ポーキュパイン戦略をビジネスに活かす
皆さんはポーキュパイン戦略をご存じでしょうか?
先日台湾有事が高市首相の発言で話題になりましたね。
ポーキュパイン戦略は、この台湾が中国からの軍事侵攻を防ぐための戦略として、元参謀総長らによって提案された「包括的防衛概念 Overall Defense Concept 」の中核を成すものです。
<ポーキュパイン戦略とは>
ポーキュパインPorcupineは、英語でヤマアラシの意味で、フランス語の“とげの豚”PorcDepineが語源だということです。ヤマアラシは、俊敏でも巨大でもありませんが、強力なトゲがあり、捕食者は安易に手が出せないのです。

ポーキュパイン戦略はこのヤマアラシのように、敵の攻撃を受けた際、全身の針を立てて、触ると痛いと思わせ、敵の侵攻意欲をそぎ、攻撃を止めさせようとする考え方です。
敵と同じように、高価で強力な戦艦や航空機を揃えるのではなく、より小型で安価な、しかも機動性に富んだ移動式ミサイルや水中機雷、ドローンなどを配備し、少ない予算で敵に大きな損害を与えることを目的としています。
<ビジネス戦略への応用>
(敵対的買収の防衛策)

ビジネス戦略において代表的な応用として挙げられるのが、大企業から敵対的な買収を受けた際への対策です。
軍事作戦同様、攻撃力よりも防御力を高め、買収コストを引き上げるのです。
具体的には、取締役会を権限強化したり、買収者に不利な新株予約権を発行したりして経営権を守ろうというものです。
敵との正面衝突を避け、「ここに攻撃すると痛い目を見るな」と思わせることで、生き残りを図る戦略です。
(資産保護戦略)
特許や商標、著作権といった知的財産権を積極的に取得します。
また、顧客との長期契約などで強固な顧客基盤を作り、他社が入り込みにくい状況を作るのです。
(参入障壁を構築)
他者が容易に真似のできない独自の技術の開発に力を注ぎ、業界認証や許認可を数多く取得したり、独占的な販売ルートを確立したりして、簡単に模倣や参入が出来ないようにするのです。
(ニッチ戦略)

