長男が、悔し涙を隠した日。
長男の通っているスイミングスクールでは、二ヶ月に一回、進級テストがある。
今回の課題は、10メートルのノーブレスクロール。
練習は頑張っている。
けれど、足のキックを意識しながら、腕を大きく回すのは、まだ少し難しそうだった。
……今回は合格は厳しいかもしれない。
正直、そんなふうに思っていた。
当日、「合格するぞーー!」と気合満々の長男。
家を出る前、リビングで一緒に腕の動きを確認した。
テストの時間になる。
一人ずつ名前を呼ばれ、先生の前で泳ぐ。
その日は、長男よりも体の大きい子が多かった。
順番を待ち、ビート板の上にちょこんと座る長男の背中が、いつもより小さく見える。
長男の番。
がんばれ、と思いながら見ていたけれど、親の目から見ても、合格は難しそうな泳ぎだった。
全員のテストが終わり、今度は一人ずつ、先生に呼ばれて結果を告げられる。
今回テストを受けた子の、九割近くが合格しているようだった。
長男が呼ばれる。
先生と少し話し、励ますように背中をそっと撫でられていた。
……だめだったんだな。
観覧席から、そう悟る。
合格したとき、長男はいつも、にっこにこの笑顔で観覧席のわたしを探し、親指を立ててグーのサインをする。
けれど今日は、こちらを振り返ることなく、ビート板に座った。
その背中が、さらに小さく見えた。
座ったあと、隣にいた男の子と、何やら話している。
首を横に振って、会話は終わったようだった。
その後、何度か長男が自分の顔を拭っているのが見えた。
その小さな背中を、早く抱きしめたかった。
シャワーを浴び、更衣室に戻ってきた長男は、わたしを見つけると、眉毛を下げた、少し困ったような、照れたような顔で笑った。
「だめだった」
小さな声だった。
「そっか。がんばったね」
それだけ言って、着替えを手伝った。
これまでも、テストで不合格だったことはある。
けれど、長男が今日のように泣いてしまったのは、初めてだった。
なるべく悲しい思いをしなくてすむように。
そんなふうに思ってきたけれど。
頑張ったのに、結果が出なかったこと。
それを、悔しいと思ったこと。
この経験は、きっと長男を強くする。
合格して、できることが増えるようになるだけが「成長」ではない。
あの日、決してわたしに弱い顔を見せなかった長男の背中に、そんなことを思った。
