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掌編小説|真冬のヒマワリ

もうこれで終わり。

エリは、立ち上がり、スマホをベッドに投げた。
勢いよく跳ねたそれが、フローリングの上で大きな音を立てる。
画面が割れたかどうかなんて、もうどうでもよかった。

今日は、美術館に行くはずだった。
記念日でもなんでもない、ただの約束。
でも、エリにとっては軽く扱われていいものではなかった。

どうしてシュウは、いつもこう勝手なんだろう。

「ちょっと長崎に用事ができたから行ってきます。ごめん。」

は?ごめんじゃないよ。
LINEで済ませるな。
用事って何?なんで飛行機で行くところに急に用事ができるわけ?

……馬鹿にしてる。

約束は、あえなく長崎に負けた。

エリは、窓の外の抜けるような青空と、うっすらと浮かぶ雲に目をやった。

まぁ、彼にとっては大事な何かが長崎にはあるのだろう。
それは、エリには想像もできない。
親戚かもしれない、旧友かもしれない。まさか、女?

もう、考えるのも疲れた。
胃がむかむかする。

運命の人。
そうだとして、それがなんだと言うのだ。
もう、誰かに翻弄される人生はまっぴら。

あの風来坊。

どこから来て、どこへ行くつもりなのか。
「あなたはだあれ?」
時々そう聞きたくなった。

エリは、髪をぐしゃぐしゃとかきあげると
居ても立ってもいられず、化粧もせずに家を出た。
とにかくたくさん歩きたい気分だった。

スニーカーの紐がほどけそう。
でもそんなこと、もうどうだっていい。

冷たい風のせいで涙が止まらない。
そういう体質なのだ。
体質だからだと、思いたかった。

肺の中まで冷たい風が入って、呼吸がしにくい。
それが心地よかった。

と、なぜこんな季節に?
寒空の下、ヒマワリが一本だけ咲いていた。

ただただ濃い黄色の花びらをたくさん蓄えて、そこに輝いている。
寒さなんて関係ないと、堂々と顔を上げている。

誰にも何も言わせない。その強さがまぶしくて、目が離せなくなった。

ふと、エリは靴紐がほどけそうだったことを思い出し、ぎゅっと結んだ。
肩にも手足にも、ぐっと力が入る。

エリはその勢いで立ち上がった。

遠くの空には鳩。
気持ちよさそうに羽根を広げて飛んでいる。

……どうしてあんなふうに飛べるんだろう。
飛ぶとき、ちゃんと許可とりましたか。

腹立つ。

自分勝手で突拍子もなくて、深い考えはなさそうな人。
でも、時々寂しそうにうつむく横顔。

反動なの?だとしても。

エリは、くるっと向きを変え、来た道をゆっくりと歩き始めた。


部屋に戻ると、スマホが鳴っている。

うわ。

エリは、スマホをゆっくり手に取った。

そして、さっき咲いてたヒマワリみたいな、鮮やかな黄色のセーターの袖を、じっと見つめていた。





あとがき

noteを始めてから、物語を書いていらっしゃるクリエイターさんたちに刺激を受けて、私もいつか書いてみたいなと思ってきました。

これは、私がランダムに引いたタロットカードから、インスピレーションを得て書きました。

一人称エリですが、私はどっちかというと、風来坊野郎の方かもしれないと思いました。

#なんのはなしですか

書くことを楽しむ世界を見せてくださったコニシ木の子さんと、クリエイターの皆さまに感謝を申し上げます。



その後、この記事のタロット解説記事も書いてみました。

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