中央線百景⑦「武蔵境」
立川を起点に東へ向かいます。今回は武蔵境編。
1991年春、留年が決まって2度目の大学4年生をやるハメになった。両親はもう学費を出してはくれず、バイト代でなんとかしなければいけない。冷や汗をかきながら「FROM A」を開くと、新しくできる吉祥寺のカラオケボックスがオープニングスタッフを募集していたのですかさず応募した。
バイトの合格者が集められたスナック(オーナーが駅前で手広くやっていた)に大分県出身のM子がいた。彼女とシフトが一緒になったときに色々話しこむと、立川の短大に通う2年生だという。
とにかくノリのいい娘で、すぐに仲良くなってあちこに出かける仲になった。M子は武蔵境の駅近に住んでいて、駅前にあるイトーヨーカドーで一緒に»色々と買い込み、彼女の住む部屋でわいわいやった。
四六時中一緒にいるので、周囲はカップルだと思っていただろう。友人から「彼女?」と聞かれたら、「まぁ、そんなようなもの」みたいな答え方をしていた。でも実はちゃんと付き合っていたわけではなかった。彼女は系列のスナックでバイトをしているイケメン大学生に恋をしていたのだ。
M子は短大を卒業すると、今でいうバブルっぽい恰好の高級アパレルに就職。社販で自分の服を買うので、いわゆるジュリアナにいるようなケバめの女子に変貌、薄汚いロック崩れの僕とは釣り合わなくなった。自然と疎遠になり、連絡をとることもなくなった。
本当はM子にベタ惚れだった。30年近く経つのに、車窓からイトーヨーカドーを見るたびM子のことを思い出してしまう。
