2日間でネームを描く漫画家の、思考を”細かく刻む”制作プロセス【実例有】
こんにちは、漫画家の9℃です。
漫画を描いているみなさん。
ネームを描くのは得意ですか?どのくらい時間をかけて描いていますか?
プロの漫画家でも、ネームに苦手意識がある人・時間がかかる人は多いです。
早く絵が描きたいのに…!と思っても、商業漫画の制作では基本的に担当がネームにOKをくれるまで作画に進めません。
連載中でもそうですが、そもそもまだ企画が通っていない場合には、ずっとネームだけを描き続ける日々…となることも。
私も経験があります。早く連載決めたい~と思いながらネーム描きまくってました。
でも私、ネーム作業を嫌いになっていません。苦手意識もあまり無いです。
それは、ネームを2日間で描けるから。
今回は、
めんどくさく感じがちなネームを速く描く方法を
”私がすげー漫画家だから”で済ませず、誰でも応用できるように解説していきたいと思います。
ネームが速いと、どうして良いの?
速さというアドバンテージ
以前の記事でも「新連載を始めるためにしていること」に、
ネームを速く作る を挙げています。
そのときは、こう書いています。
ネームが速く描けると、その分時間が空きます。
今回は新連載立ち上げの話なのでそこに特化したメリットを説明しますと、
現行連載が終わっていないタイミングでも、次回作候補のネームを描き進められる
ということです。
上記は連載準備について説明しているものですが、それに限らず
他作業を圧迫することなく制作できる(その分作画に時間を割ける)
ネームの試行回数を増やせる(ブラッシュアップする余裕が出る)
複数社との同時コンペが可能になる(ネームが通ったところから仕事できる)
など、さまざまな恩恵が。
けれど、メリットはそれだけではありません。
速さ以上に重要な”制作時間の安定化”
私がえらそうに掲げている”ネームに2日間”(時間かかるときは3日間)。
実は速さよりも重要な利点があります。
それは私自身が「ネームはほぼ2日間で終わる」と認識できていて、実際にエラーが起きにくいこと。
ネームに対して「いつもどれくらい時間がかかるか、描いてみるまでわからない」という方、多いんじゃないでしょうか?
自分の作業時間が見通せていないと、
行き当たりばったりなスケジュール(そもそもスケジューリングできない)
〆切に間に合うか不安があるのでうまく休めないorいつも〆切間際ムリしている
複数の予定を調整できないので、掛け持ちしようと思えない
ということになりやすいです。
掛け持ちについては漫画家さんそれぞれのスタイルがあるので必要なわけではないんですが、掛け持ちしちゃおうかな!ガハハ!と思えるくらいの余裕があると、今後商業漫画家としてやっていく際に潰れにくいとは思います。
私は大体3~4週間ぶんくらいのざっくりしたスケジュールを決めて仕事していますが、これができるのは「1日にどれくらいの量仕事が進むか」を全工程で把握し、フォーマット化しているためです。
この辺はいずれ、スケジューリングの記事とかで書けたらと思います。
2、3日で終わると分かっていれば、1日分余裕を持った状態でスケジュールを確保すればいい。
これが5日だとしても、1週間だとしても同じです。
再現性による安心感が、苦手意識や着手のハードルを下げてくれます。
お前なんかこわくないぞ、と思えたら勝ちも同然です。
ネームの速さは、”細かく刻む”で作る
人は「決めること」に疲れる
今さらですが漫画って、めっちゃ決めることが多いんですよね。
しかも内容の大半は、ネーム時点で決める必要があります。
すぐ思いつくだけでも、
出来事
それに伴う感情
構成(上記2つをどう並べるか)
セリフ
コマ割り
構図
表情 などなど…
人は、動くだけでなく思考にも疲れます。
特に何かを複数の選択肢の中から選ぶのは、とても疲れる行為です。
有名社長は服のコーデを1パターンに決めてる…みたいな話が有名ですね。必要な思考にリソースを温存する工夫です。
ネームを描くとき、白紙を前に1ページ目から悩んでいませんか?
「まずどういうコマ割りにしよう。どういう絵を入れよう。どういうセリフをどの位置のふきだしに…?」
決めるべきことが複雑化すると、よりストレスを感じます。
ネームが進まなくて「う~ん…」と唸っているとき、実は「悩んでいる」よりも「思考が巡っていない=フリーズしている」状態かもしれません。
全部決めなきゃいけないのは、漫画を描く私。
それは避けられない現実なのですが、このストレスをできるだけ軽減することは可能です。
それは、いっぺんに全部選んで全部決めようとしないこと。
「複雑に絡まった決めるべき内容を”細かく刻む”」ということです。
細かく刻むってどういうこと?
簡単です。さっき挙げた「漫画を描くために決めること」を、
・出来事
・それに伴う感情
・構成(上記2つをどう並べるか)
・セリフ
・コマ割り
・構図
・表情 などなど…
全部ひとつずつ考えるんです。
同時に考えない。
構成を考えながらコマ割りを考え…ない!
