夜の歯磨き、私の作法
午後9時30分、今日もゆっくり洗面所で歯を磨く。
まずは、「コヤギさん(私)、今日も美人だね」と自己肯定をする。そして、ティッシュを1枚洗面ボウルの脇に置き、その上に歯磨き粉、歯ブラシ、タフトブラシ、ゴムタイプの歯間ブラシ、太さが違う2種類のフロスを、それぞれ使う長さの分だけ取り出しておく。
なぜ歯を磨くのに、こんなに道具を使うのか。
それは、私が4年間歯列矯正をしていたからだ。矯正中は、ずっと歯にワイヤーが付いていた。歯磨きにとても苦労した。食後にしっかり掃除をしないと、ワイヤーに食べ物がつっかえたままで気持ちが悪い。時間がかかってもどうにか頑張った。
歯磨きを少しでも快適にしたい。ずっと、自分に合ったより良い道具を、探していたと思う。
歯を磨く時は、鏡を見る。矯正していた頃からの習慣だ。あわあわになった歯磨き粉を少し吐き出し、タフトブラシを手に取った。歯の面に沿わせ、ブラシを力を入れずに動かす。ブラシは、鉛筆持ちにしている。
抜歯4本には不安があったが、今ある歯たちはとても磨きやすい。矯正前に比べて、磨きにくいイライラはまったくなくなったのだ。
歯磨きで歯がツルツルになるのは、とても清々しい。
数回口をゆすいでから、歯間ブラシ、フロスへと移る。
ワイヤーがあった時は、フロスにも時間がかかった。針に糸を通す感覚。「手芸好きで良かった」とおかしな感覚になるほどだったが、今はもう習慣になっている。
いつも歯を磨きながら、自分と対話をする。静かな洗面所だからできることだ。
家から徒歩5分の距離にある歯科医院は、幸運そのもの。「5分歩けば信頼している歯科に着く」——そんなことわざを思いついたが、もうひとひねりが出てこない。
矯正をスタートする時、「とってもとっても美人になりますよ」と先生が言っていた。あの言葉は聞き間違いだったのかなど、いろんなことを考えながら歯を磨く。あっという間に時間が過ぎる。
フロスを終えリテーナーを付け、鏡に向かって笑顔を作る。
歯並びはとても良くなり、噛みやすくなった。まるで歯科医院の先生の「作品」のようだ。
私らしい笑顔が、先生への「ありがとう」になるとうれしい。今の口元を見て満足げな私は「先生、今日もありがとう」とぽつりとつぶやき、洗面所の電気を消した。
リビングの時計は、午後9時45分だ。
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「ふうっ」と一息つく時間に、お茶を一杯ごちそうする気持ちで。