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貫かれた男女の愛と最期「虞や虞や汝を如何せん」の結末。 #184

なんじ奈何いかんせん」は、漢詩の有名な一節で、「虞よ、虞よ、お前をどうしたら良いのだろう」という意味です。

「四面楚歌(しめんそか)」という言葉を生んだ有名なエピソードですよね。学生の時、授業で習ったかたも多いかと思います。

(昔と比べて、かなり漢文の割合が減ったり、無くなったりもしているみたいですけど)

四面楚歌(しめんそか)とは:

項羽(こうう):敵の軍隊に囲まれてしまった、かつての名将。
虞(ぐ)   :項羽の愛妾。
        ”虞美人”と称される、中国を代表する美人の一人。
楚(そ)   :項羽の敵の国。

項羽は、まわりじゅうから「楚の国の歌」が聞こえてきたことで自分が、周囲を敵に囲まれてしまったことを悟ります。
これが「四面楚歌(しめんそか)」です。

日本の(戦国時代などの)戦争では
女性が戦場に同行することはあまり一般的ではないように思いますが
このとき、虞も戦場に同行していたようです。


敵に囲まれてしまった項羽が、
愛妾の虞美人を想って詠んだとされる「垓下の歌」の一節がこちらです。

力は山を抜き、気は世を覆う
時利あらずしてすいゆかず
騅のゆかざるを奈何いかんすべき
や虞やなんじを奈何せん

私には山を引き抜く力と世を覆う気迫があった。
今時運を失い、愛馬の騅も歩もうとしない。
前に進まぬ騅をどうしたものか。
虞よ、虞よ、お前をどうしたらよいものか。

『垓下の歌』書き下し文、および現代語訳


最愛の女性が敵の手に渡ってしまったら、
彼女はいったいどうなってしまうでしょう。
男として、あまりに苦しい、
とても考えたくない状況です。

さんざん、自分が苦しめてきた敵の軍が
自分が愛した女性を手中に収めたとしたら。
きっと目も当てられない酷いことを
情け容赦なく、してくるに違いありません。

それならば、いっそ自分が手にかけて
彼女の生を終わらせてしまいたい。
僕ならそう思います。


昨夜、僕の頭にふと浮かびました。
そういえば、項羽は『虞や虞や汝を如何せん』と途方にくれたあと、結局どうしたのだろう。

調べてみると
中国の歴史書『史記』に
この答えがありました。

項羽のこの歌に、虞美人も和して共にうたった。
項羽は涙を流し、左右の者もみな泣き、誰も顔をあげることができなかった。

『史記』より意訳

もしかしたら、
絶世の美人である虞のことを
そんなに酷くは扱わないかもしれない。

敵の大将に愛されたりすれば、
自分(項羽)が命を奪うよりも、
長い目で見て、幸せかもしれない。

そうポジティブに考えることも
できるかも知れませんが。

自分が居ない世界で
彼女が笑ったり、歌ったり、
いつか他の男性に身を任せることを想像したら…

寂しがりで独占欲の強い僕には、
愛する人をひとりこの世に残すなんて
とてもできない選択です。

でも、項羽は
虞を殺しはしなかった(orできなかった)。

『通俗漢楚軍談』は、史実ではなく物語ですが、
項羽の言葉を以下のように伝えています。

我は、敵の包囲を突破し脱出を試みようと思う。
汝(虞美人)は、命を全うして欲しい。
自分の運命が尽きていないのであれば、また会う事も出来るであろう。

其方(虞美人)は優れた容姿を持っておる。
劉邦(楚の国の国王)は其方を殺しはしないであろう。
少しも憂える事はない。

あんた、男だよ…😢

虞美人は優れた容姿を持っているから、心配はいらない、と。劉邦は女好きだったという説もあり、項羽は劉邦が虞美人を妾にすると思ったのかも知れません。

しかし、虞美人は項羽の言葉を受け入れられず、
次のように述べています。

私は項羽様に従って、漢軍の包囲から脱出し、何処までも行きたいと願います。
もし仮に脱出が出来ないのであれば、自害して果てます。

例え私が屍となったとしても、
私の魂魄は項羽様に従い江を渡り故郷に還る事になるでしょう。

個人的にはもう、涙が溢れ落ちて
涙(なだ)そうそう状態です。
この手の話に、涙腺がとても弱いのです。

項羽様。
私はあなたに大きな恩を受けましたが、未だに報いる事をしていません。
今この瞬間より、妾(虞美人)を心に掛けてはなりません。
これまでです。

言い終えると、虞美人はふところから短剣を出し、
自ら命を絶ったとあります。

虞美人草。
みずから短剣で命を絶った虞美人の血の色とされる


その鮮血は地面に吸い込まれ、
そこから草が生え
やがて血の色をした花が咲きました。

これが「虞美人草(ひなげし・ポピー)」の
元になったという逸話です。

自分の手で、虞を殺すことができなかった項羽。
項羽への純粋な思いを胸に、自ら命を絶った虞。

中国の歴史にその名がとどろくような王様でも
愛する女性の前では、あれこれ思い悩む一人の男性。
そして愛する男性のために、思い切った行動をする女性。

現代の私たちの感覚で、
その思いをただしく推し量ることは
難しいかもしれませんが、

二千年もまえの男女の愛に
思いを馳せることができ、

とても豊かな時間を過ごせたように思ったので、
ここに持ってきました。

(了)


全然スケールが違いますが、こんなエピソードも思い出しました。


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