【フリー台本】金の葉の記憶
登場人物
冬馬(とうま):四十代。画家。落ち葉の色を描き続けている。
陽菜(ひな):二十代後半。元ピアニスト。事故で音が聴こえなくなった。
Scene 1:枯葉の庭にて
(風の音。かさり、かさりと乾いた葉が転がる音。)
冬馬:「落ち葉って、不思議だよな。死んでいくのに、こんなに明るい。」
陽菜:「……明るい、ですか?」
冬馬:「ほら、見てごらん。陽に透かすと、金の粉をまぶしたみたいに光る。」
陽菜:「……ああ、本当だ。私の耳には聴こえないけど……この光、音みたいです。」
(沈黙。落葉のざわめきだけが聴こえる。)
Scene 2:記憶の色
冬馬:「昔、母が言ってた。“落ち葉の中には時間が眠ってる”って。描いてると、確かに感じる。あの頃の匂いとか、笑い声とか。」
陽菜:「私にもあります。ピアノを弾いていた頃、光の粒が鍵盤に落ちてくるのが見えたんです。……金色でした。」
冬馬:「金色、か。」
陽菜:「“金”は、温かい記憶の色です。……でも、今はもう触れられない。」
冬馬:「触れられないから、残るんだよ。光も、音も。」
Scene 3:風の中の約束
(風が少し強くなる。葉が舞う音。)
陽菜:「もし、また音が聴けたら……何を描きますか?」
冬馬:「君の音を描く。金の落ち葉で、世界を包んでみたい。」
陽菜:「……金の落ち葉、ですか。」
冬馬:「散っても、輝く。滅びの中に、祝福がある。」
(静寂。)
Scene 4:光の再生
(柔らかなピアノの音が、遠くから微かに響く。)
陽菜:「……聴こえる気がします。」
冬馬:「何が?」
陽菜:「あなたの描く“金の音”が。」
冬馬:「そうか……それならもう、君の耳は閉じていない。」
陽菜:「ええ。あなたの金の絵の中で、私はまた、生きてる。」
(葉が一枚、舞い落ちる音。)
Scene 5:金の葉の記憶(終)
冬馬:「君は、金の落ち葉みたいだ。静かに散っても、見る人の心を照らす。」
陽菜:「あなたも。……光を拾ってくれる人。」
(風が止み、遠くで鐘の音がひとつ響く。)
陽菜:「ありがとう。私の音を、描いてくれて。」
冬馬:「ありがとう。君が、聴いてくれたから。」
(静かな余韻。淡いピアノの旋律と共に、幕。)
