【創作】闇の組織『イタリア〜ノ』の野望
ここは多様な文化が混在する街、東京の高円寺。表向きは『イタリア家庭料理教室ピッツェリア417』の看板を掲げる古びたビルの最下層では、闇組織『イタリア〜ノ』のメンバーが今日も密かに蠢いていた。
会議室の長テーブル。中央に座るリーダーの【コードネーム:ピザ】は、まるでピザ生地を均等に伸ばすように腕を組み、全員を見回した。
「諸君。我らの野望、日本人の主食を米から小麦に変える作戦「オールイタリアン」が、ついにオーブン200℃で予熱完了だ。フェーズ4に突入する」
ピザの声は低く、まるで冷え切ったマルゲリータのようにドライで、トマトソースの酸味すら感じさせる。
「おお!リーダー!ついに焼けたか!具体的な作戦はどうするんだ!?」
ピザの右腕である【コードネーム:グラタン】が前のめりで尋ねる。グラタンはいつも熱い。熱すぎて、ときどき表面が焦げる。そんなグラタンとは対照的に、とろける前のチーズのようにピザは声色を変えずに冷静に応える。
「来週発売される新商品『Okome de Pasta』を全国のコンビニに置かせる。味は……この際、どうでもいい。そこは関係ない。大事なのは見た目だ。お米かと思わせて実は小麦で出来ている」
「そりゃあいい!日本人はこの見事なアルデンテに気づきゃしねえ!」
グラタンが表面をカリカリに焦がす横で、組織の紅一点の【コードネーム:パスタ】がオリーブのようにコロコロと笑った。今日のパスタは”カルボナーラモード”だ。金髪に青い瞳、胸元が大胆に開いた白いワンピースでキメている。
「リーダー、例のごとく私が潜入しましょうか?製造元の社長、昨日も銀座でナンパしてましたよ。ああいうおじさんは、私の”ボロネーゼモード”で絡みつけばイチコロよ」
「ああ、その時は頼んだ。……で、新入りよ」
ピザの視線がテーブルの端に座る【コードネーム:リゾット】に刺さる。
「は、はい!」
リゾットはビクッと背筋を伸ばした。まだこの組織に入って三ヶ月。いつも緊張している。緊張しすぎて、ときどき表面がパラパラになる。
「お前には重要な任務を任せたい。コンビニ本部のバイヤーに『Okome de Pasta』を採用させる工作だ。一人でやれるか?」
「や、やれます!やらせてください!」
リゾットは勢いよく立ち上がった。が、その拍子にポケットから何かが落ちた。落ちたのは……白いレンゲだった。
一瞬、会議室が静まり返る。
「……おい、リゾット。それって」
グラタンがレンゲを凝視しながら声を震わせる。パスタは「あらあら、あなた中華に興味でも?」と目を細めた。ピザは深いため息をついた。
「……リゾット、お前まさか」
「ち、違います!これは、その、ただの土産でもらっただけで」
「土産にレンゲ?聞いたことねえぞ」
「それに、普通レンゲなんて持ち歩かないわよ」
ピザは、まるで窯の中で焼かれているような熱い眼差しをリゾットへ向けた。リゾットは、ブイヨンの量が少なすぎたみたいに固い表情を見せると、ガックリと肩を落とした。
「……実は、俺、中華組織『チャイナ』のスパイで、【コードネーム:あんかけチャーハン】って言います。この組織に潜入してたんです!」
「なにぃぃぃいいい!!」
「へぇ、裏切り者ってやつ?」
グラタンとパスタがペペロンチーノの唐辛子のように怒りに満ちた顔でリゾット……いやあんかけチャーハンを睨んだ。熱々の二人をパーラーで窯に入れるようにあしらうと、ピザは静かに立ち上がり、あんかけチャーハンの前に歩み寄った。
「それで?どうするつもりだったんだ?」
あんかけチャーハンはパラパラしながら全てを吐いた。
「コンビニ本部に『Okome de Pasta』の代わりに『あんかけチャーハン風おにぎり』を置かせる予定でした……」
「やはりか」
ピザはニヤリと笑った。初めて見せる、悪魔のような笑顔だった。
「あんかけチャーハン。お前、気づいてなかったようだな」
「え?」
「『Okome de Pasta』の隠し味は……実はあんかけソースなんだよ」
衝撃の事実に、あんかけチャーハンはかた焼きそばのように固まった。
「そう。味に深みをつけるために、中華あんの技術をこっそり盗んで使ってる。お前がスパイとして送り込まれた瞬間から、我々は既に『チャイナ』の技術を吸収済みだったというわけだ」
「すげえ!リーダーは全部お見通しだったのか!」「私たちも欺くなんて、さすがはピザね」
グラタンとパスタが伸びるチーズのようにピザを賞賛する。あんかけチャーハンの心はカットされたピザのようにバラバラだった。
「うそだろ……俺の任務は、全部パアか……」
「悪いな、あんかけチャーハン。お前は最初から、我々の“隠し味”だったんだよ」
あんかけチャーハンはがっくりと膝から崩れ落ちた。ピザは彼の肩に手を置くと、ハニーピザのように優しく囁いた。
「中華組織に戻るか?それともこのままリゾットとして生きるか?」
あんかけチャーハンが目を見開いて驚く。その頬には、水分の量を間違えたリゾットのようにビシャビシャの涙が流れていた。
「でも僕はあなたたちを裏切っていた……」
「何をピータンみたいにわけのわからないこと言ってんだ!俺たちはまだ何もされてねえ!」
グラタンが熱々餃子みたいな視線をあんかけチャーハンに送る。パスタは杏仁のように柔らかい目で見守る。あんかけチャーハン……いやリゾットはレンゲを捨てて、チーズグレーターでチーズをおろすように涙を拭った。
「ようこそ!リゾット。お前を歓迎するよ。これで我々は48ヵ月熟成したパルミジャーノ・レッジャーノのように、濃厚になった」
ピザの温かな言葉が3人をカルツォーネのように優しく包み込んだ。
その夜、全国のコンビニに『Okome de Pasta』がローマ法王のように威風堂々と陳列された。お米のような見た目と深みのあるあんかけソースがアモーレして、爆発的な売り上げを記録した。
こうして、日本人の主食は、少しずつ、だが確実に、小麦へと移行し始めていた。
闇組織『イタリア〜ノ』の野望は、出発したばかりだ。
おしまい
11月20日は【ピザの日】ということで、慌ててピザが主役のお話を書きました。あんかけチャーハンが無性に食べたくなりました。
ピザさんおめでとう🍕
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#次は7月10日です
