アイデアは”思いつくセンス”より”掴む技術”!多作発信型漫画家の企画ストック法【質より量】
「面白いアイデア、思いつかない…!全部何かに似てる気がする」
「このアイデア絶対名作の予感なのに、なかなか形にならない…」
「なんでそんなにポンポン描きたいものが思いつくの…?」
アイデア沼、ハマってませんか?
這い出しましょう。作品作りに使える時間を増やすために。
こんにちは、漫画家の9℃です。
今回のテーマは
企画ストックの作り方と実際の運用方法 です。
同人・プロ志望・商業問わず、漫画を描くにはまず
「何を描くか」を決めていく必要があります。
そこで必要になるのが「アイデア」。企画、ネタとも言います。
一旦私の話をしますが、商業漫画家としての約11年間の活動の中で
・連載…9本
・読切…4本
・アンソロジーなど…12本
・同人誌発行(一次二次混在)…41冊
・商業で没になったアイデアやネーム…数えきれない
くらいの作品づくりをしてきました。客観的に見ても、超元気。
たくさん描ける、そしてさらにそれが世に出せる…とするためには様々な環境・技術・マインド・戦略など必要になってきますが、何よりの土台は
いかにたくさんアイデアを出せるか なんですよね。
数打ちゃ当たるとまでは言いませんが(マジで全てが大空振りだと困るので)、「プロレベルでも数打たないと当たらないことが普通」だとは思ってほしいところです。
たくさんアイデアを出せていれば、そしてその”育て方”を分かっていれば、連載が打ち切りになったとて落ち込まずビビらず次の準備に進めます。
今回の記事では
・アイデアに対する思い込みの破壊
・実際のアイデアの出し方貯め方使い方
・アイデアが出ない人が陥っている状況と対策
などについて、仕事も趣味も漫画作りな多作型漫画家としての実践経験ベースでお話しします。
”思いつく”が全てじゃない
初っ端から余談ですが、漫画家やってるんです~って他業の方に話すと一番多く言われるのが
「お話が思いつくのって、すごい!」です。
…確かに、私も作曲とかされてる方に思うもんな、メロディが思いつくなんてすごい!って。
何の話かというと、
”思いつく”という奇跡だけを、アイデア出しの方法だと勘違いしている人、アイデア出しに悩む人には多いんじゃないか…? ということ。
「○○しているときに、ふと急に浮かんだアイデアで描きました」というヒット作家インタビューとかを見て、面白いものってそういう”思いつき”から生まれてくるんだ…!と思っちゃってませんか?
ゼロイチで無から急に降ってくる/湧いてくるものが、アイデア。
才能のある人はそうやっていつもいくつも奇跡を起こせる発想力と運があって、自分はまだ未熟だからなかなか思いつけない…
実際にそういう側面はあり、そういう才能はあります。
が、それが全てではありません。
むしろその思い込みが、アイデアを見逃す原因になりえます。
アイデアは”掴む”もの
大前提として、アイデア(ここではネタと言った方が伝わるかも)は
どこにでも、常に存在しています。
あるんです。私や皆さんが思いつきで一から生み出さなくても。
自分の生活にも、読んだ本にも、SNSにも、お喋りにも、街にも駅にも。世界はアイデアで溢れています。
何もかもを自分の頭の中だけで作り出す必要なんかなく、必要なのは
あちこちに漂っているアイデアを見逃さずに掴めるかどうかです。
それは、技術でできます。動いて手を延ばして掴むだけ。
「おもしろそう」「好きかも」のアンテナを常に張っておく、という表現が伝わりやすいでしょうか。
掴む時点では、全てを漫画に活かそうと思う必要もありません。
売り物にできるかどうかの精査もあとでいくらでもできます。
アイデアって無料だし場所もとらないので。いったん全部掴んで、自分の中にぽいぽい詰め込んでください。よく見る必要すらないです。
実際のアイデア運用の流れ
抽象寄りの話になってしまいましたが、ここから実践編です。
私がアイデア出し~ネームに入れるレベルに持っていくまでの工程は
アイデアを検知し、掴む
メモする
保存する
描くものを選ぶ
使える形に変換する
という感じ。
ひとつずつ解説していきます。
①アイデアを検知し、掴む
基本的には、先述したことと同義。
私が特にアイデア掴み放題みたいになりやすい状況は、
・刺さる作品に出会ったとき(漫画でも映像でも)
