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「えっ、ヘビ飼ってるの?」と引く人に言いたい ~犬猫を撫で回して喜ぶあなたと、環境管理に命をかける僕の愛は、完全に同質であるという話~

雑木林からの誘拐犯、あるいは新しい同居人

ヘビの飼育を始めることにした。
出会いは唐突だった。
近所の雑木林をうろついていた息子が、野生個体をその場で拉致——もとい、保護した。

日本で捕獲できるヘビといえば、アオダイショウ、シマヘビ、マムシ、あるいは沖縄のハブくらいしか思い浮かばない人が大半だろう。テレビのバラエティ番組でタレントが悲鳴を上げているのはだいたいそのあたり。しかし、無知とは恐ろしいもの。実は日本には、本土と南西諸島を合わせて、約36種類ものヘビが生息している。日本は意外と多くのヘビが棲む国である。

本土でよく見かける代表的なヘビは、そのほとんどが無毒。ここで少し、僕たちの身近に潜む「足のない隣人たち」を紹介しておこう。これを知っておけば、次に道端で遭遇したときに少しだけドヤ顔ができる。


本土でよくみかけるヘビたち(無毒)

① アオダイショウ(青大将) 日本本土最大級のヘビで、デカいものは2メートルに達する。おとなしい性格でネズミを主食とするため、昔から民家の守り神扱いされてきた。木登りが得意という、見た目に反してアクティブな一面を持つ。

アオダイショウ

② シマヘビ(縞蛇) 体に4本の黒い縦縞がある、一目で「あ、シマヘビだ」とわかるデザイン。性格は非常に気が荒く、近づくと尾を激しく振って「あ?やんのかコラ」と威嚇してくる。カエルやトカゲが大好物の、絵に描いたようなヤンキー気質のヘビ。

シマヘビ

③ ジムグリ(地潜) その名の通り、地中に潜る習性を持つ。赤みがかった綺麗な体色の個体が多く、基本的にはおとなしい。陰キャなため、滅多に地上でお目にかかることはない。

④ ヒバカリ(日計) 全長40〜60センチほどの小型種で、首のあたりに白い襟巻きのような模様がある。

ヒバカリ

この「ヒバカリ」という物騒な名前の由来。
漢字で書くと「日計」。かつては「噛まれたら、その日ばかりの命」と恐れられたことからこの名がついた。どんな猛毒だよ、とビビるかもしれないが、完全なる風評被害。実際には「無毒」。それどころか、人間の気配を察しただけで全力で逃げ出す、絵に描いたような臆病者。昔の日本人の妄想力と、それに伴うネーミングセンスには悪意すら感じる。


命の危険を感じるガチの面々(有毒)

もちろん、中には本当に「その日ばかり」になりかねないガチの毒ヘビもいる。日本で命に関わる強い毒を持つのは、主に以下の3種類。

⑤ ニホンマムシ 全国に生息する、全長40〜60センチのずんぐりむっくり。体にある「銭形(楕円形)」の斑紋が特徴。基本はおとなしいが、うっかり踏みそうになると「正当防衛」とばかりに噛みついてくる。強力な出血毒を持ち、年間で約1000〜2000人が被害に遭っているという統計もある。噛まれたら冗談抜きで早急な血清治療が必要なヤツ。

ニホンマムシ

⑥ ヤマカガシ 赤や黒の鮮やかな斑点模様を持つ美しいヘビ。かつては「無毒の大人しいやつ」と思われていたが、1970年代に死亡事故が起き、奥歯に強力な毒(血液凝固毒)を持つことが判明した。さらに首の後ろからも別の毒液を分泌する。二の矢まで用意しているあたり、なかなかの策士。

ヤマカガシ

⑦ ハブ 沖縄・奄美の帝王。全長2メートルを超える個体もいる大型毒ヘビで、攻撃性はMAX。夜間に活発に動き、噛まれると激しい痛みとともに組織が壊死する。沖縄旅行でテンションが上がっても、夜の草むらには絶対に近づいてはいけない。

ハブ

他にもシロマダラやタカチホヘビといった、絶滅危惧種かつ夜行性のレアキャラもいるが、マニアでも野生個体を見るのは至難の業。ウミヘビも8種類ほどいるが、彼らは完全に海という別世界で生きているので、陸の上で暮らす僕たちには関係のない話である。


我が家にやってきた「死神」という名の天使

前置きが長くなったが、今回息子が拉致……ではなく、お迎えしたのは「ヒバカリ」である。 全長40〜50センチほど。つぶらな瞳と、何かを諦めたようなゆったりとした動きが、控えめに言ってかわゆ過ぎる。

実は以前、シマヘビを捕獲した際も飼育を猛烈に迷った。しかし、断念した。なぜなら「エサの確保」という現実の壁が厚すぎたから。シマヘビは1.5メートルに成長する大食漢。飼育下では、冷凍されたネズミ(通称:ピンクマウス)を定期的に解凍して与えるのが一般的。冷凍庫を開けたらアイスの横にネズミがいる生活。嫁の理解が得られるはずもない。

その点、ヒバカリの主食はオタマジャクシ、小型のカエル、小さな淡水魚、そしてミミズ。オタマジャクシは季節限定だが、ミミズならそこらの庭を掘るか、小型の淡水魚ならペットショップや釣具屋に行けば簡単に手に入る。これならいける、と踏んだわけ。

早速、爬虫類用のケージを購入。床材には腐葉土を敷き詰め、植木鉢を横に倒して男前なシェルター(隠れ家)を作った。プラスチックケースの水場を用意し、中に獲物としてのミミズを数匹放流。準備は万端。