セリフを考えながら表情を考え…ない!
できるだけシンプルな判断で済むように要素を細かく刻み、ひとつずつ決めて進みましょう。
漫画を描く人にはイラストを描くのも好きな人が多いかなと思うのですが、イラストを描くとき、
ラフ→下書き→線画→色塗り→仕上げ…
など、工程を分ける進め方が一般的ですよね。
それと同じです。一度に色んなことするのって、大変だもの。
イラスト制作を例にしているように、これはネームに限った話ではありません。
何から手をつければいいんだ…めんどい…という状況のとき、私は「ありえないくらい細かく刻んだToDoリストを書き出す」という方法で着手ハードルを下げています。
例えば家の掃除しなきゃ…というときは「コップを台所に持っていく」から始まります。なんでコップがテーブルに3個もあるの?
実践編:”細かく刻むネーム”の描き方
ここからは、私9℃の実際に行っているネーム制作方法の具体的な紹介になります。
2日間の工程内訳
ざっくり分けるとこんな感じ。
■1日目
・プロット
・セリフ
■2日目
・枠線
・ふきだし
・絵
それでは、各工程で何を決めているのか、そして何を決めていないのか見ていきましょう。
工程①プロット(1~2時間)
プロット作成は実は一番不安定なところで、やり方もかかる時間も揺れがちです。
たまに3日かかる…と言っているのは、ここで書き直し書き直し唸りまた書き直し…となる場合があるためです。
まず
出来事、発言内容、感情の流れなどを手書きで羅列する ことから始めます。
この段階では、とにかく思いつく限りすべてを書くことが大事です。
おもんないことも、余計な蛇足も、全部書きます。
効果的に伝えるための順番や美しい言い回しなんか、まだ一切考えなくていいです。(いいセリフ思いついちゃったときは書いていい)
とにかく今回はこういうことが書きたくて…という内容を、エピソードトークがやばいほど下手な人として書き散らかします。
それができたら、「話の全貌がなんとなく見えてきた」状態になっていると思うので、次の
配置プロットを作る に移ります。
配置プロットとは今考えた言葉なんですが、「どのページにどの内容を収めるかを振り分ける」を視覚化する、というものです。
これは言葉のみでの説明に難しさを感じたので、実例をお見せしますと

こんな感じ。
先に書いた内容を、実際の漫画にする際に
・どの順に並べて、
・どの展開や会話を生かしてor削って、
・どこを膨らませてorコンパクトにして… を吟味します。
ちなみに、ちょっと考えるの難しいな…と思うときはこの配置プロットもアナログでやります。
小さく切った紙に出来事をひとつずつ書いて、それを順番に並べてからページごとに区切ります。
アナログでやると、上記3工程も”細かく刻む”ことが簡単です。
このプロット作成が、漫画を描いていくためには最重要です。
ネームが通らなくて困っている漫画家さん・漫画家志望者さんは、実はネームの描き方がうまく行っていないよりも前に
プロットの書き方や内容の説得力、整合性の時点でつまずいていることが多いからです。
全体を通した流れにまとまりがあるか?
登場人物の行動や思考にブレがないか?
絵的な動き、魅力を作れそうなフックがあるか?
1ページ消費したのに「凪」を生み出していないか?
これらがプロットの時点で整っていないと、ネームに進んでも悩んでしまう&いい漫画になりにくいので踏ん張りどころです。
工程②セリフ(3時間)
いよいよネーム本番。
プロットをもとに、原稿データにセリフ・モノローグを打ち込んでいきます。
私は漫画制作にCLIP STUDIO PAINT EX、いわゆるクリスタというソフトを使っています。
セリフもテキスト機能で楽に打ち込めます。
手書きで文字入れしないのは、内容や位置の調整はテキストデータの方が楽だからです。
そう、私はセリフからネームを作ります。
初めからそうしていたのではなく、かつて趣味漫画を描き始めの頃は
枠線→ふきだし→セリフ→絵…を1ページ埋めたら次のページへ…という書き方をしていました。が、思ったんです。
考えること多くてダルいな…って。
そもそも私、漫画を描くようになったのは高校生から。もっと小さい頃から描いてみたいと思うことはあったけど、描きませんでした。理由は同じで
漫画なんだしまずコマを割らないと…と思うと、どうすればいいか分からなくて諦めちゃうんですよ。
枠線(コマ)やふきだしと違い、セリフは「位置」を最初に決めなくてもいい。
決めるべきことは、各ページ内にどのセリフを収めるかだけ。
意識するポイントとしては、
めくり(左下最後のセリフ→右上最初のセリフ)が印象的になっているか
絵で伝えられることを文字で書いていたら削る(後でもいい)
それでも文字多すぎるときはエピソード過多を疑うorページ増を検討
など。
「私はまず絵にしてみないと話が作れない…」という方、いると思います。
それならそれで全く問題ありません。
私は何事もまず”言語にすると理解が早いタイプ”の自覚があり、反対に映像や画像などビジュアルで思考を進めるのが楽なタイプの方もいるはず。
