暮らしの森|暮らしは半径で整う|メイ
穏やかな森に、
メイのひときわ大きな声が響く。
「ない!ない!リップがなーい!」

さっき使った。
置いた記憶もある。
けれど、その場所が思い出せない。
「なんでいっつもこうなるの〜」
メイは、バタンと勢いよく家を飛び出した。
それから森の小道をばたばたと駆けていく。
「アツコさーん、助けて〜」

「あら、今度は何をなくしたの?」
「なくしてない!……はずなんだけど」
「爪切りも目薬も。
使いたい時に限って、いっつも無いの〜」
アツコは少し首をかしげた。
「置き場所はあるの?」
「あるよ! 引き出しの中って決めた……
はずなんだけど」
「使いたい時には無いのね?」
「うん……」
「じゃあ、一度見に行きましょうか」
二人は森の小道を歩き、メイの家へと向かった。
◆
メイの部屋にて。
アツコは部屋をぐるりと見回した。
床……は、
とりあえず見なかったことにして。
テーブルの上にも、引き出しにも物はある。
でも、それぞれが “なんとなく”
置く場所になっていた。
「メイ、よく使う道具って、一日に何回触る?」
「え? ハサミは郵便を開ける時でしょ。
リップはしょっちゅうかな。
目薬は……あ、今も欲しい」

アツコは苦笑いした。
「それ全部、毎回探してるのね」
メイは力強くうなずく。
「そうなの! 探してる時間が一番長くて!」
「あらあら……。じゃあ、ここに集めましょう」
アツコはティッシュケースを手に取ると、持ってきた布を当て、小さなポケットを縫い付けていった。
針が布をくぐるたび、ケースの横に小さな区切りが増えていく。

「リップはここ。爪切りはここ。目薬はこの小さいポケットね」
メイはリップを取って唇にひと塗りすると、そのままポケットへ戻した。
「あ、戻しやすい」
アツコは静かに言う。
「よく使う道具は、“半径”で決めるの」
「半径?」
メイは首をかしげる。
「立たなくても取れる距離。
暮らしって、その半径で整えると楽なのよ」
メイはもう一度、リップを取って戻し、今度は目薬も手に取って元へ戻した。
「わ! これめっちゃいい!」

アツコは針と糸をしまいながら微笑んだ。
「ふふ。よく使うものはね、
帰る場所を決めてあげるといいのよ」
「アツコさんすごい! ありがとう!」
そう言いながら、
メイはもう一度リップをポケットへ戻す。
やっと決まった帰る場所。
明日こそは探さないだろう。

……メイが、戻すことさえ忘れなければ。
🧵アツコの一言メモ

暮らしの森には、いろんな住人たちの
物語が詰まっています。
(好きな順路で自由に散策してみてください)
メイってどんな子⬇︎
アツコってどんな人⬇︎
