『動物農場』の骨組みを借りて、宇宙船の話を一本書きました
雪村ことはと申します。普段はカクヨムという小説投稿サイトで、歴史ファンタジーを書いています。
今日は、その私が一本だけ書いた、まったく毛色の違うお話のことを書きます。ジョージ・オーウェルの『動物農場』を下敷きにした、宇宙船の話です。
普段は歴史ファンタジーを書いています
歴史全般と、異世界転生ファンタジーが好きです。その二つを組み合わせて、歴史の深い知識がなくても楽しめる物語を書いています。
長いものが一本と、読み切りが何本か、という並びです。
長編は『異世界奇譚 ―鳳凰の旅路―』。前世の記憶を持つ少年が、個人が歴史を動かせた最後の時代を生きていく話です。
ほかにいくつか短編もあります。
どれも人が出てきて、会話があって、誰に気持ちを預ければいいかが分かりやすく書いているつもりです。
つまり私は、ふだんSFを書く人間ではありません。ディストピアも寓話も、自分の守備範囲だと思ったことは一度もありませんでした。
その私が、なぜ宇宙に船を浮かべることになったのか。きっかけは、一冊の本でした。
『動物農場』を教えてくれたのは、小説を読まない同僚でした
私の同僚に、普段ほとんど小説を読まない人がいます。
その人がある日、めずらしく「これは面白かった」と、一冊の本を教えてくれました。ジョージ・オーウェルの『動物農場』です。
お恥ずかしい話なのですが、私はその作品を、存在すら知りませんでした。私が知らなかっただけで、有名なお話でした。
書き手を名乗っておきながら、と少し落ち込みながら読みはじめました。読んでみたら、これがなるほど、あの同僚が好きそうな作品だ、と思いました(笑)
ご存じの方も多いと思いますが、ある革命と、そのあとに起きたことを、動物たちの農場に置き換えて書かれたお話です。
普段小説を読まない人が「これは面白かった」と言う本には、たいてい理由があるのだと思います。読んでいて、説明を読まされている感じがまるでしませんでした。農場で動物たちが立ち上がって、そのあとどうなったか。その順番だけで、最後まで運ばれてしまう。
八十年近く前に書かれたお話ですが、古びた感じもしませんでした。
「もし自分がこの骨組みを借りて書くとしたら」
読み終えたあと、ここで私の悪い癖が出ました。
「もし自分がこの骨組みを借りて書くとしたら、どんな舞台で、どんな人たちで書くだろう」
そんなことを考え始めたら、設定やら場面やらが、止める間もなくどんどん湧いてきてしまい。。
気づいたときには、頭の中で一本の物語がほとんど立ち上がっていて、これはもう書くしかない、という状態になっていました。
そうして書いたのが『開拓船〈自由号〉の記録』という短いお話です。別の長編を書いている途中に、少しだけ寄り道をするつもりで始めた一本でした。四話のつもりが、いつの間にか八話になっていました。
SFが書きたかったわけではありません
私がやりたかったのは、その古典の「芯」の部分だけを自分の手に引き取って、違う舞台に置き直し、自分の言葉で書き換えてみることでした。
ですので、SFが書きたかったわけではありません。あくまで、下敷きにした物語の芯を私なりの形で描き直すための、舞台装置という位置づけです。
では、なぜその舞台装置が宇宙船になったのか。
正直に申し上げると、はじめは理屈ではありませんでした。地上ではないどこか、少し先の時代のような場所。最初に浮かんだのは、それくらいのぼんやりした雰囲気だけです。
あとから言葉にするなら、条件が二つあったのだと思っています。
一つは、閉じていること。元の作品の舞台は農場でした。柵の内側で起きたことが、柵の内側で完結してしまう。その条件を今の地上で探すのは、私には難しく思えました。船であれば、外は宇宙です。降りるという選択肢が、最初から存在しません。
もう一つは、労働と借りで人が繋がれている場所が要ったことです。〈自由号〉の乗員たちは、渡航費を労働で返しながら乗っています。返し終えるまでは、そこから出られない。
農場を宇宙船に置き換えたというより、「外に出られない」という条件だけを引き取った、という言い方が近いかもしれません。
暗い未来を設計したかったわけでもありません。解放された人たちが、なぜまた次の線を引いてしまうのか。見ていたかったのは、そこだけでした。
誰の味方もしない地の文で、最後まで通してみる
書きながら、いちばん挑戦していたのは文体のことでした。
この物語の地の文は、誰のことも罵りません。誰の味方もしません。ただ、起きたことを、順番どおりに書き留めていくだけです。
他の作品では、説明を多めに置いています。誰に気持ちを預ければいいかが読んでいて分かるように、こちらで先に整えてきました。今回は、それを置かずに通しました。
淡々と並ぶ事実。冷えた事務の言葉。
温度を上げたくなる場面ほど、上げないまま通す。ここで一言だけ添えたい、という場面が何度も来るのですが、そのたびに手を止めて、書かずに次へ進みます。
起伏の少ない書き方になりました。それでも一度、これをやってみたかったのだと思っています。
正直に申し上げると、書いている間はしんどい時間が続きました。書き終える頃には、私自身、少し息が詰まっていた、というのが本当のところです。
できあがった話 ──『動物農場』の骨組みで書いたディストピア
巨大企業〈カンパニー〉の開拓船〈自由号〉。渡航費を労働で返す乗員たちが、ある日「我々は貨物ではない」と蜂起し、船を奪います。
掲げたのは、自由の七箇条。その第一条——何者も、他者を所有してはならない。
けれど革命を担った二人の指導者はやがて割れ、勝ち残った側は、配給が細るたびに「敵」を外へ探しはじめます。
解放された者は、なぜ次の線を引くのか。
そのあとに何が起きたのかを、誰も罵らない記録の声だけで綴ったお話です。全八話で完結しています。
読み終えたとき、もう一度、最初の一行から読み返したくなる。そういう話を目指しました。
もしご興味がありましたら、こちらに置いてあります。
『開拓船〈自由号〉の記録』(全八話・完結) https://kakuyomu.jp/works/2912051603195548710
ほかの作品は、こちらにまとめて置いてあります。 https://kakuyomu.jp/users/kotoha_yukimura
このnoteには、本編に書ききれなかった設定の話や、書きながら考えていたことを、ぽつぽつと残していくつもりです。
(この記事はnoteの一本目です。勝手が分からず、ずいぶん書き直しましたが楽しんでいただけたら幸いです、、)
