そいじゃ、次男くんが一緒に行ってあげるわ!
長男は、少しだけ怖がりだ。
昼間でも、一人で二階へ行くのは苦手。
忘れ物を取りに行くとき。
誰もいない部屋で待つとき。
夜、寝る前に一人でトイレへ行くとき。
そんな場面になると、決まって聞こえてくる声がある。
「そいじゃ、次男くんが一緒に行ってあげるわ!」
少したどたどしい「そいじゃ」。
「それじゃ」がまだうまく言えなくて、私の口癖を真似したようなその言葉が、なんとも次男らしい。
すると長男は、小さな声で
「……ありがとう。」
と言って、二人で並んで歩いていく。
この光景を、私はもう何度も見ている。
最初は驚いた。
「えぇー!助かる!」
ちょうど三男のおむつを替えていたり、料理中だったり、どうしても私が動けないタイミングが多いから。
「ママが行ってあげたいのに。」
そう思っていると、次男が当たり前のように立ち上がる。
誰に頼まれたわけでもない。
「行ってあげて。」と言われたわけでもない。
長男が困っている空気を感じると、
「いこ!」
と手を差し出している。
そして戻ってくると、少し胸を張って言う。
「ママ!次男くんが一緒に行ってあげた!」
その誇らしそうな顔を見るたびに、
「しっかりお兄ちゃんじゃん。」
と思わず笑ってしまう。
でも、不思議だ。
その数分後には、
「ママー、ぎゅー。」
と抱きついてくる。
歯磨きは、
「やってー。」
眠くなれば、
「ママの隣で寝る。」
布団に入れば、
「ママすきだよ。」
そう言って、腕にぎゅっと巻きついてくる。
まだまだ甘えん坊。
だから私は、つい忘れてしまう。
この子もちゃんと、大きくなっていることを。
最近では、長男のほうから
「次男くん、一緒に行こ。」
と誘うことも増えた。
すると次男は、待ってましたと言わんばかりに、
「いいよいいよ!いこ!」
と歩き出す。
兄が弟を守る。
そんな場面はよく想像していた。
でも我が家では、ときどきその逆になる。
もちろん、次男は長男に憧れている。
ポケモンも。
遊びも。
おもちゃも。
なんでも真似をしたがる。
それでも、「守ってもらう」だけじゃない。
自分にできることがあると思ったら、小さな体でちゃんと動いている。
親って、つい子どもの成長を大きな出来事で探してしまう。
補助輪が外れた。
逆上がりができた。
発表会で大きな声が出せた。
テストでいい点を取った。
もちろん、それもうれしい。
でも子どもと暮らしていると気づく。
本当の成長は、もっと静かだ。
「ありがとう。」
と素直に言えること。
誰かが困っていることに気づけること。
「一緒に行ってあげる。」
と自然に体が動くこと。
そういうものは通知表にも書かれないし、写真に残しても何気ない一枚かもしれない。
でも何年か経って、
「子どもたち、小さかったね。」
なんてアルバムを見返したとき。
私が思い出すのは、案外こんな一場面なんじゃないかと思う。
「そいじゃ、次男くんが一緒に行ってあげるわ!」
あの日、長男の手を引いて歩いていった小さな後ろ姿。
あれもきっと、この子が大きくなっていた証なんだ。
親は、子どもの成長を探そうとしてしまう。
でも本当は、成長は探しに行くものじゃないのかもしれない。
何気ない毎日の中で、
ふと耳にした一言や、
何気なく見た後ろ姿の中に、
「こんなに大きくなったんだ。」
と思う瞬間が、ちゃんと隠れているのだから。
