文化摩擦を設計で解く ─ 銀座マナーブック制作記録⑤
仕事場の記憶 Vol.18—注意を“提案”に変えるための、言葉と伝え方の設計。
このシリーズは、私が長年立ち続けてきた“現場”の記憶です。
変化の激しい時代の中で、自分がこれまでどんな現場に立ち、どんな熱狂を作ってきた人間なのか。その足跡を具体的に残すために、この「仕事場の記憶」を綴っています。
光と音の温度、人の表情、空気の重さ――言葉では残らないものを記録しています。
どう伝えるか。
注意を“提案”に変えた
優先順位が決まり、冊子の骨格が見えた。
だが、最後にもう一つ、大きな判断が残っていた。
どう伝えるか。
内容が正しくても、伝わらなければ意味がない。
強く言えば反発が生まれる。
弱すぎれば届かない。
注意を、提案に変える必要があった。
言葉はできるだけ命令形を避けた。
「〜しないでください」ではなく、
「〜しましょう」に近づける。
禁止ではなく、理由を添える。
流さないで、ではなく
日本では紙は流します。
並んでください、ではなく
列に並ぶことで、スムーズにご案内できます。
設計とは、トーンを選ぶことでもある。
ビジュアルの選択
そして、もう一つの選択があった。
ビジュアルである。
私は、できるだけ中立的なイラストを想定していた。
キャラクターは強い。
強いものは、主題を奪う。
この冊子は、キャラクターを楽しむものではない。
情報を届けるための道具である。
そう考えていた。
だが、銀座側には別の視点があった。
銀座には日本アニメーション株式会社がある。
そして、中国では「ちびまる子ちゃん」の認知が高い。
親しみやすさは、伝達力になる。
その意見は、合理的だった。
最終的に、ちびまる子ちゃんの採用が決まった。
私は今でも、情報の純度という観点では、
キャラクターは強すぎると感じている。
だが、設計は理論だけでは完結しない。
街の意思。
関係者の合意。
伝わりやすさ。
それらを含めて、最終形は決まる。
設計とは、最適解を押し通すことではなく、
合意解を形にする作業でもある。
完成した冊子は、三つになった。
同じ街の問題でも、
立場が変われば、文章の構造はまったく変わる。
観光客向けの
「How to Enjoy the Town of Ginza」英語・繁体字版。
同じく観光客向けの
「How to Enjoy the Town of Ginza」英語・簡体字版。
そして、スタッフ向けの
「GINZA Hospitality Guide」。
ここに、実際の誌面の一部を載せる。



例えば、トイレのページ。
ボタンのイラストを大きくし、
文字は最小限に抑えた。
理由は単純だ。
読んでもらうのではなく、
瞬時に理解してもらうためである。
多言語対応は、翻訳ではない。
構造の再設計だ。


スタッフ向けのページでは、
逆に背景説明を厚くした。
観光客に「どう伝えるか」を
スタッフが理解できる構成にしている。
同じ問題でも、
立場が変われば文章の設計は変わる。
だから冊子は二種類必要だった。
さらに、言語は一つでは足りなかった。
文化摩擦は、なくならない。
街が開かれている限り、
異なる価値観は必ず交わる。
だが、衝突を放置するか、
設計するかで、街の未来は変わる。
分解し、
整理し、
優先順位を決め、
伝え方を設計する。
それは、銀座だけの話ではない。
もし、同じような摩擦を抱える場所があるなら、
やるべきことは、いつも同じだ。
感情ではなく、構造から始める。
私は、そのための設計を仕事にしている。
次章は、銀座マナーブック制作記録 総括
現場が疲れているなら、誰かが悪いのではなく、構造が詰まっている。
私は、現場に入り、詰まりを解きます。
企画や台本に限らず、構造や判断軸を整理する必要がある現場があれば、プロフィール欄の記事をご覧ください。
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✒入門編はこちら
この文章の背景にある、仕事と記憶の出発点については、
こちらにまとめています。
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