しかし、当のヒバカリは警戒心MAX。僕が用意したオシャレな植木鉢には目もくれず、植木鉢とガラスケースの極小の隙間に無理やり体を挟み込み、完全にフリーズしている。「絶対に心は開かないからな」という強い意志を感じる。

ネットの情報を見ると、「ヒバカリがエサを全く食べず、泣く泣く元の場所に逃がした」という敗北宣言が溢れている。僕も一抹の不安を覚えたが、翌朝、ケージを覗いて驚いた。水場にいたはずのミミズ3匹が、綺麗さっぱり消滅している。そして、お腹を少し膨らませたヒバカリが、満足そうに水場を優雅に泳ぎ回っていた。

「勝った。」と確信した瞬間である。エサさえ食べれば、一先ずは安心。 ヒバカリの寿命は野生で3〜5年、飼育下なら7〜10年と言われている。
ただし、野生のミミズや小魚には寄生虫がいるリスクがあり、それが原因で短命に終わることもあるらしい。一度冷凍した小魚を解凍して与えるなど、「ひと手間」をかけることが、この小さな同居人の命を繋ぐ。
あとは過度な干渉(覗き込みや、ベタベタ触るハンドリング)は極力抑え、彼にとっての「ノンストレスなディストンス」を保ってやるつもり。


犬猫を愛する人、爬虫類に狂う人

ここで少し、哲学的な話をしよう。

世の中には、犬や猫、ハムスターなどの哺乳類を愛する人と、ヘビやトカゲ、カメなどの爬虫類に魅了される人がいる。どちらもペットに対する愛は深いが、その「心理的ニーズ」と「ライフスタイル」には、笑ってしまうほど対極の特性がある。

せっかくなので、一般的な愛好家の傾向をぶった斬りながら比較してみたい。


① 「愛のキャッチボール」か「究極の片想い」か

最も大きな違いは、情緒的なコミュニケーションの取り方。

哺乳類を好む人が求めているのは、【双方向の愛・共感・温もり】。
名前を呼べば尻尾を振り、悲しんでいれば寄り添い、お腹を見せて甘える。彼らは「お互いに愛し合っているという実感」と、抱っこしたときの体温に癒やされたいのだ。

一方で、爬虫類を好む人が求めているのは、【自立した関係・観察の喜び・畏敬の念】。
ハッキリ言うが、ヘビは人間に懐かない。脳の構造上、「こいつは飯をくれる安全なヤツ」と認識する(慣れる)のが限界。
爬虫類好きは、相手に見返りとしての愛情表現を一切求めない。
「ただそこにいて、元気で生きてくれている姿を盗み見させてもらうだけで満足」という、精神的に仕上がりすぎている自立した大人のスタンス(あるいは究極のマゾヒズム)を持っている。


② 「動的お世話」か「静的環境構築」か

ライフスタイルと、かけるエネルギーの方向性も真逆。

犬猫派は、毎日の散歩、ブラッシング、遊ぶ時間など、自分の時間をペットに直接捧げる【動的お世話】。
マメで活動的で、ペット中心の生活リズムを作ることが喜びになるタイプ。

対して爬虫類派は、【環境を管理する静的お世話】。
前述の通り、ヘビは触られるのが大嫌い。
その代わり、飼い主は温度、湿度、ライトの照射距離、ケージ内のレイアウトなど、「完璧な自然を再現すること」に狂気的な情熱を注ぐ。
これはもはや、アクアリウムや盆栽、あるいは精密マシンのセッティングに近い。理系っぽいこだわりを持つ職人気質が多いのも納得だろう。


③ 「可愛い!」の共有か「ブレない自分軸」か

世間の目に対するマインドの強さも違う。

犬猫派は【共有と共感】の世界線で生きている。
「うちの子、可愛いでしょ!」とSNSにアップすれば、世界中から「いいね!」と共感が届く。王道の安心感。

一方で、爬虫類派に必要なのは【ブレない自分軸】、悪く言えば頑固さ?
ヘビの写真をアップした日には、一定数の人間から「うわ、無理」「何考えてるの?」と引かれる。
そんな四面楚歌の環境にあっても、「他人がどう思うかなど知らん。
僕がこれが好きだから良いのだ」と言い切れる、マイペースで強靭なメンタルが求められる。


形は違えど、愛の深さは完全に同質

散々違いを並べ立てたが、実は両者には共通する最大の特性がある。
それは、「自分とは違う種族の命をリスペクトし、大切に守る」という、全く同じ優しい本能が流れているということ。

犬猫の飼い主が「今、お腹を空かせてないかな?」と心配するのも、僕がヒバカリに対して「水は汚れていないか」「今日のミミズの生きは良いか」と心を砕くのも、愛の深さのパトスとしては完全に同質のもの。

ただ、哺乳類の飼い主はそれを「抱っこや言葉がけ」というストレートな肉体言語で表現し、爬虫類の飼い主は「最適な温度管理と、そっと見守る静かな環境づくり」というストーカースタイルで表現する。
そのアプローチの違いこそが、生き物界の多様性というやつなのかもしれない。

さて、熱く語っているうちに、ケージの中の「その日ばかりの命(無毒)」が、再び植木鉢の裏の狭い隙間にピチピチと挟まりにいくのが見えた。
せっかく作ったシェルターを使ってくれない切なさはあるが、まあいい。
明日も僕の可愛い同居人のために、せっせと庭の土を掘り返して、最高にジューシーなミミズを調達してくるとしよう。

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