そういった方は、絵先行でも位置を同時に決めなくていい「絵コンテ方式」のネームづくりがハマるかもしれません。
最初からコマ割りはせず、描きたいコマをアニメの絵コンテのように均等に描いていき、そのあとコマの位置やサイズを考え配置する、というものです。
知見が浅くざっくり紹介に留まりますが、あくまでポイントは何を先にやるかよりも工程の細かい切り分けである、という補足でした。
工程③枠線・④ふきだし(合わせて1時間)
セリフが入ったので、すでに「そのページで何をするか」は決まっています。
ここからは、どうやったらストーリーを効果的に魅せられるかの段階になります。
枠線とふきだしをまとめているのは、この2つはほぼ同時に書き込んでいるからです。
経験からくる慣れによって、いったん刻んだ工程を合体することも可能になります。
ここでの具体的な流れは、
置いてあるセリフを見て、このページを何コマにするか決める
枠線を引き、コマを割る
ふきだしを描く
ふきだしの中にテキストデータを移動させる です。
初心者あるある「コマの割り方がわからない」ですが、
コマ割りに唯一の正解というものはありません。みんないつも不安。ただ、
読む順番に迷うコマ割りをしない(右上から左下へ目線が流れるように)
スマホ読者も増えているので、細かく割りすぎない
コマの形より大小のメリハリが大事(ここは後でも直せる)
など意識できると、優しい漫画家になれます。
セリフや絵の内容は「自己表現」でもあるので個々の感性を活かしていきたいですが、枠線やふきだしに関しては「思いやり」が最優先です。
読みづらい漫画は話が入ってこず、途中で読むのをやめられてしまうからです。
ふきだしは、文字の量に対する余白をしっかり確保したサイズで描けていれば、この段階ではOKです。
私は後々清書するとき、絵の邪魔になりにくい場所に再度調整しています。
工程⑤絵(2時間)
いよいよ大詰めです。なんならもうほぼネームになっている。
コマに絵を描きこんでいきます。
セリフを見て描くだけなので、答え合わせ状態になりがち。あまり頭を使っていません。
絵入れで悩む場合「見せ場を作れていない」「流れが整理されていない」など、前の工程に見逃したつまずきポイントがある可能性が。
絵はなるべくざっくり描きます。楽したいから。
どうせ担当さん(と編集長とか)しか見ないし、表情と何してるかが伝わればOK。最悪文字で補足もします。
1ページにつきおよそ5分くらいで埋めると、20ページなら100分で完了します。

もちろん絵の入れ方(内容や構図)にもつまずきポイントはたくさんあります。主に気をつけることは
キャラの大きさにメリハリをつけられているか
誤解を招くミスリードをしていないか(セリフとキャラの位置など)
カメラ(視点)が不自然に右往左往していないか など。
2日間かけている意味は?
足し算が得意な方は気づいたかもしれません。
これを読む限り、私がネームにかけている時間は7~8時間ほど。
じゃあ、1日でも描けるんじゃないの…?と。
これには明確な理由があり、私はどうしても
セリフを書いた後に一旦寝かせたいんです。寝るの私ですけど…
一度離れ、翌日にできる限り「読者」としての目線で読み返します。
分かりにくさ、ぎこちなさが見えやすくなるから。
そこを直してから、以降の工程に進みます。
まとめ
どんどん長くなる。読むの大変ですみません!!
今回の記事の要点は、
速さの獲得で、生産性と再現性を向上できる
ネームがなかなか進まないのは「一気に決めようとしている」せいかも
決めることを「細かく刻む」と詰まりにくい
後でも変えられることはどんどん後回しにする
でした。
次回予告
私のネームの描き方を解説しましたが、
「で、実際のネーム、どんな感じで描いてるんですか?」と思った方もいるでしょうか。
今回、1ページしか見せてないですもんね。
お見せします、連載ネーム丸ごと1話分。
それだけじゃなく、次回は
「連載会議に通った第1話ネーム」&「同タイトルの、連載会議に落ちた第1話ネーム」を公開します。
キャラクターや設定が「連載取れるレベル(実際に取れた)」であっても、ネームの完成度が甘ければ連載会議は通りません。
そして、自分で言うしかないので自分で言いますが、
落ちた初稿ネームもちゃんと面白くてかわいいんです。
ならどうして落ちたのか?2本のネームはどんな差があるのか?
そういうことも含め、お話します。
初めて有料記事を出します
次回のネーム比較&分析回は、有料記事になる予定です。
ただなるべく誰にでも漫画は読まれたいため、無料パートで2本丸ごとネームを公開し、その後の分析部分を有料パートにするつもりなので、
とりあえずネーム見たいな~の感覚で覗いてくださるとうれしいです!
お楽しみに!
9℃
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ありがとうございます!これからも頑張ります。