コード名 Asthma CO2 Deri 2025
マスク型喘息治療薬は、すでにPMDAの承認を得て、実用化段階に入っていた。
遠藤は研究者として、ひとつの到達点に立ったはずだった。
山下所長が静かに口を開いた。
「T社が販売している BreathEase Mask は、かなり評判がいいようだな」
遠藤は頷いた。
「はい。装着感に違和感はほとんどなく、薬剤の持続性も評価されています」
一拍置いて、言葉を続ける。
「ただ……人によっては、規定の期間を超えて着用してしまうケースが出ています」
竹中が補足する。
「医師からは事前に十分な説明がされていますが、“薬”ではなく“マスク”として使われてしまっているのかもしれません」
山下は腕を組み、天井を見上げた。
「医療機器として社会に根付かせるには、
まだまだ超えるべき壁があるということだな」
「さらなるバージョンアップを進めてくれ」
二人は静かに頷いた。
長年に渡り喘息に苦しんできた池田薫子は、1か月前からT社のマスク型治療薬を使っていた。
以前は、吸入器を肌身離さず持ち歩き、
人前で使うたびに、どこか後ろめたさを感じていた。
そして、吸入後に残る、あの苦味も苦手だった。
しかし、マスク型治療薬に出会ってからはそのすべてが変わった。
「本当に、楽になった……」
その日も薫子は、いつものようにマスクを着けて近所のスーパーへ出かけた。
買い物を終え、店を出ると、外は土砂降りの雨。
傘は持っていない。
「しょうがない……走って帰ろう」
走り出して、10分ほど経った頃だった。
急に、胸が締め付けられるように苦しくなった。
「……おかしい。治療薬のマスク、ちゃんと着けてるのに……」
息苦しさは治まらず、薫子は鞄から、久しく使っていなかった吸入器を取り出した。
「もう、使うことはないと思ってたのに……」
雨に濡れたマスクが、薫子の頬に張り付いていた。
――マスクが濡れることで、リポソーム成分が失活する。
研究段階で想定されていた、もうひとつの課題だった、、、
遠藤は、後日報告書にこう記した。
技術は、人を救う。
しかし、人の生活は、研究室の中だけでは完結しない。
まだ、乗り越えるべき課題はある。
それでも、この治療法が多くの患者の人生を変え始めていることは、間違いなかった。
もっと多くの喘息患者を楽にしたい、、、
(続く)
きっと、きっと、その夢をかなえるために、、、
そして、自分は天に生かされたのだと、、、
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