🏰08.レストランに吹いた新しい風
街角の古びたレストラン。
開店1時間前だというのに、
厨房もホールも散らかったまま。
店主はカウンターにもたれて、
小さくため息を落とした。

──君たち、来週から
正式に働いてくれないか?
先日、思わず口をついて出たあの言葉が、
頭から離れない。
(……あの子たち、本当に来てくれるだろうか)
あの日、わずかな時間で
店を見違えるほど整えてくれた双子の姿。
思い返すたび、胸がざわつき、
指先がどうにも落ち着かなくなる。
そのせいで、仕込みも掃除も手につかず、
時間だけが、ただ過ぎていった。
その“来週”が、ついに今日だった。
◆
コン、コン。
「おはようございます!
今日からよろしくお願いします!」
勢いよく入ってきた赤髪のテキパキ。
その後ろから、黒髪のシレットが静かに一礼する。
「ああ、君たち……。本当に来てくれたんだね。助かるよ。開店準備だってのに、この有様でさ」
店主が苦笑した瞬間、テキパキは袖をまくる。
「お任せください! 開店時間までに終わらせます!」

言った次の瞬間にはもう動いていた。
鍋が洗われ、器具が整列し、シンクはみるみるうちに空になっていく。

音もなくてきぱきと、ただ結果だけが積み上がる。気付けば、食器も調理器具も、鏡のように輝いている。

店主が目を丸くしていると──
ホールの空気がふわっと変わった。

バラバラに散らばっていたスパイスは、
香りの系統ごとに棚に整列。
テーブルに置かれたフォークとナイフは、
光の角度まで揃い、濡れていたはずの床は、いつの間にか乾き、日差しを浴びて輝いている。

「……え?」
振り向くと、壁際の影にシレットがいた。
静かに布巾を畳みながら、短く告げる。
「終わりました」
店主は思わず固まった。
「え……っと、これ全部……君が……?」
「滑って……危険でしたので。
濡れたクロスは、乾いたものと交換済みです」
シレットの仕事は知らぬ間にシレッと終わっている。それに気づくのは、だいたい全てが終わった後。
店主は目を大きく見開き唖然としている。
「す、すごい……、君たち本当にすごいな」
テキパキは明るく笑い、
シレットは首を小さくかしげた。
◆
夕方。
開店すると、客はすぐに変化を察した。

「あれっ?この店、こんなに広かったっけ?」
「今日は何だか空気が澄んでるねぇ……」
店主は照れくさく言う。
「今日からこの子たちが手伝ってくれてるんだ」
常連たちが感嘆し始めた。
「いやぁ……すごいな、あの状態から
どうやったらここまで変えられるんだ?」
店主が肩をすくめ、苦笑いしていると
「お屋敷で鍛えられましたので!」
と、テキパキが胸を張る。
シレットはそっと続ける。
「……街の方も、必要でしたら……手伝います」
常連たちは思わず顔を見合わせた。
「……すごい子たちが来てくれたもんだ」

──それは、静かな評判のはじまりだった。
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