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有松絞りと江戸っ子 〜前編

有松絞りまつりは朝9時から始まる。

着物友達のOさん、Kさんと開催時間午前9時に有松駅で待ち合わせて会場へ向かう。2人は絞りまつり経験者であり頼もしい先達で、今年井桁屋で仕立てたばかりの真新しい絞りの浴衣に白い襟を入れた大人の浴衣が決まっている。
私も絞りの浴衣に博多の半幅帯。亡くなった祖母の名前は「いせこ」だったことを直前で思い出し、祖母の形見を身につけることにした(前日はお伊勢参り)。足元は滑り止め付レース足袋、草履はスニーカーよりも疲れないというアシックスの草履だ。

旅の初日、名古屋市内の気温は高かったが湿度は低く、気になるリサイクル着物店を巡っている際、大須観音周辺で熱中症になりかけたので、衿を入れることを諦めた。
衿を入れるという事は、下に更に襦袢1枚着ることになるからね…

駅前の大通りを進み、メイン会場は東西に分かれた有松東海道。この街道沿いに名古屋市指定有形文化財の古い邸宅が立ち並ぶ。その中の幾つかは呉服商と兼ねていて、有名なところでは竹田嘉兵衛商店である竹田家住宅、井桁屋であるところの服部家住宅など、立派な造り、中庭、蔵など見ることができる。なかなか眼福だ。


そして絞りまつりは路上に設置されたテントでも反物を見たり買ったりすることができる。反物はとてもとても…と思っても大丈夫。端切れを買うこともできる。針と糸を持つことに抵抗がなければ、絞りの髪飾りや袋ぐらいは簡単にできるだろう。

まずは西側から。
有松東海道には絞りの反物が下げられ、気持ちの良い風に翻っている。
家の玄関には「ありまつ」の絞りののれん。
祭の主催側の人達は揃いの絞りの法被。ヒュー!かっこいい!
町ごとに唐子車というからくり人形を乗せた山車があり、時間がくると動くのを見せてくれる。筆で文字を書く人形、それを見て踊る人形。山車の前では真っ赤な天狗が羽団扇で子どもたちの頭をさすっている。

「どういうご利益がありますか?」
「天神様のお使いなので頭が良くなります」
「あたまがよくなる?!(ボケないってこと?!)」
もちろんなでてもらった。

地元の方は揃いの法被なので、絞りの浴衣を着た人は主に他所から遊びに来た人達だろう。あ、そこの蜘蛛絞りの素敵な浴衣を着たあなた、その反物はどこでお求めに…すれ違う人達もとっておきの絞りの浴衣を着ているので私達は(目が)忙しい。

「ねえ、あの人の絞り立涌!」
「かっこいい着こなしだね!」
「帯結び気になる」
見るところがたくさんあって困ってしまった。

祭を満喫しながら1軒目の竹田嘉兵衛商店へ。
戦はすでに始まっていたようだ。おそらく9時で会場、そのまま待機列が店に入っていく感じなのだろう。9時待ち合わせでは戦にも参加できないのか…

反物を2、3個持って吟味している人、それらを全て会計に持って行く人…反物には注文票がどんどん巻かれていく。

すごいなぁ…あの反物1つ3万以上する。
しかも1つの反物につき、平らにする湯のし代、仕立て代、送料も入ってくると倍ぐらいになるよね…
そうか!!この熱狂と金のやりくりに乗れる人が有松絞りまつりを制する事ができるのか…!
しかし私の性格上、あの渦中に入ったら舞い上がって吟味しないで買う可能性がある。もちろん有松絞りはどれも素敵なものばかりだから、手に取った反物が運命の反物である可能性が高い。しかし決して安い買い物ではない。

そして私には心の分銅があった。
出発前夜、出会ってしまったのだ。有松ではない絞りの浴衣に。仕立て上がりのしつけ糸付だがマイサイズ。有松絞りのオーダー程ではないが、私には安い買い物ではない。旅行中で店舗に赴くことができない旨を伝え、ダメ元で頼んだ取り置きが快諾されたのだ。

舞い上がりそうになったらあの浴衣を思い出せ!あれと比べてどうかを考えろ!

そう思えば心は乱れず、奥の方に掛けてある作家物の反物を「まあ!素敵ねぇ✨」と眺めたり、お店の方から絞りの説明を詳しく聞いたりすることができた。

図案を考える人⇒下絵の点を入れる人⇒くくる人⇒染める人⇒糸を外す人

有松絞りは作業工程によって分業制になっており、ここまででやっと反物になる。くくりも1人の人が1種類しかくくれないことになっている。竹田嘉兵衛商店の方のお話では、くくりをあれこれやると「手が荒れる」から1種類だという。
つまり、反物の証書に絞り手や染め手の名前があるとする。絞り手に名前が2つあったら、2種類の絞りが使われているという事になる。

染めて糸を解くまえの反物をじっくり拝見させてもらい、伝統工芸品の物凄さに驚いたり感心したりした。これは高くなるわけだよな…

おかげで絞りについて解析度が高くなったように感じた。

これが1つづつ手作業で…




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