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【小説】天仕の少女と魔人の少年の物語 後編 第十七話 襲来

第十七話 襲来

ここはエステンダッシュ領、境界付近の転移陣近くにある宿直所。
もう辺りは暗くなっており、さすがに転移陣をくぐってくる者は、今日はいないと思われる頃。

数刻前にここを出発していった旅商人が戻ってきて、宿直所に駆け込んできた。
「魔物に人が襲われている!」
「なんだと?どのあたりだ?」
「この道を直営地の方に進んでいって、馬車で半刻(1時間)ほど進んだところだ。馬車は大丈夫だったが、反対側から徒歩で来ていた人が魔物に襲われて、森の方へ逃げていくのを見た。」

「馬車で半刻だと?今から行って間に合うのか?」
棋獣きじゅうで行けばすぐだろう。聞いたからには放っておくわけにはいかない。」
旅商人と話をしていた騎士の後ろから、別の騎士が声をかける。水色の髪をあごほどで切りそろえ、金色の瞳を持つ騎士は、旅商人に向かって言葉をつむぐ。

「何か目印となるものはあるか?」
「こちらに戻ってくる前に、近くの木に赤い布を結び付けてきた。」
「了解した。その方は本日こちらに留まれ。これから暗くなり、魔物の動きが活発になる。月明かりはあるようだが、明日明るくなってから出立したほうがいいだろう。」

彼はそう旅商人に伝えてから、その前に話をしていた騎士の方を見つめる。
「領民の保護には私が出る。そなたも行くだろう?テオファーヌ。」
声をかけられた深緑色の髪、黄緑色の瞳の騎士は、口の端を上げた。
「むろんだ。アルフォンス。」


赤い布が巻き付けられていた木のところから、道を外れて、森の中に分け入っていく。何かが進んだ様子はある。旅商人の言葉は嘘ではなかったようだ。冬のため木々は生い茂ってはいないので、月明かりで辺りが見えないことはない。
「どこまで進んだのだ?」
「魔物が近くにいるかもしれない。警戒しろ。」

森をしばらく進んでいくと、先に何かが山のように積み重ねられているのが見えた。
「これは・・。」
魔獣が討伐されて、山になって積み重ねられていた。剣による切り傷が見てとれる。
その周りの雪には、派手に血痕が飛び散っている。魔獣は既に息はなく、動く様子はなかった。そこから、さらに奥に血痕が続いている。

「これは相当の手練てだれだな。」
テオファーヌが口を開く。アルフォンスは口の前に人差し指を当てて言う。
「魔獣を討伐した者は、奥に向かったらしい。」
「襲われた人とは別の者だろうな。どういうことだ。」
「相手が分からない以上、引き続き警戒はしておいた方がいいだろう。相手は剣を持っているようだし。」
アルフォンスは髪を払って、先に足を進め、テオファーヌもその後に続いた。

しばらくすると、前方に人影が見えた。黒い外套がいとうを被り、なぜか地面の上に座り込んでいるらしい。こちらには背を向けていて、どんな人物かは分からない。
その奥には、一部雪が解けて地面が見えている部分があった。なぜかその中央に長剣が転がっている。少なくとも、その長剣は騎士団が使用している剣ではないようだった。
その剣が、地面の上に座り込んでいる人物の者なのかどうかわからない。

アルフォンスは、念のため、剣をさやから抜き出し、すぐに振れるようにした上で、その人物に声をかけた。
「こちらはエステンダッシュ領、境界転移陣を守る騎士の者だ。大事ないか?」

その人物は、アルフォンスの声に、うつむいていた顔を上げ、こちらを振り向いた。
「そなた・・・。」
黒い外套がいとうを頭からかぶった人物は、金色の長い前髪の間から、赤い瞳でこちらを見上げている。その顔にアルフォンスは見覚えがあった。

「アルフォンスか。久しいな。」
彼は口の端を上げて言った。
「なぜ、そなたがここにいる?」
剣をさやに戻しつつ、アルフォンスは問いかける。

こちらの名を呼んだのは、魔王マクシミリアンだった。

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