見出し画像

【小説】天仕の少年と人間の少女の物語 前編 第五話 天仕の存在

第五話 天仕てんしの存在

「救護室の包帯などを使った形跡があったから、フェリシア嬢を問いただしたら、君の名前が出てきた。あわせて、フェリシア嬢も君に診察してもらってから、体調が改善したとも言っている。」
「私がしたのは、診察の真似事です。私が診察して彼女の体調が改善したというのは誤解です。」
「そうか?実際、彼女の顔色は良くなっていたし、体温も通常より上がって一般の人並みになっていた。」
私は心の中で舌打ちをする。思ったよりエステル先生の追及が厳しい。

「先生。アルフォンスは、医学は専攻していませんが、同じく医師である父から教育を受けていますので。フェリシア様に怪我の手当てをしてもらった代わりに、診察めいたことをしてあげたのではないですか?」
リシテキアが私のことをかばって発言する。
「・・まぁ、そういうことにしておくが。女性の肌に手を触れるのは、誤解を招くので、あまりしない方がいいと思うぞ。」
「おっしゃる通りです。。」
私は頭を抱えたくなって、項垂うなだれた。

「で、君の診察した結果では、どうだったんだ?アルフォンス。」
エステル先生は、私に向かって問いかける。私はその問いかけに顔をしかめた。
「私は一介の院生でしかないのです。医師ではないのですから、私の見解など必要ないでしょう。」
「いや。リシテキアとともに医師である父の教育を受けているのだろう?だったら、一考に値するじゃないか。」
エステル先生は私の言葉にしれっとした表情で答える。

「あくまでも参考までにですが。魔力の流れが悪く、体温が低いように感じました。何かが魔力の流れをせき止めているというよりは、元々流れている魔力が少ないのではないかと感じました。」
「こちらに頂いている前のかかりつけ医の診断も同じだ。フェリシア嬢が保有している魔力量は一般の人間よりも少ない。活動の力となる魔力が少ないから、体温も低くなるし、生命活動が弱い。」

魔力上限量は産まれた時に決まっている。身体が成長しても、魔力上限量は変わらない。
人間は魔力のやり取りもできず、使った分は自然回復する。しかし、魔力上限量以上には回復できない。フェリシアは、魔力上限量が少なく生まれついてしまったということになる。薬師が作る回復薬も、自然回復を促すものでしかないので、魔力上限量を押し上げることはできない。

「心配をしているのは、身体が成長するにつれて、日々使用する魔力量は、少しずつ増えていくということだ。魔力が完全に枯渇こかつしてしまうと、死んでしまうからな。」
「・・・。」
自分の身内は、皆魔力量が多い方だったから、少ないことによる弊害についてなど考えたこともなかった。
「魔力保持量を増やす方法など。薬ではむりだろう。魔法士でも解決するのはさすがに無理だと思う。それができるなら、もっと、魔法士が増えてもおかしくないくらいだ。」

「それこそ、以前存在したと言われる天仕てんしでもいない限り無理ですね?」
黙って話を聞いていたリシテキアが口を挟む。私は彼女を見つめた。彼女の表情はいでいる。天仕てんしの呼称を出すなど、何を考えているのか。
「自分のものであれば、何でも与えることができる天仕てんしか。人間よりは魔力保持量も多かったと聞くから、フェリシア嬢を救うことも可能かもしれないな。」
夢物語だが。とエステル先生は付け加える。

天仕てんしは、人間とは別の人型の種族である。背中に大きな白い翼を持ち、空を飛ぶことが可能。また、人間よりは長寿で、魔力量も多い。そして、彼らは「与うるもの」と呼ばれている。自分の能力、血、魔力等を自分の意志により他者に与えることができるとされる。だが、彼らの能力が自己犠牲で成り立っていたことから、今は存在が絶えたとも言われている。

「先ほども言ったように、先方はフェリシア嬢の虚弱体質が治せるとは思っていない。ただ、日々近くで体調を見てくれる医師がほしいというだけだ。考えてみてくれ。リシテキア。」
「わかりました。」
「呼び止めてすまなかった。また連絡する。」
「では、失礼します。」
リシテキアが立ち上がると同時に、私も席を立つ。
「アルフォンスも院を卒業したら、私の研究室に来るのはどうだ?歓迎するが。」
「・・考えておきます。」
私は、エステル先生の紫の瞳を見つめて、一礼した。

いいなと思ったら応援しよう!

説那(せつな) チップをくださると、創作を続けるモチベーションとなります。また、他の創作物を読んでくださったり、スキやコメントをくだされば嬉しいです。