私の架空の妻日記
妻の口ぐせは『なんで?』である。
例えば一緒に夕食を食べている。
妻が『美味しいね』と言い、それに相づちとともに『うん』と返事をする。
すると二言目には『なんで?』が返ってくる。
言葉のラリーにしてはあまりに早い『なんで?』に、
むしろ私が『なんで?』な気持ちなわけだが、
どうやら妻は理由とセットでないと気が済まないようだ。
うん、とか、すん、といった類いの相づちではダメなのだ。
母親の腹の中に共感能力を忘れてきた(と本人が言っていた)らしい妻にとっては、
共感されるだけのコミュニケーションは無意味を意味する。
『美味しいね』の次の私の言葉は、
『うん、スープがあっさりしてるけどちゃんと鶏出汁のコクがあって細い麺とよく絡んで美味しいね』というようなアナウンサー顔負けの食レポでなければならない。
共感ではなく、
あくまで私が、
なぜ美味しいと思ったのか、
をきちんと伝えねばならないのである。
では逆に、私が『美味しいね』と言った場合。
妻はどんな食レポをしてくれるのかというと、
『うむ!』もしくは『うまい!!』あるいは『ハピ!!!』というような返答だろう。
納得がいかないなどと思ってはいけない。
追撃しようものなら、
『味をちゃんと食べたいから話しかけないで』
などと言われかねない。
妻の口ぐせは『なんで?』であるが、
私が妻に対して『なんで?』と思うことも多々ある。
例えば駅から家までの帰り道、コンビニに寄ったとする。
妻はアイスを買ってご機嫌に外に出る。
さっそく袋を開けて嬉しそうに食べはじめるのだが、私は『なんで?』と思う。
妻が食べているのがガリガリくんだからである。
言い忘れていたが今は1月で私も妻もダウンジャケットを着ている。
私は初めて、ダウンを着ながら屋外でガリガリ君を頬張る人類を、見た。
いや、逆かもしれない。
妻が人類史上初めてダウンを着ながら真冬ど真ん中の寒空の下でガリガリ君を食べて、私はそれをたまたま目にすることができただけかもしれない。
しかもソーダ味。
ガリガリ君ソーダ味のあのパッケージデザインは、冬に見ると敵の体感温度をマイナス5度にするバフがついている。
などと考えている間に私は2回身震いをした。
妻も身震いしていた。
