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仕事場の記憶 特別編①|NIKE MONSTER HOUSE(2004)完全版

Fear No Monster. ── 光と音が刻んだ、2分間の記憶。恐怖を超え、自分の中の“モンスター”と向き合う。

これは、演出家の視点から描かれた “体験が生まれる現場”の全記録。

ナイキモンスターハウスへようこそ。


Welcome to Nike Monster House.


2004年、皇居外苑 北の丸公園の科学技術館に“スピード”をテーマにした謎の空間が出現した。
その名は「NIKE MONSTER HOUSE」。
スポーツと心理、光と音が交錯する“体験の実験場”。
このプロジェクトは、NIKEが掲げた「Fear No Monster.」という言葉を、
“空間”で具現化した初めての試みだった。

Fear No Monster.(どんな怪物も恐れるな)

照明・音響・造形・仕掛け・脚本が一体となり、
来場者は約2分間で自分の中のモンスターと向き合う。

これは、その現場に立っていた一人の演出家による記録。
広告でも、イベントでもない、
“体験の記憶”としての物語。


第1章 “怪物”の誕生

プロジェクトの始動は、4月初旬。
2004年の真夏にアテネで開催される世界的なスポーツのビッグイベントに向けたプロジェクト。Nikeのグローバルテーマは「SPEED」だった。
NIKEから届いたブリーフには、こう書かれていた。

SPEED、それは「反射」と「判断」、そして「集中」である。
スポーツを科学する。
人間の中に潜む“スピードの本能”を体験として可視化できないか。

Nikeブリーフィング資料より

その問いから、「NIKE SPEED LAB」という企画が始まった。

反射・判断・集中──
この3つの要素を、映像や音、空間演出を通して鍛える。
参加者はテストを受け、トレーニングを重ね、自らのSPEEDを高めていく。
最終的には、トップアスリートの“究極のSPEED”に挑戦する。

それは、科学と肉体、そして精神をつなぐ、体験型の研究所のような構想だった。

やがてNike Japanにおいて、この企画は、“SPEED”というテーマの核を保ったまま、もう一つのキーワード──「MONSTER」を得た。

この素晴らしい発想はW+Kの米村さん。
開催される季節は夏、かつて、日本の夏と言えば“怪談”が風物詩だった。
このシンプルな発想が“スポーツ”に繋がった時、
“怪物”という言葉へと発展した。

江川卓や松坂大輔のような卓越したアスリートを、
人は“怪物”と呼んだ。
人間離れしたスピード、反射、集中力。
それを、誰もが自分の中で体験できる空間にしたらどうなるか。

そうして「MONSTER HOUSE」という名が生まれる。

第2章 会場を探す ― 怪物の棲み処を探して


NIKE MONSTER HOUSEの構想が動き出した春、
最初に始まったのは、「場所を探すこと」だった。
この空間は、ただの展示やイベントホールでは成立しない。
“都市のどこかに潜む怪物の棲み処”──
そんな場所を見つける必要があった。

私たちは、都内と横浜を中心に80を超える候補地をリストアップした。
新宿、渋谷、恵比寿、原宿、六本木、そして臨海地区。
Excelのシートには、ホールやクラブ、洋館、倉庫、駐車場といった
あらゆるロケーションの名前が並んでいた。

「SPEED」は都市の中で生まれる。
だからこそ、街の鼓動と呼応する“生きた会場”でなければならなかった。

渋谷エリア ― “カルチャーの心臓”は狭すぎた
最初に調査対象となったのは、
Shibuya O-West、CLUB QUATTRO、ドクタージガンズなどのクラブやライブスペース群。
だが、どの会場も面積が200㎡前後と小さく、
“スピードを体験する”には限界があった。
搬入経路の制約、機材設置スペース、体感スペース──
渋谷という街の熱量と、NIKEの挑戦は、
物理的に共存しづらかった。

歴史ある洋館、半分廃墟のビル
同時に検討されたのは「洋館」や「ギャラリースペース」、「廃墟」など。次々と打診が進んだ。
小笠原伯爵邸、和敬塾本館…。
それらは美しくも格式が高く、
“恐怖”より“品格”が勝ってしまう。
六本木の一等地でいわくつきの「TSKビル」地下フロアは、映画のセットを思わせる様な怪しさ一杯のスペースだったが、このプロジェクトが求めているのは、もっと生々しい緊張感だった。

新宿・千駄ヶ谷 ― 機能性はあるが、スピードの匂いがしない
東京体育館、新宿NSビル、スペース・ゼロ。
どれも設備は整っており、照明や電源容量の面でも申し分なかった。
だが、あまりに整いすぎていた。
スピードの実験場には、もう少し“ノイズ”が必要だった。
壁にひびが入り、鉄骨が剥き出しの空間。
その荒々しさが、観客の感情を刺激する。
それを求めて、チームはさらに湾岸へと足を伸ばす。

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