・編集さんと話をしたとき(特に初対面)
など。
基本いつも「私がこういう設定を描くと、どういう質感になるのか?」が起点になることが多く、他のエンタメ作品だったり編集さんの「9℃さんのこういう話も見てみたい!」というアプローチからヒントをもらいやすいです。
私があちこちの担当さんと仕事をする理由のひとつでもあります。
②メモする
とても大事。人って忘れるんで。
前の記事でも書いていますが、アイデアはほぼスマホのメモ帳アプリで管理しています。
アイデアの粒度は様々で、
「○○が××する話」と一行だけ書いてあるものや
「野球部」というタイトルでキャラの名前とポジションが並んでいるもの、
タイトル案みたいなのが書いてあるもの、
読切一本ぶんくらいのあらすじが書いてあるものなど。
私の創作活動は「商業」「同人」「キャラ創作(本編漫画を描く想定のないもの)」の三種類あり、メモアプリ内にはそれらが混在しています。
用途ではなく「そのときの興味度」で色分けしており、
今育てたい(思いつきたてでフレッシュ)
描いてる(連載中、趣味で描き続けているシリーズ)
今はそんなでもない(アイデアとして溜めてはおく)
もう描いた(作品として発表した)
のような並べ替えを都度しています。
メモ方法は好みで選んで良いんですが、ここでは
・「覚えておく」ことに脳のリソースを割かなくて済むということ
・一覧性、検索性を高められること
・書き出すことで客観的に見直す感覚を持ちやすいこと
という、頭の中に留めず外付け記憶することの利点を押さえてほしいです。
③保存する
メモしたら、一旦寝かせます。(すぐ使うものもありますが)
たまに設定やプロフィールを書き加えたりしますが、10年くらい前に書いてそのままカチコチになってるメモも多く存在します。
そのレベルになっても、基本的に「消去」はしません。
弱めのアイデアでも、他のアイデアの足掛かりになることはあります。
ある時急にそのアイデア周辺の解像度が上がって使えることも。
④描くものを選ぶ
メモの中から、実際に漫画として描けそうなアイデアを見つけます。
重要なのは「一番おもしろくなりそう」ではなく「今すぐ描けそう」で判断すること。
どういうことかというと…めちゃくちゃ乱暴に言いますが、
作品として形にできないのなら、アイデアの良し悪しなんて何の意味もなさないんですよ。
これは先述の「どんなアイデアも捨てない」と一見真逆のようですが、同じことです。
私がアイデアを100個ためていようが、作品をひとつも出せていないなら漫画家としてやっていけないので。
漫画家は漫画を描けるなら途中の方法はなんでもOKです。
別に、アイデア一個出して一個ヒットさせて一生食べていく方法でも問題ありません。
私が自分の状況を鑑みると、アイデアたくさんあった方が現実的にやっていけるな…というだけ。
話を戻しますと、「今すぐ描けそう」とは、ある程度漫画にした際のビジョンが掴めていてプロットにすぐ向かえそう…と思えるかどうか。
アイデアには育成レベル差があるんです。
③の工程でたまに書き加える…と言っていますが、そこでレベルアップしていきます。
レベル1~5くらいまでに分かれていて、
レベル1は「まだどういう何になるかもわからないが言葉のリズムはやたらいいタイトル案ぽいもの」とか。これはすぐ使えない。
レベル4,5くらいになると、整えればすぐ使えそうな状態なので、④で選ぶのはこの段階のもの。
ただ、商業作品だと読者層やテーマに指定がある場合が多く、またページ数制限もあったりします。
私みたいにあちこちで漫画を描いていると、ストックの中にちょうどいいアイデアがない…ということもままあります。
「あと一週間で、女性向け/推し活テーマ/8ページの読切アイデアからネームまで」!みたいな。
そういうときは、もう今捻りだすしかない。
①~④を爆速でやります。やりました。
速度向上も経験あってのものなので、続けていくうちに対応可能です。
⑤使える形に変換する
この「変換」をスキップしてしまう方、多そう。
変換できる!と思えていないと、④でも①でも止まってしまいがちです。
冒頭で「面白いアイデア、思いつかない…!」という架空の苦悩を挙げました。
はっきり言わせてください。
アイデアの時点で誰が見ても面白いなら、漫画家なんていらなくない?
