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【小説】ガトーショコラに地獄 冬也編①

 こつん、こつん、と真っ黒な石造りの階段を降りていく。

「ひっつくなアホ芦田!」
「だってせっかく久々のすいちゃんなのに、あの女の香水の匂いがするんだもん! うえ、吐きそう」
「肩に吐いたら八つ裂きにして食うからな」
「じゃあ安心。すいちゃんが俺を殺せるはずないから」
「うるせぇ殴るぞ」
「俺に森羅万象の勝負で勝てたこと無いじゃん」
「うるせぇ刺すぞ」

 軽やかなやり取りが前で繰り広げられる。それでもなお、冬也の顔は凪いでいた。嬉しさも怒りも楽しさも恐怖も、何もない。

 階段を降り終えて、水之助が振り向いた。

「じゃ、山破冬也。ラサ様の前で無礼な口叩くなよ」
「はい。承知しております」
「とうとう君、ラサラサにがんばって認められたら、俺たちの仲間入りだね! 君はちゃあんと言うこと聞くし、すいちゃんも俺も歓迎だよ」
「まあ、人間どもの中ではまだマシ」
「恐悦至極にございます」
 
 深々と頭を下げる。ぎい、と重い鉄の扉が開いた。

 一面真っ赤な屏風に、黒塗りの木の床。赤と黒のコントラストが派手なのに、不気味なほどに艷やかだ。辺りを見回したい気持ちを必死に押さえつけて、こつん、こつんと歩みを進める。

「ラサラサー! とうとう君連れてきた!」
「お久しゅうございますラサ様。相変わらずお美しい」

 階段を登った先にある、部屋のように広い踊り場。その真ん中に鎮座する、絢爛な作りのソファで、あの神が寝そべっている。

 神は、ラサは身体を起こす。黒々とした長い髪、派手な振り袖、すらりと長い手足を携えた巨躯。何より目線を合わせなくともひりひり伝わる、震えだしそうなほどの威圧感。真っ赤な唇が小さく開く。

「これで全員殺せたか? ラサの大事なベルちゃんを苦しませた、塵芥共は」

 唾を飲み込み、拳を握る。狼狽えるな、覚悟ならとうに決めているだろう。平静を装え、心を乱すな。言い聞かせて目を瞑り、開く。

 ____オレは今日、この化け物を殺す。


3章 山破冬也


 実家と聞いてすぐに思い出すのは、ハッカとラベンダーが混じったような、甘い匂い。冬也の家にはいつも、特殊な香の匂いが充満していた。

『お前の家、変な霊とか祓うイカれた父ちゃんと母ちゃんいるんだろ!』

 小学生の頃、一時期のあだ名は「おばけデブ」だった。家が霊媒師の一族として有名なのは事実だったし、太っていたのも事実だ。けれど子供ながらに、どうして自分の家は普通の家みたいじゃないんだろう。どうして休日には遊園地じゃなくて、神社や寺や親族の家巡りをさせられて、霊媒師としての勉強漬けの毎日なんだろう。そう思うことばかりだった。

 小学3年生のときの春、親の仕事で何度目か分からない転校をした。

「いいか。いつも通り、友達は作らないように。変な縁を持ってこられるかもしれないからな」

 父のいつもの忠告とともに、山破一家は引っ越した。小親村に。

 いつも通りのよくある、曰く付きの村だった。知の滝、と呼ばれる、強い力の滝がある。村人はみんな何故か、どれだけ遠くに出ていってもこの地に帰ってくる。けれど、知の滝の神は今は祀られ落ち着いており、今回山破家に来た依頼も、別件のポルターガイスト現象によるものだった。村人が帰ってくる件についても、この少子高齢化の時代、村の人々は気にしていないようだったし、むしろ若い衆が戻ってくることを歓迎していた。また、観光地としてもそこそこ稼いでいるようで、今は移住サポートや、古民家の町並みを生かした町おこしもしているとか。

