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137.『伝説の弟子の弟子』|勝手に脚本会議

伝説になった人がいた。
その弟子は“継ぐもの”として、
いつしか伝説になる。

じゃあ
伝説の弟子の弟子は、何者になればいい?

ふたつの影に怯えながらさ。

◆ 冒頭

天才は何人もいて
どこにでも、いくつも“伝説”がある。

「伝説の弟子の弟子」になってしまった人々に出会った。彼らはみんな、少し迷って、少し笑って、最後に少しだけ前に進む。

◆ 設定

特別な魔法も能力もない世界。
ただひとつだけ特別なのは
主人公たちはみな、
「伝説の◯◯」の“弟子の弟子”という微妙な肩書きを持つ。
伝説に困惑しながらも、自分なりの道を見つけていく。

◆ 登場人物

● 第1話主人公:星野ミオ
大手ホテルチェーンの新人。
気が弱く、失敗ばかり。
師匠は支配人の白石。
その師匠は伝説のホテルマン"ミスターパーフェクト"。

● 第2話主人公:大原シュウト
売れっ子女優のマネージャー。
恩人は事務所の副社長。
その師匠は"伝説の荷物持ち"。

● 第3話主人公:橘ののか
雑誌記者。ロジック人間。
大学院時代の行動経済学の指導教授を尊敬している。
教授の師匠は"東京の母"。

● 第4話主人公:水瀬リョウ
音大生。コンクール入賞常連の若手ピアニスト。
師匠は有名なバイオリニスト。
そのまた師匠は"伝説の調律師"と呼ばれた人。

◆ 各話

🏙️第1話:ミスターパーフェクト

—そこにあるのは完璧な部屋と確かな食事、温かい空気。

星野ミオは、また客室のチェックで怒られた。

「ベッドのシーツの角が甘い。やり直し」
支配人の白石は相変わらず厳しい。

“ミスターパーフェクト”と呼ばれた伝説のホテルマンの弟子である現支配人白石。彼もミスターパーフェクトの名を継ぐのだろうか。
ミオはそのまた弟子—つまり、ミオにとっては“師匠の師匠が伝説”。

(私がそう呼ばれるようになったら、ミスパーフェクトだわ!でも完璧って…何?)

その夜、ミオは偶然見てしまった。
従業員専用の鍵をガチャリと開け、白石が客室に入る。

(え…泊まってる? この部屋、確かにお客様は入ってないけど…。もしかして、空き部屋を少なくするため自分で泊まってるの?なんて献身)

少ししてキャップを被り、ジャージ姿の白石が部屋から出てきた。
「今日も疲れた…。ここのベッド最高…。これでカップ酒を買ってきたらもう最高の最高だ」と呟いていた。

ミオ「…白石さん…そのジャージなんですか?」

白石「!? ミオ!なんでいるんだ!」

ミオ「完璧支配人のこんな姿が誰かに見られたら大変ですよ!?」

白石「待て! 俺は…俺はな…ちゃんと料金を払ってここで生活してるだけなんだ!就業時間を過ぎた今はお客様なんだよ!」

ミオ「はぁ、まあそうですが」

白石は深いため息をついた。

白石「…俺の師匠、“ミスターパーフェクト”って呼ばれてただろ?その人もホテルに泊まってたんだよ。それで全部自分のために部屋を整えてたんだよ。お客様のためじゃない。『俺が気持ちよく寝たいから』って」

ミオ「…は?」

白石「しかも今より緩い時代だったから、その人は料金を払わずにだ。食事もビュッフェの残りを厨房でもらってきてな。美味しく食べたいからその人は厨房にも厳しく指導してた」

ミオ「!?」

白石「だけどな、その“ついで”に客も安心したんだ。“誰かが本気で整えた部屋”って、伝わるから」

ミオ「…じゃあ、ミスターパーフェクトって?」

白石「そう。だからミオ。お前は“お客様のために整える”じゃなくていい。“自分が誇れる部屋”を作れ」

ミオは小さく頷いた。

—完璧とは、誰かのためではなく、自分の心を整えること。

翌朝、ミオの整えた部屋を見て、白石は小さくうなづいた。

白石「うん。これは…いいな」

ミオ「ほんとですか?」

白石「じゃあ、今日はこの部屋に泊まるよ」

ミオは認められた気持ちになり帰路についた。

🧳第2話:伝説の荷物持ち

—重いのは、荷物か、心か。

売れっ子女優・榊リサのマネージャー、大原シュウトは疲れていた。

リサ「シュウト君、この本全部持ってくれない?」

シュウト「これ…台本とリサさんが今度出る雑誌…10冊以上ありますけど」

リサ「わがまま言ってるんじゃないの。信頼してるのよ」

(絶対わがままだ……)

そんな彼の恩人である副社長は、芸能界で“伝説のマネージャー”と呼ばれていた。そして、この人の師匠は"伝説の荷物持ち"と呼ばれていた。この人に荷物を持ってもらった芸能人は皆売れた…という噂。

しかし、副社長の本心は違った。

副社長「シュウト、お前…あの噂信じてるのか?」

シュウト「そ、そりゃ…」

副社長は笑いながら缶コーヒーを差し出した。

副社長「俺の師匠が荷物を持ってたのはな。みんな、自分の荷物の重さを知らなかったからだよ。師匠がそうしてたんだ」

シュウト「…え?」

副社長「俺も、マネージャーになりたての頃は、師匠みたいに全部持てば売れるって、信じてたよ。バカみたいにな。けどな、わがままかもって思ってからは、暴露本にできるような芸能人わがままメモを付けてたんだ」

