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【企画参加】現実逃避で作ったスーツケースが、私を救った日

人生を変えた“あの日の選択”と言うなら。
わたしはすぐに答えることができない。
そんなに綺麗な一本道じゃなかったから。

わたしの人生を一言で表すなら、
恐らく、『螺旋階段』がしっくりくる。

今日は、そんな螺旋階段の、
一段だけを切り取って話したい。

*  *  *

螺旋階段の入口は全落ちから始まった

あの日もし全落ちしなかったら。
こんなに惨めな気持ちにはならなかった。

高校は進学校だった。

人生の最初の岐路とも言える大学受験で、
第一志望、第二志望、滑り止め、
全部ダメだった。

周りが次々と進路を決めていく中、
最後の最後で滑り込んだのが
保育士の養成学校だった。

別に、望んでた進路じゃなかった…。


入学式。
みんなの顔は希望に満ち溢れていた。

わたしは違った。
全落ち。
ここしかなかったから来た。

進学校だったのに。
こんな偏差値が低い学校に進んだの、わたしだけ。
恥ずかしい…。

自分一人が浮いている気がして、
すごく惨めな気持ちになった。

最初に話しかけてくれた子。

「ねえねえ何コース選ぶ?保育?幼稚園?」

「え……」

コース?
わからない。何を選べばいいのか。

周りに聞いた。みんなと同じでいい。
何になりたいかなんて、
そんなの本当にわかんないんだ。

ワンルームの狭いアパートに帰宅して。
わたしは小さく膝を抱えた。

何やってるんだろう。
進みたくもなかった道に来て。
目指すコースひとつ、自分で決められない。

わたし、親元を離れてまで何したかったんだろう。

授業はついていけた。
でも、困ったのは実習。
心のどこかで、やらされてる感がつきまとった。

評価は散々。

「やる気が感じられません。」
「もっと声を出していかないと、子どもたちはついていきません。」

わかってる…
わかってるよ。
こんなんじゃダメだよね。

どうしたらいいんだろう。
やる気ってどうやって出すの?

そんなことをぐるぐる考えながら、実習に向けた紙芝居とか指人形なんかを、黙々と作った。

手を動かしている間だけは、無心になれる。
嫌なことを考えずに済んだ。

嫌で嫌で仕方がなかった実習。
増えていくのは、手持ちのグッズばかり。

一つ持っていけばいい。
学校ではそう言われてた。

わたし、考えることから逃げてたら、
スーツケースいっぱいになっちゃった。

「はは……」

どれだけ嫌なんだよ。
どれだけ無心で作ってたんだよ。

その量を見た時だけは、一人でウケてた。

前回の実習も、その前の実習も散々だった。

また同じなのかなぁ。
そう思ってたけど。

一つだけ違った。
中身がぎっしり詰まったカバンが、ここにある。

実習を担当してくれた保育士さんに、
「あら、何か持って来てくれたの?」
そう聞かれて、中身を見せた。

「あら、こんなにたくさん!
すごいわあなた。やる気いっぱいね。」

いや……いや……
違うんです。
すみません。全然違います。

現実逃避が形を変えただけなのに。
保育士さんたちの期待だけが、増えていく。

謎に園長にまで話が回ったらしい。
帰り際に呼ばれた。

「明日はお遊戯室で、全クラスの前で何かやってくれるんだってね。子どもたちもみんな楽しみにしているわ。」

「えっ!? 」

おいおい、そんなの聞いてないぞ!
全クラス?
しかも、お遊戯室で?

広さも、人数も、桁違いでしょ。
何で急にそんなスケールになるんだ!

「明日はね、1時間の枠取ったわ。
0歳もいるけど、対象年齢とか、細かいことは言わないから。自由にやってちょうだいね。」

もう、半分くらい頭に入らなかった。

計画書…。
うーん…。

対象年齢は0〜6歳。
幅が広すぎる。
前回は3歳児だけで大変だったのに…。

しかも、お遊戯室。
声が届かないくらい広い場所。

想像するだけで怖い。
呆然としてる自分が見えるよ…。

普通学生に与えられる時間は、
せいぜい30分くらい。
わたしに与えられたのは1時間。

「はは…。」

ここまで無茶が続くと、逆に笑える。
もう、上手くいく未来が1ミリも想像できない。

あ、これが無理ゲーってやつね。
うんうん。それだそれ。
はい。考えても無駄なやつね。

計画書?
進行表?

いやいや。書くだけ無駄でしょ。

はい。
今日は寝て、明日はもうなるようになれ。
おやすみー。

はじめて、何も考えずに寝た。

当日。

広いホールに、無数の視線。
期待に満ちたその目。

眩しすぎるよ。

何からやろうか、本気で決めてなかった。
あまりの緊張で、完全に頭が真っ白だ。

すると、どこからか声がした。

「せんせー、そのカバン何入ってるのー」

え。
まさか、そこから始まるの?
いきなりすぎる。

台本はない。
さあ、どうする。

えーい!なるようになれ!

開始のベルは鳴った。

「これはねー。
みんなが笑顔になる魔法のカバンだよー。」

「いいものがたーくさん入ってるの。」

「何が入ってるかな?
見ててね。行くよ?行くよーー?」

ポン‼️

「わぁ〜ブタさんだー」

無心で作った指人形。
全員の視線がわたしの指先に集まった。

もしかして、つかみはオッケー?

子どもたちのリアクションの良さに、
わたしのスイッチが入った。

「あれれ〜?ブタさんにお友だちがいるんだって。あー、しっぽだけ見えてるねー。
だれかなー?みんなわかるかなー?」

「お魚さーん」
「ちがうよークジラだよー」

あちこちから声が飛ぶ。
わたしはその声を、次々拾い上げた。

気付けば、最初の30分があっという間だった。

途中、後ろの方にいた、
小さい子たちの泣き声が聞こえた。

1歳、2歳児が飽き始めてしまった。

わたしは何かインパクトのあるもの、
とカバンを漁る。
ピンク色の画用紙を一枚取り出した。

「ねーみんなー、これ何になると思う?」

できる限りの声を張る。
後ろで泣いていた子が、一瞬泣き止んだ。

よし、ごまかせた。
興味だけは持たせたぞ!

わたしは画用紙を折った。

「何になるかなー?
もう一回折って見るね。三角かなー?」

「さんかくー」
「おつきさまー」

折った画用紙をチョキンと切った。
開くとお花になる。なんてことないやつ。

「みんなー。じゃあひらくよー。
よーく見ててよー」

うわあ〜❤︎❤︎❤︎

子どもたちの目がキラキラしてた。

わたしはあの光景を、一生忘れられない。
人生で初めて、実習が楽しいと思えた。



終わったら、担任の先生からも園長先生からも大絶賛の言葉をもらった。

3週間の実習を終えて学校に戻った時も、
「すごく評価高かったぞ」
なんて言われた。

台本なしのぶっつけ本番。
あれが高評価とは。

不思議だ。

何が評価されるかなんて、
本当にわからないもんだ。

でも、
楽しかったな♫

*  *  *

今になって振り返ると、
あの日は螺旋階段を一段登れた日だった。

あの日、スーツケースいっぱいに詰め込んだのは、紙芝居じゃなかった。

あの頃のわたしが、
無駄だと思っていた時間だったのかも。


この続きは、またそのうちどこかで話せたらいいな。


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