 そんな些末はどうでもよかった。当時の冬也にとって一番の課題は、またもや小学校でいじめられていること。今度のあだ名は「デブ根暗」だ。根暗な性格も事実だけれど、事実だからといって傷つけられていいわけがない。体育の時間、一番最後に走り終える冬也を見た同級生たちが「ねくら、ねくら」とコールを始めたのは、さすがにその場から消えたくなった。

 ゲームも禁止、漫画も禁止。家にいても暇な冬也の遊び場はいつも、人目につかないところと決まっている。今回の村の遊び場は、山の中の神社。苔だらけの石畳の階段を登り、ひとりで絵を描いたり、唯一の娯楽だった、通信教育の付録の、掛け算や割り算の学習おもちゃで遊んだりしていた。

 偶然にも、この村では同じような境遇の子供が、もうひとりいた。

「あなた、ひとり?」

 小さな体に、痩せた手足。ボロボロのキャラクターTシャツを着た、みすぼらしい少女。それが、小山べるだった。

「やまはくんの名字、かっこいいね。そういえば、下の名前は?」
「とうや。冬に也って書いて、とうやだよ」
「冬、すごく綺麗。ベル、季節の中では冬が一番好き」

 2人はすぐに仲良くなった。互いしか、友達と呼べる存在がいなかったこともある。

「とうやくん! 今日はどうぶつごっこしよ!」
「うん! ベルちゃんは猫ちゃん?」

 ベルはいつも、ふにゃりと柔らかく笑う。お世辞にも顔立ちが整っているわけではない彼女だったが、冬也は彼女が笑うたび、心がみるみるうちに浄化されていくような気がした。小学校で散々いじめられても、放課後にベルとこの秘密の神社で会えると思うだけで、耐えることができる。ベルの笑顔は希望をくれた。異性に免疫のない冬也は、多分きっとこの頃から、彼女に恋心をいだいていた。

 そんな彼女の笑顔を曇らせるのはいつも、彼女の母親。

「お母さんがね、また『神様のオレンジ』を売りにいけって。子供がそんなことするなって学校で何度も注意されたのに。本当にご利益のあるオレンジなのかな? だって腐っちゃったやつは、経典のとおりにって、いつも家でジュースにして飲まされるんだけど、本当にエグくて苦くて、美味しくないもん」

 ベルは階段でうずくまり、たどたどしい声で呟いていた。冬也は彼女の頭を撫でることしかできなかった。自分の家に招いて、温かいご飯を食べさせてあげたい。でもそんなことをしたら、友達は作るな、という父の言いつけを破ってしまうことになる。言いつけを破れば、もしかしたら放課後も霊媒師の修行をさせられて、ベルに会えなくなるかもしれない。

 自分はなんて勝手なんだろう。そう思いながらも、彼女にただ寄り添うことだけが、冬也にできることだった。

 そんな彼女に、冬也には見えない友だちができた。出会って1年近くが経った、冬也が小学4年生、ベルが小学5年生になったばかりの頃。興奮した様子の彼女の手にあった、子供が殴り書きしたような文字が記された和紙。「ありがとう」と書かれたそれを、ベルは大事に両手で持っていた。

「井戸にチョコレートを置いておいたらね、これがあったの! あの井戸、神様の滝と繋がってるんだよね? きっと神様からだよね?」

 井戸。それはふたりが会っていた秘密の神社から少し下ったところにある、林の中の古井戸だった。冬也は遊び場所を探していた頃、そこに一度だけ行ったことがある。でも、井戸には御札がおびたたしく貼られていて、それだけじゃなく、言いようもない不安感を感じて、逃げるように去ってしまった。

「ベルちゃん、チョコって? 確かベルちゃんの家、お菓子禁止だよね?」
「うん。あのね、おじさんがこっそり置いてってくれたの。おじさんだけだから、ベルの味方」
「でも、井戸にお供えしちゃったの?」
「うん。明日はお母さんの機嫌が良くなりますようにって、この神社とか、いろんなとこにお供えしておいたんだ。そしたら、井戸のところにだけこれがあったの!」

