#6 『もう一度、あの声に会いたくて。』
「もう聞けないと思っていたその声が、まだ私の中に残っていた——」
🧑🦰登場人物紹介:
◆ 雨宮 梨央(29) 出版社勤務の編集者。多忙な毎日の中で、過去の恋を胸の奥にしまっているが、ふとした音や香りに心を揺らされることも。
◆ 森下 直哉(31) 元恋人。優しく穏やかな性格で、かつては出張先からボイスメモで“おやすみ”を送るのが習慣だった。
スマホの「ボイスメモ」に、ひとつだけ消せない音声があった。
『……今日はちょっと寒かったな。風邪ひかないでね。じゃあ、おやすみ。』
声の主は、もう数年前に別れた人——直哉。
機種変更のたびにデータを引き継いで、消そう消そうと思いながら、なぜかこのひとつだけは残っていた。
「……もう、いい加減にしよう」
梨央は思い切ってメモを削除しようとした。 けれど、親指が画面に触れる寸前、ふと鳴り始めた駅の発車ベルに手が止まる。
その音と重なるように、どこかで聞いたことのある声がした。
「……雨宮?」
振り返った先に立っていたのは——
「……直哉?」
人混みの中、ほんの数秒。 でも、その声だけは、はっきりわかった。
それから数日後。
梨央のスマホに、新しいボイスメモが届く。 差出人は不明。 けれど、その声は——
『……また、ちゃんと話せたら嬉しい。今度は、最後まで。』
震えるように、でも確かに届いたその声が、梨央の心をやさしく揺らした。
削除しようとしていた音声の代わりに、 新しく保存されたたったひとつの“声”。
その音が、またふたりの時間を動かしはじめる——
💬作者のつぶやき
「声」って不思議なものだと思います。
目に見えないのに、誰かの感情がまっすぐ届いてしまう。
だからこそ、一度失ってしまった声は、いつまでも記憶に残ってしまうのかもしれません。
この物語では、「聞こえてしまった声」をきっかけに再び動き出す時間を描きました。
過去を振り返るのではなく、「今、改めて向き合う強さ」にも注目して読んでもらえたら嬉しいです。
── 桜川 ことり
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