🦋メイ&カレン09|荷車は戻ってこない
今日は年に一度のカーニバルの日。
昨日はあまり眠れなかった。
市場へ行くからだけじゃない。
誰かと一緒だから。

朝からメイは落ち着かない様子で、
荷車の窓から何度も外を覗いている。
森の木々が後ろへ流れていくたびに、
待ちきれないように身を乗り出した。
「めっちゃ楽しみ!」
隣に座っているカレンも思わず微笑む。
「わたくしも3年ぶりですわ」
「3年ぶり!? そりゃ浮かれちゃうよね!!」
二人を乗せた荷車は、
ゆっくり市場へ向かって進んでいく。
◆
市場へ着くと、二人はあっという間に人混みの中へ溶け込んでいった。
かわいい雑貨に色鮮やかな食器。
焼きたてのパンの香り。通りを歩くだけで次々と気になるものが現れる。
「ねえ!見て見て!これ可愛くない?」

メイが抱えたのは、
小さなクマのぬいぐるみだった。
「まぁ可愛い。あらっ?こちらも素敵ですわ」
カレンは花模様のカップを手に取り、
光にかざしている。
二人は気になる店を見つけるたびに足を止め、
また歩き出す。
「こっちも見たいですわ」
「あ、待って!あっちの行列も気になる〜」
市場の奥へ進むたびに、新しい店が現れる。
手には少しずつ紙袋が増えていく。
やがて広場の時計が鐘を鳴らす。
ゴーン……
「あら、もうお昼ですわ」
「えっ!?なんかあっという間だね!」
ついさっき着いた気がしていたのに、
太陽はもう高く昇っている。
二人は屋台で昼食を買い、
噴水の近くのベンチへ腰掛けた。
「このパン、おいしい!」
「本当ですわね」
「お昼も食べたし、もう少しだけ見よう」
「ええ。もう少しだけ、ですわっ」
二人は再び人混みの中へ戻っていった。
気になる店を見つけるたびに足を止め、
気付けば紙袋がまた一つ増える。

そうしているうちに、
石畳には長い影が伸び、
日はいつの間にか傾き始めていた。
ようやく帰ろうと広場へ戻った時。
「……あら?」
広場にあるはずの荷車が見当たらなかった。
「……え?」
二人は周囲を見回した。

近くの店主がその様子を見て心配そうに言った。
「帰りの荷車かい?それなら、少し前に出たよ」
「うそっ!最終便じゃ……」
「ああ。今日は夜の特別便が出るはずだよ。
調べてごらん」
二人は慌てて案内を見る。
料金を見た瞬間、メイは手の中の財布を見つめたまま固まった。
「え!た……たっか!!」

特別便は普段の何倍もした。
二人はうつむいたまま、
しばらく何も言えなかった。
◆
「……申し訳ありませんわ」
「え?」
「わたくしがあちこち見たいと言ったから……」
その声は、さっきまでの明るさが嘘みたいに小さかった。
「いやいや、私も一緒になって見てたし」
そう言ったものの、メイも少しだけ居心地が悪かった。誰かが悪いわけではない。それは分かっている。
そこへ、聞き慣れた声がした。
「で、誰が悪いざます?」
振り返ると、
マダム・ザマスが腕を組んで立っていた。
「あっ、マダム」
「メイざますか?」
「いや……」
メイはうつむく。
「それともカレンざますか?」
今度はカレンが黙ってうつむいた。

マダム・ザマスは静かに続けた。
「責める相手が決まったら、
荷車は戻ってくるざますか?」
二人は同時に首を横に振る。
「なら次ざます」
夕方の風が広場を吹き抜ける。
「次に同じことが起きないようにするには、どうするざます?」
二人は顔を見合わせた。
しばらくしてメイが口を開く。
「……市場に着いた時点で、
帰りの時間をメモっておけば良かったかも」
「わたくしも、次からはこまめに時計を見ますわ」
マダムは満足そうにうなずいた。
「それで十分ざます」
◆
帰り道。
軽くなった財布を見つめながら、
カレンがぽつりと呟いた。
「高い勉強代でしたわ……」
「まあね……」
荷車は静かに森へ向かって進んでいく。
窓の外では、夕暮れがゆっくり後ろへ流れていた。
「……でもさ、楽しかったよね」
「ええ。それなら、少しは取り返せましたわね」
しばらくしてメイが言う。
「次は帰りの時間、ちゃんとメモしようね」
「ええ。市場へ着いたら最初にですわ」
二人は顔を見合わせて小さく笑った。

(※この話は実話を元にしています。)
コロナ明け、3年ぶりの飛行機旅行。
久しぶりの空港にはしゃぎすぎて、
搭乗時刻を逃しました😨
1人7,000円で取っていた航空券。
その後、1人60,000円の特別便で帰ることに。当時は笑えませんでした😇
森の小話は、割と日常から生まれます。
暮らしの森には、いろんな住人たちの
物語が詰まっています。
(好きな順路で自由に散策してみてください)
キャラ紹介はこちら⬇︎
順番に歩きたい方はこちら⬇︎