 ね、これって神様だよね! とベルがぴょんぴょんその場で跳ねる。

「お母さんも珍しく怒らなかったし、あの神様は本物だよ。お母さんの言う通り、神様はいたんだね」

 冬也は何も言えなかった。でも言いたかった。多分それは神様だけれど、ベルの母が信じる神様とはまた違うのではないか、と。ベルの母が信じる神は、たくさんの信者を増やそうと家を1件1件回って、よくわからないスーパーで売ってるようなオレンジを売って、週に1回駅前でスピーチをするのだ。でも、今回の井戸の神は、もっと禍々しくて。

 冬也はただ、彼女がはしゃいで話す様子を聞いていた。それしかできない自分が、嫌だった。
 
 ベルと神のやり取りは日々増えていく。

「神様、ラサ様っていうんだって。お母さんが信じてる長い名前の神様とは、別の神様なのかな?」
「ラサ様はチョコレートが好きだって!」
「この前ね、井戸に授業で作った詩を書いて入れてみたの。そしたら上手だねって!」

 冬也は話を聞く度に、足元から絡め取られていくような、だんだんと引きずり込まれていくような感覚に襲われる。大事な大事なベルがどこか遠くへ行ってしまうような不安感。相手にしてはいけないものを相手にしている気がする、恐ろしさ。ふたつが相合わさり、幼い少年をどんどん追い詰めていく。

「井戸の向こうにはね、大きなお城があるんだって。いいな、ベルも行ってみたい」

 限界の引き金は、夏のある日。本当に何気ない発言だった。

「お城、行っちゃえばいいんだ。ひとりで勝手に」
「え? とうやくんも一緒に行こうよ」

 冬也は泣きそうな顔で彼女を睨んだ。どこまでも、春の青空のように明るいベルが好きだった。でも、今だけは。
 
「ベルちゃんと遊んでも、ラサ様の話ばっかりだもん! もうつまんない! もうやめた方がいいよ! 僕たちとラサ様じゃ、住む世界が違うんだよ! 死んじゃうかもしれないよ!?」
「いいよ」

 ベルは、微笑んでいた。ざあ、と初夏の風が吹いて、彼女の去年と変わらないキャラクターのTシャツの裾を揺らす。

「だってこのまま生きてても、誰も助けてくれないもん」

 それが、彼女と交わした最後の言葉だった。冬也は顔も見ずに、駆け出していた。走って、走って、振り払うように走って。息が切れて、田んぼ道の真ん中で、うずくまって泣いた。悔しかった。見えない神に存在価値で負けることが。情けなかった。彼女が助けを求めることに気づきながらも、何も出来なかった卑怯者の自分が。

 冬也はその日以降、秘密の神社に行くことはなくなった。そして秋になると、またすぐに転校が決まり、ベルにお別れを告げることなく、この村を去っていった。

 小学校卒業、中学校卒業、と日々は流れていく。冬也は身長が随分と伸び、もうデブといじめられることはなくなった。むしろ背の高さと温厚な性格から、いろいろな人から話しかけられるようになった。反抗期を迎え、親と喧嘩するようになって、霊媒師の修行もサボるようになってからは、人付き合いというものも徐々に覚えていく。年上の先輩とつるんで、コンビニでたむろしたり、今まで縁がなかったタイプの女の子と付き合ってみたり。賑やかで刺激的な日々を過ごすうちに、小親村のことも、そこで出会った初恋の子のことも、掻き消されていくように忘れていった。

 高校3年生の冬だった。小親村の名を再び、久しぶりに聞いたのは。

「はい、じゃああの村の人々はもう、はい……。わかりました。我々も細心の注意を払います。はい」

 両親は居間で何やら神妙な顔つきで電話をしていた。電話を切るなり真っ青な顔で「冬也、座りなさい」と、カバンを持ったままの冬也を呼んだ。

「小親村が、滅んだ。もうあそこに人は住んでない。住んでいるとしたら、もう人じゃない、恐ろしいなにかだ」

 冬也は「なにかの冗談でしょ」と笑おうとしたが、口が固まった。父と母は今まで見たことがないくらいに、青い顔に泳いだ目をしていたから。

「冬也、今まですまなかった。父さんたちが軽い気持ちであんな仕事を引き受けたせいで、あやうく冬也まで命を落とすところだった」
「私達が気をつけていれば、ここまで呪いが来ることはないでしょう。もう、あの村のことは忘れて。お願い、大事な大事な冬也……」

