絶望的な狭小物件を、予約の取れない「海底列車」に変える
デザイナーという仕事をしていると、時折「無理難題」という名のギフトをもらうことがある。
現場は、上野駅近くの雑居ビル5階。約29坪(95㎡)の空間だった。元々は個室居酒屋で、狭い通路の両サイドに個室がぎっしりと並んでいた。
クライアントからの要望はこうだ。
コロナ禍で居酒屋業態が苦戦する中、この店をターゲット層を変えて客単価を上げるため、創作フレンチのアクアリウムレストランへと業態変更したい。実は前年、同じオーナーが経営する新宿三丁目の居酒屋をアクアリウムダイニング「ジュマーレ」に改装し、予約半年待ちの人気店へと押し上げた成功体験があった。その利益だけで、コロナによる他の全店の赤字をカバーできたという。今回もその魔法を、というわけだ。
しかし、現場で図面と睨めっこしていた僕は頭を抱えた。
厨房の位置は変えられないという絶対条件があった。その制約の中で、ビジネスとして成り立つ最低限の席数を確保しようとすると、メイン通路の幅はわずか「85センチ」しか残らなかったのだ。85センチ。それは、お客さん同士がすれ違う際に、お互いに半身にならないと通れないほどの狭さである。
フレンチレストランという高級業態には、本来ゆったりとした空間が不可欠だ。いくら水槽を置いて美しく飾っても、この息苦しい狭さでは、フレンチとしてのイメージダウンにつながりかねない。
どうすればいい?
この「狭さ」という物理的なハンデを前に、狭くても高級業態が成り立つような、お客様が心から納得できる「口上(理由)」が必要だった。
映画を観ていて降りてきた閃き
行き詰まっていた僕にヒントをくれたのは、たまたま観た『スノーピアサー』という列車の映画だった。
画面の中を疾走する列車。その狭い通路を見た瞬間、僕の脳内で点と点が繋がった。
「そうだ。高級な客室列車であれば、通路が狭くても違和感がないのではないか?」
そこから、この空間のコンセプトが一気に組み上がっていった。
『海底を走る豪華列車の旅。車窓から魚たちを眺めながら、優雅な食事のひと時をお楽しみください』
この物語(コンセプト)があれば、狭くても違和感なく楽しんでいただけるはずだ。
言葉を空間に翻訳する作業
もちろん、僕たち空間デザイナーの仕事は、この口上を文章でお客様に届けることではない。一歩この空間に踏み込んだ瞬間に、説明しなくても「ここは海底列車の中だ」と伝えることが重要なのだ。
上野という土地柄、ターゲットはデート客に設定し、カップルシートを多めに確保することにした。
* 車窓の演出: 列車の車窓を模したフレームに水槽を設置した。
* 錯覚の魔法: 4人掛けの個室はかなり狭い空間だが、狭さを感じさせないようミラーを多用した。
* 水面の記憶: カップルシートを囲うエッチングガラスは水が流れる様子をイメージし、天井の波打つステンレス板で水面を想起させるようにした。
さらに、円筒形の半円形の水槽を囲むようなカップルシートもデザインした。席に座ると、周囲の円筒形ガラスの内側に中心の水槽が映り込み、まるで360度水槽に囲まれているような、幻想的な風景を楽しめる仕掛けだ。
空間は、ビジネスの最強の武器になる
アクアリウムレストラン「ノーチラス」は無事に竣工した。
▼アクアリウムレストラン・ノーチラス写真集▼

「狭小物件」という絶望的なハンデは、コンセプトの力とデザインの魔法によって、唯一無二の魅力へと反転した。物理的な制約は、時にデザイナーの創造力を極限まで引き出してくれる。
空間デザインは、単なる装飾ではない。それは、収益と集客を最大化し、ビジネスを強力にブーストするための戦略的空間なのだ。
あなたがもし、店舗の広さや形状、あるいは集客の壁にぶつかっているなら。僕たちがデザインの力で、その壁を突破するお手伝いができるかもしれない。
僕たちKTXアーキラボのこれまでの挑戦(作品集)は、ぜひこちらから覗いてみてほしい。
▶︎ KTXアーキラボオフィシャルホームページ
