#9 『朝のホームで、君を待つ』
「毎朝すれ違うだけの君が、ある日、いなくなった。」
🧑💼登場人物紹介:
◆ 橘 澪(29)
通勤電車を利用するOL。穏やかな性格で、毎朝すれ違う男性の存在が、いつしか日々の支えになっていた。
◆ 白石 悠(30)
IT系会社員。人混みの苦手なタイプで、朝は決まった場所に立つ。澪とは話したことはないが、心の中では気になっていた存在。
朝の駅のホーム。混雑する電車を待ちながら、澪はふと視線を向ける。
同じ時間、同じ車両のあの人——
名前も知らない、声も聞いたことがない。 それでも、毎朝すれ違うその人の姿を見つけると、少しだけ心が落ち着いた。
ある日、その人が突然いなくなった。 いつもの場所に、姿がない。
ただそれだけのことなのに、思ったよりずっと胸がざわついた。
——そして数日後。
別の車両に並ぶ列に、見覚えのある横顔を見つけた。
思わず声をかけようとして、躊躇う。 でも、次の瞬間——
「……あの、よく同じ電車に乗ってましたよね?」
先に声をかけたのは彼の方だった。
言葉を交わすのは初めてなのに、不思議と懐かしかった。
「最近、時間ずらしてたんです。混んでるのが苦手で」
「そうだったんですね……でも、なんだか安心しました」
会話はぎこちなかったけれど、帰り際、彼が小さく笑った。
「また、同じ時間の電車に戻そうかな」
澪はその言葉に、うまく返せなかった。 ただ、心がふわっとあたたかくなるのを感じていた。
💬ことりのつぶやき
毎朝会う“だけ”の人。 言葉を交わしたことがないのに、なぜか心に残っている。
そんな経験、誰にでもあるかもしれません。
この物語は、"恋のはじまりの、もっと手前"にある感情を書きたくて生まれました。
✦ 桜川ことり ✦
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