 父と母はそう言って、ふたりして冬也を抱きしめた。昨日も進路のことで喧嘩したばかりなのに。子供の頃からずっとずっと、この家業が大嫌いで憎くくて、普通というものに憧れつづけていたのに。

 _____でもオレ、親に愛してもらえてたんだな。

 何か大変なことが起こった実感の湧かない冬也はぼんやりと、親の愛を再確認して、噛み締めていた。そして、忘れて、と言われたはずなのに思い出しては、胸が痛んだ。あの初恋の女の子も、死んでしまったのか、と。

 大学は実家から通える、水戸の大学に進んだ。とはいっても、高校の頃からの友人も結構な人数が進学していたし、特別感はあまりない。

 元々頭がいい冬也は講義も課題も苦ではなく、キャンパスを友達と喋りながら歩き、可愛い子がいたら目をつける。たまに居酒屋のバイトをして、クラブではしゃぐ。そんな日々を繰り返していた。

 目まぐるしい転機が起こったのは、友人の勧めでフォローした、三毛門明里、という先輩のインスタグラムを見た時だ。自室のベッドで寝そべりながら見ていた冬也は、思わず飛び起きた。三毛門明里のアシスタントをしている、ミルクティー色の髪の女子。タグについている名前は「ベル」。化粧もしているし顔色もいいし、背も高くなっている。けれどもしかして、もしかしなくとも、あの子だと気づく。笑ったときの柔らかい雰囲気は、化粧をしても年を重ねても、あの頃のままだった。

 冬也は彼女にメッセージを送り、会う約束をこじつけた。聞きたいことがたくさんあった。そして、謝りたいことも。

 1週間近く後に、彼女と大学の食堂で会った。ベルはほどよくカールした明るい色の髪をポニーテールにして、小走りでテラス席にやってきた。

「久しぶりだね、冬也くん」

 彼女の金色の星のピアスがきらきら光って、白い肌に映える。冬也はなんだか泣きそうになってしまった。情けない自分の顔を誤魔化すために、下を向いた。再会してまだ1分も経ってないのに、冬也は彼女の笑顔を、あの日と変わらない希望の象徴を、噛み締めていた。あぁやっぱり、この子が初恋のあの子だと。

 他愛もない話をした。ベルは今、友達とインスタグラムのアカウントを作って動かしていることや、友達と旅行にいろいろ行っていることを、楽しそうに話してくれる。嬉しかった。彼女がもうあの頃みたいに死を望む少女じゃなくて。人生を謳歌する、冬也の知らない顔をしていて、本当に。

 意を決して、村のことも聞いてみた。が、返ってきたのは想定していた言葉ではなかった。

「お母さんとはもう、縁を切ったの。今は何してるか知らないけれど、相変わらずオレンジ売ってるんじゃないかな」

 冬也は言葉を失った。だってもう、村に人間は、ひとりも。

 村の話をした途端だ。ベルの首の下から、きらりと光る透明な糸が見えた。「ベルちゃん、糸ついてる」と触ろうとした刹那、背筋が凍った。同時に気がつく。これは、触っちゃいけない。触れてはならない、異質で異様なオーラ。おそらく、この世のものじゃない。

「冬也くん?」
「……あ、ううん。なんでもない。ベルちゃんがあまりに綺麗だから、キラキラして、眩しかっただけみたい」
「ふふ、口が上手くなったね」

 薄ら笑いを浮かべながらも、冬也の頭は至極冷静だった。まだ終わっていない。あの村が滅びたのなら、きっと、次は彼女の番だ。

「ね、連絡先交換しよ? オレ昔、ベルちゃんにひどいこと言っちゃったでしょ。だからその、罪滅ぼしがしたい。ほんとごめん、勝手なんだけど、これからも仲良くしてくれませんか」 
「そんなそんな、いいに決まってるよ」
「いいの?」
「だって冬也くんは、私の人生で一番最初のお友達だもん。ずっと仲良くしたいな」

