見出し画像

🦋メイ&カレン09|荷車は戻ってこない

今日は年に一度のカーニバルの日。

昨日はあまり眠れなかった。
市場へ行くからだけじゃない。
誰かと一緒だから。

朝からメイは落ち着かない様子で、
荷車の窓から何度も外を覗いている。

森の木々が後ろへ流れていくたびに、
待ちきれないように身を乗り出した。

「めっちゃ楽しみ!」

隣に座っているカレンも思わず微笑む。

「わたくしも3年ぶりですわ」

「3年ぶり!? そりゃ浮かれちゃうよね!!」

二人を乗せた荷車は、
ゆっくり市場へ向かって進んでいく。



市場へ着くと、二人はあっという間に人混みの中へ溶け込んでいった。

かわいい雑貨に色鮮やかな食器。
焼きたてのパンの香り。通りを歩くだけで次々と気になるものが現れる。

「ねえ!見て見て!これ可愛くない?」

メイが抱えたのは、
小さなクマのぬいぐるみだった。

「まぁ可愛い。あらっ?こちらも素敵ですわ」

カレンは花模様のカップを手に取り、
光にかざしている。

二人は気になる店を見つけるたびに足を止め、
また歩き出す。

「こっちも見たいですわ」

「あ、待って!あっちの行列も気になる〜」

市場の奥へ進むたびに、新しい店が現れる。
手には少しずつ紙袋が増えていく。

やがて広場の時計が鐘を鳴らす。

ゴーン……

「あら、もうお昼ですわ」

「えっ!?なんかあっという間だね!」

ついさっき着いた気がしていたのに、
太陽はもう高く昇っている。

二人は屋台で昼食を買い、
噴水の近くのベンチへ腰掛けた。

「このパン、おいしい!」

「本当ですわね」

「お昼も食べたし、もう少しだけ見よう」

「ええ。もう少しだけ、ですわっ」

二人は再び人混みの中へ戻っていった。

気になる店を見つけるたびに足を止め、
気付けば紙袋がまた一つ増える。

そうしているうちに、
石畳には長い影が伸び、
日はいつの間にか傾き始めていた。

ようやく帰ろうと広場へ戻った時。

「……あら?」

広場にあるはずの荷車が見当たらなかった。

「……え?」

二人は周囲を見回した。

近くの店主がその様子を見て心配そうに言った。

「帰りの荷車かい?それなら、少し前に出たよ」

「うそっ!最終便じゃ……」

「ああ。今日は夜の特別便が出るはずだよ。
調べてごらん」

二人は慌てて案内を見る。
料金を見た瞬間、メイは手の中の財布を見つめたまま固まった。

「え!た……たっか!!」

特別便は普段の何倍もした。

二人はうつむいたまま、
しばらく何も言えなかった。



「……申し訳ありませんわ」

「え?」

「わたくしがあちこち見たいと言ったから……」

その声は、さっきまでの明るさが嘘みたいに小さかった。

「いやいや、私も一緒になって見てたし」

そう言ったものの、メイも少しだけ居心地が悪かった。誰かが悪いわけではない。それは分かっている。

そこへ、聞き慣れた声がした。

「で、誰が悪いざます?」

振り返ると、
マダム・ザマスが腕を組んで立っていた。

「あっ、マダム」

「メイざますか?」

「いや……」

メイはうつむく。

「それともカレンざますか?」

今度はカレンが黙ってうつむいた。

マダム・ザマスは静かに続けた。

「責める相手が決まったら、
荷車は戻ってくるざますか?」

二人は同時に首を横に振る。

「なら次ざます」

夕方の風が広場を吹き抜ける。

「次に同じことが起きないようにするには、どうするざます?」

二人は顔を見合わせた。

しばらくしてメイが口を開く。

「……市場に着いた時点で、
帰りの時間をメモっておけば良かったかも」

「わたくしも、次からはこまめに時計を見ますわ」

マダムは満足そうにうなずいた。

「それで十分ざます」



帰り道。
軽くなった財布を見つめながら、
カレンがぽつりと呟いた。

「高い勉強代でしたわ……」

「まあね……」

荷車は静かに森へ向かって進んでいく。
窓の外では、夕暮れがゆっくり後ろへ流れていた。

「……でもさ、楽しかったよね」

「ええ。それなら、少しは取り返せましたわね」

しばらくしてメイが言う。

「次は帰りの時間、ちゃんとメモしようね」

「ええ。市場へ着いたら最初にですわ」

二人は顔を見合わせて小さく笑った。



#メイ森
#カレン森



(※この話は実話を元にしています。)

コロナ明け、3年ぶりの飛行機旅行。
久しぶりの空港にはしゃぎすぎて、
搭乗時刻を逃しました😨

1人7,000円で取っていた航空券。
その後、1人60,000円の特別便で帰ることに。当時は笑えませんでした😇

森の小話は、割と日常から生まれます。



暮らしの森には、いろんな住人たちの
物語が詰まっています。
(好きな順路で自由に散策してみてください)



キャラ紹介はこちら⬇︎



順番に歩きたい方はこちら⬇︎


いいなと思ったら応援しよう!