アイデアだけ売る仕事してる人って、この世にそんなにいないじゃないですか。
アイデア力だけで持て囃されることなんてなく、そこから売り物足りうる状態に仕上げる必要がありますよね。
アイデアひとつひとつには、面白さの決定的な違いはないくらいに思っていたほうがいいです。
担当編集の感触がアイデア出し段階でいまいちな場合、考えられるのは
・おもしろさを期待させてくるほど具体的なビジョンが見えてない
・あなた(作者)がまだあまり乗れてないのが透けてる
・好みじゃない
・担当も初期アイデアで良し悪しが決まると思ってる など。
つまり、そのアイデアを起点にどれだけ「漫画になったとき、どのようなシーン/言動/キャラ魅力/メッセージ性が生まれそうか」にリーチしていけるかが重要で、そうやって動いて広げていった先にあるのが面白さです。
そして、その一歩目が「⑤変換」に当たるわけです。
ここは具体例を挙げるほうが分かりやすいので、実際の連載作についてお話します。
変換の具体例ー『幼馴染のお姫様』
通称おさひめは、声掛けいただいたのが週刊少年誌だったため、
「ザ・少年漫画ラブコメ…という感じの、複数人ヒロインが主人公を取り合う構図をやりたい」と、担当さんとの初顔合わせで話しました。
実は本当に最初は「ToLoveる」みたいな、現実世界にファンタジーな存在が飛び込んでくる系のラブコメを作ってみようかな!と思い、設定を作っていました。
ただ、やっぱりファンタジー要素無いほうが私には向いてそうだな…と思い、すぐ路線変更しています。担当さんにもこの案は見せてないんですが、すでにヒロイン二人にはひなきと聖花の面影があります。


ここから長い時間をかけ、実際の連載までの間に替わった内容は
タイトル
主人公(駿介)の見た目と性格
ヒロイン(聖花)の性格
兄の消失
学年設定(全員同じクラスに)
「邪魔をする」という展開パターンから変更
一方で、残っているのは
名前
ヒロインのキャラデザ
幼馴染設定
「恋をしなくても幸せ」な関係性を肯定するコンセプト など。
変えた項目の変更理由については、ネーム比較記事で触れているので割愛します。
重要なのは、当初のアイデアから変えていくことを怖がらないこと。
最初に思いついたものが一番いいとは限らず、なんなら最初がベストな方がレアケースです。
わらしべ長者のように少しずつ、面白さに近づいていけばいい。
その感覚を掴めるようになれば、アイデア出し自体のハードルも下がります。あとからいくらでも面白くできる!と思えるので。
ちなみに私は、アイデアメモから実際に使うための変換の過程で
キャラの年齢を変えたり(学園ラブコメを社会人ものに)
キャラの性別を変えたり(男女の性格をひっくり返したりBLから男女ものにしたり)
することで、すんなりプロットが作れた…ということが結構あります。
思い込みや執着から抜け出すためのテクニックのひとつです。
ここまできたら、もう「使えるアイデア」になっています。
もちろんその上で没も全然ありえるんですが、それは「今は出すときではなかった」ということでまた寝かせておけばOK!
アイデア検知のポイント
貯めておくと楽だよ、という記事ではありますが。
今読んでくださっている、
「いや今描くべきものに困ってんだよ!」という方は、そんなに悠長にしてられないですよね。
ストックはゆっくり積み重ねていただくとして、すぐアイデアを「掴む」ための整理のしかたを詳しく書きます。
今描きたいもの=軸×ズレ を突き止める
すご~く平たく言うと、自己理解を深めよう!という話です。
まずは「自分の創作の軸」を見つけます。
私は色んな漫画を読みますし、中にはスポーツ、バトル、サスペンスなどの大好きな漫画があります。
けれど、私がそのジャンルの漫画を描きたいかと言えばそうでもない。
私は「人間関係、特に恋愛」を中心にした漫画を描いていて、特に「関係性の新提案、受容」をテーマに扱うのが大好きです。
私は私に、こういう作品を描いてほしい。
そう思える要素が、「軸」にあたる部分です。
カッコよく言うと、研究分野。作品は論文みたいなものだし。
軸のタイプは人によって違います。キャラクターの属性だったり、特定のスポーツだったり、裏社会の闇だったり、恐怖など感情体験だったり…と色々。
漫画を描きはじめだったりして自分の軸がわからない…という方もいると思いますが、その場合は一旦いろいろ読み、いろいろ描いてみることをオススメします。
自分でも気づいていないこだわりや信念が作品に滲み出ている場合もあります。(ここの発掘なども、ネーム添削などを通してやっていきたいです)
自分にとっての軸がわかっていると、アイデアを見つけるために、どのあたりに目を凝らせばいいかの範囲を絞りやすくなります。
アイデア探しは「まだ無いものを一から生み出す魔法」ではなく、
「自分の研究分野の中で、まだ描いてないものをピックアップする作業」です。
恋愛ものを描きがちな私なので、アイデアも当然そういう話題の周りに漂いまくっています。多すぎるくらい。
ここからどうするかというと、今度は「ズレ」を意識していきます。
今まで描いた作品や設定から、ちょっとズレるものを探すんです。
・そういえば、先生と教師のラブコメって描いたことないな。
・女の子が強気っぽい性格続いたから、ちょっと別のタイプを描きたいな。
・フラれるところから始まるラブコメってどういうの描けるかな?