これらはニッチ戦略とも呼べるものです。
〇 独自技術で差別化=技術ニッチ
〇 特定流通経路の独占=チャネルニッチ
〇 特殊な顧客ニーズに特化=特殊ニーズニッチ
〇 地域限定展開=エリアニッチ
〇 市場規模を意図的に制限=ボリュームニッチ
〇 供給量を抑制し希少価値を創出=限定供給ニッチ
〇 オーダーメイドに特化=カスタマイズニッチ
〇 切り替えコストを高く設定=スイッチングコストニッチ
〇 縮小市場で最後まで生き残る=残存ニッチ
などが挙げられます。
<ポーキュパイン戦略の弱点>
ポーキュパイン戦略は、防御に特化しているため、いくつかの弱点があります。
〇 柔軟性があまりないため、状況の変化に迅速に対応できないことがあります。
例えば、敵の侵攻に焦点を当てていると、封鎖や経済圧力には効果が薄いということがあります。
〇 過度に依存すると、サイバー攻撃や経済封鎖、に対する準備が不十分になることがあります。
〇 長期的に高いコストがかかり、他の分野への投資が制限されてしまうこともあります。
〇 反撃能力が不足しているため、敵の攻撃に十分に対応できないことがあります。
〇 敵がポーキュパイン戦略の弱点を突く戦術を用いてくる可能性もあります。
これらの弱点を補うために、他の戦略と組み合わせて、様々な脅威に対応できるようにしなければなりません。
<ポーキュパイン戦略と日本的商習慣>
〇 日本では、露骨な主張は嫌われるため、はっきり断らず、お互い察して事が進んでいきます。
これは外部から非常に参入しづらい壁、つまり鋭いトゲとなっています。
〇 日本では、長い付き合いが優先され、少々高くてもいつものところに行くという習慣があります。
行きつけの店、かかりつけの医者、気心の知れた業者が安心感を与えてくれるため、無理に変える理由もないし、変えるのは面倒だといって競合他社が入り込みづらい状態になっています。
〇 特に日本では、商品よりも誠実な人柄が重視され、「商いは人なり」とされてきました。
〇 製造現場でも、マニュアル化できない熟練の技が受け継がれて来ており、これはAIにも大手にも真似できず、強力な折れないトゲとなっています。
このように日本的商習慣では、競争で勝つよりは信頼から外されない存在であり続けることを最優先としているのです。
そのためにこれまでは他社比較、価格競争、即決を促す行動をしないようにしてきたのです。
<より身近なビジネスシーンへの応用>
「私を攻撃したり、軽視したりすると高くつきますよ」というように、勝たなくていいから手を出されない存在になるというポーキュパイン戦略の基本的思想を身近なビジネスシーンに応用すると、自分の領分を守り、不当な扱いや安売りを防ぐためのセルフディフェンスとなります。
(商品より人)
商売に於いて一番大事なのは人です。
「この人じゃないと困る」という状況を作るのです。
価格勝負ではなく価格比較ができないようにするのです。
つまり、「一番安い」かどうかは比較されますが、「一番わかってくれる」というのは比較できず、他から攻撃されないのです。
常連だけが知る裏メニューだったり、入荷前の連絡や、うわべではない本音によるアドバイス、さらに「今日はまだ早いです」、「まだ買わなくていいです」、「あなたには合わないです」などの売らないカウンセリングも有効になります。
(広くより深く)
幅広い顧客を集めるのもいいですが、より深く顧客を知ることも重要になります。
顧客の生活リズムや、価値観や好き嫌いなどを把握することで、提案がより顧客にピッタリなものになって行きます。
いちいち説明しなくてもいい安心感や、価値観を理解されている、過去のことを覚えていてくれる感覚があると、人はそれをわざわざ変えることが面倒くさくなるのです。
(何でも引き受ける人にならない)
「あの人に頼めば何でもやってくれる」と思われると、便利屋扱いされて本来の自分の仕事に集中できなくなります。
気軽に「いいですよ」ではなく、「承知しました。それではこのフォーマットに依頼内容を記入し、上司の承認を得たメールを送っていただけますか」というように、一定の手順を要求することで、「この人に頼むのは面倒だ」と、本当に必要な依頼だけが来るようになります。
(安売りを防ぐ)
顧客からの過度な値引き要求や、無理な納期設定に対しては、「値下げする代わりに、納期を1か月伸ばし、代金を前払いでお願いします」ということで、「安易に値切るとこちらも不都合が生じる」と認識させることができます。
(キャリア防衛)
リストラや不当な配置転換を防ぐため、ビジネス上のキーマンとの人間関係強化や、過去の複雑な経緯の把握など、自分がいなくなると困る状況(トゲ)を作っておくことです。
(心理的攻撃を防ぐ)
感情的なバッシングを受けたり、手柄を横取りされたりすることがあります。
これらを防ぐために、指示は必ずメールなどの文章で残し、口頭での指示も「~の件は~という理解で間違いありませんか」と念押しして再確認し、常に記録や証拠を残すというトゲを立てておきます。
そうすると、「こいつを攻撃したり陥れたりしようとすると、証拠を突き付けられてこっちが逆に不利になってしまう」と、ターゲットから外れるようになります。
<まとめ>
ポーキュパイン戦略をビジネスに活かすポイントは、「攻撃的になること」ではなく、「面倒な存在」、「コストがかかる存在」になることです。
〇 どこまでが自分のトゲが届く範囲なのかを明確にして把握しておくこと。
〇 相手がルールを破ったら、正当な手続きで反撃又は拒否できるように準備しておくこと。
〇 感情的にならず、笑顔で淡々と「ルールですから」とトゲを見せること。

このようにして、「礼儀正しいが、決して侮れない人」になる、これこそがビジネスにおける最高のポーキュパイン戦略と言えるでしょう。
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