まとめて勉強しても意味がなかった。「分散学習」を知ってから暗記の考え方が変わった
浪人時代、試験前日に8時間詰め込んで「完璧に覚えた」と思った日本史の年号が、1週間後には半分以上消えていた。
そのとき「自分は記憶力が悪い」と思ったけれど、今にして思えばそれは記憶力の問題じゃなくて、勉強のスケジューリングの問題だった。短期間に集中して詰め込む「まとめ勉強」は、その瞬間は頭に入ったように感じるが、長期記憶として定着させる方法としてはあまり向いていない。
それを知ったのが「分散学習」という考え方だ。
まとめ勉強 vs 分散学習、何が違うのか
分散学習(Distributed Practice)とは、同じ量の勉強を、一度にまとめてやるのではなく、時間を空けて少しずつ繰り返すことで記憶の定着率を高める学習法のことだ。
わかりやすい例で言うと——
まとめ勉強:単語帳100個を今日3時間かけて全部やる
分散学習:単語帳100個を10日に分けて毎日30分ずつ復習する
かけている合計時間はほぼ同じでも、数週間後の記憶の残り方が圧倒的に違う。認知心理学の研究では、分散して学習したほうがテストの成績が良くなるという結果が繰り返し報告されている。これは「間隔効果(Spacing Effect)」と呼ばれる現象で、1800年代から研究が続いている非常に再現性の高い知見だ。
直感に反して感じる人も多いと思う。「まとめてやったほうが集中できる」と感じるのは事実で、そのぶん「覚えた感」も強い。でも記憶の定着という観点では、分散したほうがずっと優れている。
浪人時代に学んだ「まとめ勉強の限界」
自分が分散学習の重要性を身をもって知ったのは、浪人の後半だ。
前半は「今日はこの範囲を完璧にする」という一点集中型でやっていた。一日でその単元をやりきった充実感はあるのに、2週間後に模試で同じ問題が出ると答えられない、という経験を何度も繰り返した。
特に手ごたえがあったのに裏切られたのが、英単語だった。その日に100個やって「全部言える」という状態にしても、1週間後には30〜40個しか言えなくなっている。最初は「今日確認できたのに」とショックを受けていたが、これはエビングハウスの忘却曲線が示す通りで、放っておけば人間の記憶は急速に薄れる。記憶力の問題ではなく、そういう仕組みなのだと知ってからは少し気が楽になった。
「覚えた気」と「覚えている状態」は別物だと気づいたのは、その繰り返しがあったからだと思う。
後半から意識的に変えたのは、「今日新しいことを学ぶ時間」と「以前やったことを復習する時間」を毎日両方確保することだった。片道1時間の電車通学を活かして、電車の中では新しいインプットをせず、前日以前にやった内容をひたすら思い出す復習だけをするようにした。
地味で手応えの薄い作業に感じたけれど、2ヶ月もすると「あ、これもう忘れていない」という感覚が増えてきた。
分散学習を習慣にするコツ
分散学習をうまく回すためには、「いつ、何を復習するか」を管理する仕組みが必要になる。
ただ闇雲に「前にやったやつをもう一度見る」では、すでに覚えているものばかり復習してしまい効率が悪い。理想は「忘れかけたタイミングで復習する」こと。完全に忘れる前に引き出す練習をするのが、記憶の強化として最も効果的だとされている。
具体的な実践方法としては——
復習の間隔を広げていく 覚えた直後に1回、翌日にもう1回、3日後にまた1回……というように、正解できるたびに次の復習までの間隔を少しずつ伸ばしていく。これが「間隔反復(Spaced Repetition)」と呼ばれる手法で、分散学習の最も洗練された形だ。
毎日少しずつを続ける 一番難しいのはここだ。まとめ勉強のほうが「今日やった感」があって気持ちいい。でも毎日15〜30分、前にやった内容を少しだけ引き出す練習を続けることのほうが、長期的な記憶の形成には効く。
続けにくい理由のひとつは、「今日の復習」の対象が何なのかを把握し続けるのが面倒なことだ。何日前に何をやったか、自力でトラッキングするのはすぐに破綻する。そこで役に立つのが、間隔反復に対応したフラッシュカードアプリだ。「今日復習すべきカード」を自動で出してくれるので、管理の手間なしに分散学習のリズムを続けられる。
きおくまで間隔反復を自動化した
医学部に入ってからは、分散学習を自力でスケジュール管理するのが現実的に難しくなった。覚えるべきことが多すぎて、「この内容を次いつ復習するか」を手動で管理する余裕がない。
そこで使い始めて、最終的に自分で作ることにしたのが「きおくま」だ。エビングハウスの忘却曲線に基づいた間隔反復のアルゴリズムで、それぞれのカードをいつ復習すべきか自動でスケジュールしてくれる。「今日復習すべきカード」だけが出てくるので、すでに定着しているものを繰り返し見る無駄がなく、忘れかけているものに集中できる。
iPhoneだけでも普通に使えるので、移動中や少し時間が空いたときにサッと開いてカードをめくるだけでいい。iPadで勉強している場合は、GoodNotesと並べて開きながらカードを作れるので、ノートを見ながらそのままカード化できて作業がスムーズだ。
まとめ
「詰め込んだのに残らない」という経験があるなら、勉強のスケジューリングを見直してみてほしい。
まとめて長時間やるより、少量を時間を空けて繰り返す。それだけで、同じ努力量でも記憶への定着のしかたがまったく変わってくる。分散学習は地味で実感が湧きにくいが、続けていると確実に「忘れなくなってきた」という手応えが出てくる。
ひとつだけ注意しておきたいのは、「時間を空けて繰り返す」ことと「なんとなく見返す」ことは違うということだ。ただ教科書や単語帳を開いてパラパラ読み返すのは、分散学習の効果を十分に引き出せていない。「思い出そうとする」という能動的な作業を、少し時間を空けてから繰り返す——そのセットがあって初めて記憶の強化につながる。
長期記憶として本当に自分のものにしたいなら、今日一日で完璧に仕上げようとするよりも、明日も明後日も少しずつ引き出し続けるほうが近道だ。勉強のやり方を変えるだけで、同じ時間でぜんぜん違う結果が出てくる。