シュウト「…やば」

副社長「けど気づいたんだよ。売れっ子になるほど、荷物が重い。台本、雑誌、化粧品、最近はバッテリーやハンディファン。プレッシャー、嫉妬、スケジュール…。だから俺が持った。ただそれだけ。持ったら売れるわけじゃない。“軽くなる”だけだ」

シュウト「…副社長…」

副社長「師匠はマネージャーじゃなくて本当にただの荷物持ちだったんだ。駆け出しの芸能人は売れればどんどん荷物が重くなっていくことを知らなかったんだ。荷物を持ってもらって初めて軽くなることを知ったんだよ。気持ちもな。そして周りに感謝するようになる」

リサが楽屋から顔を出した。

リサ「シュウトくん、お願いがあるの。荷物…少しだけ持ってほしいの」

シュウト「…わかりました。全部じゃなくて、少しだけ持ちます」

リサ「…そうね、ありがと。台本は自分で持つわ」

シュウトは思った。

(荷物持ちの意味って…重さじゃなくて、寄り添うことだったんだ)


🔮第3話:東京の母

—占ってもらってるのは未来じゃない。

雑誌記者・橘ののかは、取材対象が気に入らなかった。

ののか「“錦糸町の母”って…占いで成功者を導く?そんなの理論的じゃないじゃん」

師匠の行動経済学教授は言う。

教授「ののかくん、“伝説の本家”に会いたくないか?私のフィールドワークの一環としてね」

教授の師匠はなんと、飲み屋で隣の客を占って酒を奢ってもらう路上占い師。その人こそ“東京の母”の元。

ののかは半ば呆れながら、居酒屋でその人物と対面した。

教授「師匠。ご無沙汰してます。私の教え子なんですが占ってもらえますか?"東京の母"として」

占い師「そう呼ばれるのは久しぶりね。どれ、お嬢ちゃん生年月日教えてごらん。ほー、あなたは“ペガサス”ね!」

ののか「動物占い!?」

占い師「じゃあこのマンガ読みなさい。人生が変わるから。」

ののか「え、マンガ!?聖闘士星矢?」

占い師「あと占ってあげたんだからお酒奢りなさい」

ののか「はぁー!?」

占い師は笑った。

教授「ののかくん、一杯くらい奢ってあげてください。私はね、行動経済学で人の行動は全て説明できると思っていたんだ、傲慢にもね。師匠に会って、時々、論理だけでは人は動かないことを学んだ。それが少し、悔しくもあった」

占い師「ふふ、未来なんて当たらないよ。ただね、人は“迷ったとき、誰かに背中を押してほしい”だけなのよ」

ののか「…だからマンガを?」

占い師「そうよ。物語は、人を動かすからね。じゃあ焼酎水割りね。あんたらも飲むかい?」

焼酎水割りを豪快に飲んだののかは不意に胸が熱くなった。
アルコールのせいもあったかもしれない。
占いは、迷った人に“何かひとつ”差し出す行為。
それで人は動き、結果的に成功することもある。

そう思った瞬間、
教授の言っていた意味が分かった気がした。

ののか「…記事、書きます。“迷いを動かす占い師”として」

占い師「いいじゃない。あなた、記者向いてるわよ。」

ののか(アタシ、記者って名乗ってないのに?)

🎹第4話:神の調律師

—その人の調律は人の心をも整える。

音大生・水瀬リョウは才能あるピアニストと言われてきた。
しかし、いつからか本番になると手が震えるようになった。

師匠のバイオリニストはいつも言う。

師匠「僕の師匠は“神の調律師”と呼ばれててね。人の心まで調律した、伝説の人だよ」

リョウ「知ってますよ。もう引退したことも。ボクもその人が現役ならみてもらいたいですよ」

師匠「口聞いてあげようか?君は停滞してるようだからね」

リョウ「えっ!?いいんですか?」

リョウは神の調律師に会いに行った。
穏やかな老人だった。

リョウ「は、初めまして。水瀬リョウといいます」

老人「緊張してるね。じゃあそこのピアノに座って。肩、貸してごらん」

ポン、と軽く叩かれる。
それだけだった。

老人「はい、終わり。コンクール頑張って」

リョウ「…え? これで終わりですか?」

老人「うん。肩ってね、心のスイッチなんだよ

リョウ「心の……スイッチ?」

老人「誰かに“ここにいていいよ”って言われると、人は不思議と音が出るようになる。ワタシはね、ピアノは弾けるけど下手くそでね。コンクールの舞台袖で教え子の肩を叩くくらいしかできなかったんだよ」


リョウの胸に、ゆっくりと温かさが広がった。

本番当日。
師匠「僕もね、師匠に肩を叩いてもらったことが何度もあったんだ。才能があるのに、どこか怖がっているって言われてね。期待に応えたい重圧は、僕もよくわかるよ」

リョウは本番前に、友人に言った。

リョウ「なあ、ちょっと肩叩いてくれない?あ、優しくな」

友人「は? …こう?」

リョウ「ありがとう。」

鍵盤に手を置く。
音が、静かに、まっすぐ出た。

(そっか。“誰かの手”じゃなくて、“自分が許す”ことだったんだ。)

リョウの演奏は、会場を静かに温かく包んだ。


🖊️エピローグ

伝説の実態はいつも小さくて、くだらなくて、
でもどこか優しい。

弟子の弟子たちは、伝説は継がない。
“自分の答え”には辿りつける。


クボタヤマダ

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