なんなら前に描いたものでも「この設定だけ変えてみるだけでもけっこう違うものになるんじゃ?」とかでもいいし。
同じ軸について、少しずつズラしながら観察する楽しさを持てれば、アイデア出しを怖がる必要はなくなります。
アイデアが出せないとき、こうなってませんか?
次の〆切(漫画賞や同人)に間に合わせたい、掲載や連載を決めたい…
そういう目標が見えているのにアイデアを出せずに困っている方が陥っているかもしれない、アイデア逃し行動&思考とその対策を挙げてみます。
頭に浮かんだことを即「でも…」と否定し、メモしない
ジャッジが早すぎる例ですね。
メモして後から見た上で全然使えないことはままあるんですが、掴まないクセをつけてしまうと磨けば光るアイデアも見逃してしまう可能性が高まるので、一旦ぐっとこらえて全部掴んでください。何も損はしないので!
二番煎じになることを極端に怖がっている
これもありそう。「似た作品がもうあったからやめた」ってたまに聞きます。
…まあ避けても全然いいんですが、描く人によって出る個性って侮れないです。出発が同じでも読み味は別物にできるはず。他の要素の追加や組み合わせ次第でも変わります。
そして「読者はそこをそんなに気にしないどころか、ある程度似た設定や展開の作品を欲しがっている」実態をうまく乗りこなすことも大事です。
”神アイデア”を期待しすぎている
ヒット作品のヒット理由を「それを思いつけたから」だと思ってしまう場合要注意です。
⑤変換 の項目で扱ったとおり、アイデアはアイデアでしかありません。おもしろくしていくのはさらに先の部分なので、ここでリセマラをし続けることにそこまでの旨味はありません。
せめて担当や第三者と壁打ちをして客観的視点獲得と自己理解を深め、「軸」を見つけた上での意義あるリセットをしていきましょう。
ダメ出し続きで自信がなくなり、自責と他責の中身がずれていく
なんなら一番よくあるパターン。
ダメ出しって、落ち込みますし自信なくなりますよね…
が、ここで「何を思いついてもダメって言われる。どうせ今回もダメだ」と思ってしまっているのなら、一旦待ってください。
さすがに「何を思いついても」ってほど全てを思いついてはないですよね?
ここは事実と感情を切り分けないといけません。
「何を思いついても、というほどまだいろんなことを思いつけていない」と考えて、現状のアイデアの種類や構造、考え方のクセや表現のズレについて分析する必要があります。
その上で、次回ダメ出しされた際に掘り下げる質問の仕方を変えるもよし、その担当さんとの作品づくりに見切りをつけるもよし。
自分に足りていないところを見直し、相手とのエラーの理由を見極め、建設的にしていくための協力を仰ぐことで活路が見えてきます。
まとめ
今回は、アイデアの出し方から使い方をお話しました。
”一発ヒット確定の神アイデア”を待ってはいけない
玉石混交に漂うアイデアを、自分から掴みにいく必要がある
漫画として使える形に整える際、掴んだときの形を保つ必要はない
このあたりが伝わっていたら嬉しいです。
特に、創作において「自分の軸」をすでに見つけられている方。
すでに選ばれた位置にいて、そしてきっと作品を待っている読者がいます。
本来、アイデア段階で詰まる必要のない資質がすでに備わっていると思います。
ぜひ、たくさん漫画を描くための一助となれたらいいなと思います。
次回予告
描きたいものが決まったら、どうします?
描くよね。漫画を。
で、読んでもらいたいですよね。一生懸命考えて描いたんだから。
今回、言いました。
アイデアの時点で誰が見ても面白いなら、漫画家なんていらなくない?
これは裏を返せば、
どんなにアイデア自体がよくても、漫画家がうまくやらないとおもしろさを伝えられない ということなんです。恐ろしい…
ということで次回テーマは
親切なネームを描いて、たくさんの人に読まれよう!
です。お楽しみに!
9℃
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ありがとうございます!これからも頑張ります。