 冬也は頬を染めた。春の木漏れ日のごとく穏やかに笑う彼女は、やはり綺麗だった。この笑顔を守りたい。月並みで陳腐な言葉だけれど、確固たる覚悟が冬也の胸に宿る。ふわふわとあたたかく光るそれは、自分の罪滅ぼしの象徴であり、希望であり、道標だった。

 スーパーにバーベキュー用の追加の食品を買い出しに行っているときのことだった。冬也はベルだけじゃなく、ベルとインスタグラムのアカウントを運営している明里と修二とも親しくなった。今日は修二の実家の庭を借りて、バーベキューをし、この後は花火をすることになっていた。

「冬也はすごいな。いつも誰よりも前を進んでて、しっかりしてて。尊敬する」
「え、なんすかシュージさん、キモチワル」
「人が褒めてんのに?」

 ノンアルコールのビールを手にした修二が、ビールの缶で冬也の額を小突く。

「さっきも、肉の焼き方も火の起こし方も、全部やってくれた。ありがとな」
「じゃあハイボールおごって」
「お前未成年だろ。カルピスソーダにしとけ」

 修二は屈託なく笑う。冬也は首元を手で掻いた。

 ____あぁやっぱこの人、何も考えてない人だなぁ。それが許される環境にいたんだろうな、羨ましい。

 バーベキューのやり方は高校時代、目を充血させるほどに調べて身につけた。他にも、人との喋り方、立ち振る舞い、姿勢、髪のセット、空気の読み方。全部、消えたくなるような苦い経験を繰り返して身に着けた、冬也の財産。それに対し修二は、顔の造形がよかった。身長もあって、声もいい。だから多少空気が読めないことも、マイペースなことも、全部許される。全部手に入れる。冬也の初恋の人さえも。

「冬也、お菓子見にいこう。ベルが食べたいって言ってたやつ買ってあげたいんだ」
「そういうことなら喜んで」
「冬也」
「なーに」
「ありがとう」
「は? さっきからホントどしたの?」

 かごを持って歩く修二の背は広い。

「俺、家に友達つれてきたの初めて。嬉しいんだ。冬也みたいな可愛い後輩がいて、明里みたいなかっこいい友達がいて、何より、ベルが、宝石みたいに美しい、彼女がいて。今日4人で遊べて、よかった」
「おいコラ。どさくさに紛れてノロケですか?」
「ベルが最近綺麗になったのは、お前のおかげだよ。悔しいけど」

 冬也は短く息を吸った。

「ベル、冬也と再会してから、ますます楽しそうになった。ベルに冬也が、素敵な幼馴染がいてくれて、よかった」

 素敵な幼馴染。複雑で苦しくて、あたたかな言葉。

 この人のことが嫌いだ。存在が受け付けられない。欲しい物なんでも持ってる彼を見る度に、自分の心の一番隠したいところをつつかれるような気がして、ため息が出る。けれど、この人はずるい。こういう言葉をくれるから。だから、振り上げた拳を下ろしてしまうのだ。

 冬也は平手で、修二の背をばしん! とそこそこ強い力で叩く。

「馬鹿。酔いすぎ!」
「酔ってない」
「顔ゆでダコにして何言ってんだ。ほら、帰るよ!」
「酔ってないし」
「わかりましたよもう」

 風呂にのぼせた子供のような修二の持つカゴを引っ張って、彼の前を歩く。結局その後お菓子売り場の食玩コーナーで盛り上がって、だいぶ時間がかかってしまった。修二の家に戻ったときに「遅いんですけど!」と明里がぷんすこ怒るのは当然だった。

 その後4人で花火をしたときも、冬也はずっと笑っていた。誰かに媚びるための作り笑いじゃない、等身大の笑顔。夜の闇に咲く、視界いっぱいにはじける火花たち。愛しい彼女のはしゃぐ声、淡い光に照らされた横顔。きっとこの夏が、一生の中で青々と輝き続けるんだろう。そんな希望に似た予想までついた。

 燦々とした夏のきらめきは、心のなかでずっと生き続ける。

 そう信じていたのに。
 


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くいん 生活費の足しにさせてつかあさい!!!切実に!!!