【創作大賞感想】絆を“むすぶ”
僕の息子はかなりの偏食で、好き嫌いがとても多いです。小学6年生となった今でこそ、食べられる物が増えましたが、幼少の頃は口にする物が本当に少なくて、奥さんが苦労していたことを覚えています。
そんな偏食な息子が珍しく喜んで食べてくれたのが、僕が作る”俵おむすび”でした。
ゆかりをご飯に混ぜて焼きのりで巻いただけのシンプルなおむすび。料理に不慣れが僕が作る”俵おむすび”は、いつもいびつで不格好でした。
でも息子は、そんな俵おむすびを、嬉しそうに食べてくれました。息子は今でも俵おむすびが大好きで、うちの食卓にはよく並んでいます。


以前僕の母親に、「息子が”俵おむすび”が大好きだ」と話したことがあります。母親はクスっと笑って「あんたも小さい時、おむすびばっかり食べてたわよ」と言いました。
幼い頃、息子と同じように好き嫌いがたくさんあった僕も、ゆかりおむすびを好んで食べていたそうです。
どうやら、僕も息子も”おむすび”に育てられたみたいです。”おむすび”という文化が日本にあって本当に良かったと思っています。
そんな”おむすび”のことを書いた、コノエミズさんのフードエッセイ【おむすびはもう隠さない】を拝読させていただきました。
はじめに
思えばどれだけのおむすびを結んできたことだろう‥‥
なぜいつもおむすび?と笑われそうだし、実際それは尋常でないくらいの回数になっている。
日本に居たならこんなにおむすびを作っていなかった‥‥
私は26歳を迎える年に、何かに突き動かされるようにしてイギリスに来た。どうしても独身時代最後の自由が欲しかった。約束の一年間の後は日本人の彼と家庭を作るというイメージだけが頭にあった。
ところがその人生は思いもかけなかった出会いに発展していく。一年が終わる頃にはイギリス人と恋に落ちていた。それが34年間一緒に居る夫だ。もともと日本に興味があった人ではなかった。決断がひどく苦手な性格でもある。彼にとって『日本』は、好きな女にくっついて来たもの。
それでも日本に来てくれた。若さという勢いと情熱は歳を取ってお金を積んでも手に入らない尊さがある。
私たちは日本で結婚した。
その夫が「イギリスに帰りたい」と言った時、今度は私が黙って受け入れる番だと思った。
長女巴奈が5歳、長男甲斐が3歳になっていた。イギリスに移住後、長女・長男とは9歳と6歳半離れた次男飛勇が生まれた。(すべて仮名)
これは日本人の私がイギリスに住んで25年間抱いてきたアイデンティティへの想いを綴ったエッセイだ。
フードエッセイ「おむすびはもう隠さない」は全5作となっており、「おむすび」を軸に、日本人としてのアイデンティティ、異文化での生活、家族の絆を描いた感動的で心温まるエッセイです。
このエッセイの最大の魅力は、”食”という身近なテーマを通じて、異文化での子育て、アイデンティティの探求、そして家族の絆を深く掘り下げている点だと思います。おむすびは単なる食べ物ではなく、コノエミズさんの日本文化への誇り、子どもたちの葛藤と成長、母と娘の愛情を繋ぐ象徴として描かれています。日本人なら誰でも馴染みのあるおむすびだからこそ、コノエミズさんの一つ一つのエピソードがより深く胸に刺さるような気がしました。
特に、僕が感動したエピソードは【その2】での子供たちとのお話です。イギリスと日本との文化の違いに葛藤する子供たち。『おむすびを隠してしまう』エピソードは、他者からの視線に対する防御、そして母に対する気遣いが伝わり、当時のコノエミズさんの心境を想うと、同じ子を持つ親として胸が痛みました。
ただ、このフードエッセイを通じて、子供たちの「おむすびを隠す」ことから「胸を張る」ことへの変化は、異文化の中で自分を受け入れる過程を力強く示しており、明るい希望を感じました。
また【その5】での、お母様とのエピソードは涙なしでは読めませんでしたし、強い感動を覚えました。おむすびは、コノエミズさんとお母様とを繋ぐ架け橋であり、そしてその想いは子どもたちへと繋がっています。まさにおむすびは『絆を結んでいる』のだと思いました。
この他にも魅力的なエピソードがたくさんありました。イギリスの食事情や修繕され続けたおむすび籠のお話などを、コノエミズさんはユーモアと深い感情の絶妙なバランスで書かれています。だからこそ、強い共感を覚えますし、お話に引き込まれるのだと思います。
「おむすびはもう隠さない」は、コノエミズさんがイギリスと日本で過ごして体験されてきた”人生”が綴られた珠玉のエッセイだと思います。おむすびというシンプルな存在が、日本文化への愛着と誇り、家族の愛と絆などを象徴する存在として、僕ら読者に深い感動を与えてくれました。とても素晴らしいエッセイで、心から拍手を送りたい傑作だと思います。
コノエミズさん。
本当に感動的で素晴らしいエッセイをありがとうございました。コノエミズさんのエッセイを読んで、改めて家族の絆について考えさせられました。
そして、久しぶりに”ゆかりおむすび”が食べたくなったので、息子の”俵おにぎり”と一緒にむすぼうと思っています。
コッシー
