塩を振ったのか、腕を振るったのか
前職で某有名企業で働いていた当時、いつも昼ごはんは毎日配達される社食のお弁当だった。
このお弁当、実を言うとあまり美味しくはなかった。
そのお弁当を作っている会社は、一般ではなく企業向けに社食やお弁当を作っている。
栄養士が栄養素やカロリーを計算したレシピで、毎日違うメニューを作っているらしい。
しかしこのお弁当が、現場で働いている人たちからはいつも不評だった。
ある日、転職した現在の僕が働いているメガネ屋に、そのお弁当の会社で働いている方がメガネを買いに来た。
懐かしくなってしまって、ついついその会社の社食やお弁当の話で盛り上がった。
しかし僕は盛り上がったテンションのまま、
「薄味ですよね」
「あと、なぜかカレーの日が多いですよね」
と、無神経にもその会社へのクレームとも受け取れることを言ってしまう。
「しまった!」と思ったのも束の間、
「今は栄養士さんが変わって味が濃くなったんですよ」
と教えてもらった。
この会社のお弁当、僕が食べていた当時はとにかく薄味だった。
素材の味しかしない。素材の味しかしないということは、物によっては味がしない。目を閉じて食べたら何を食べているのかもわからない。
しかしある時期だけ、突然味が濃くなったことがあった。
でもこれは、あまりの薄味さに「こんなもの俺が作りたい弁当じゃねぇ!」と反乱を起こした調理師さんが、指示されたレシピは無視して独断で味付けを変えて作ったものだった。
それがバレてしまってその調理師さんは退職したらしい。その途端にまた薄味のお弁当に戻った。
しかし、その調理師さんの仕事を犠牲に僕たちは美味しいお弁当にありつけた。あれは確かに美味しかった。
でも今は、新しい栄養士さんによって初めから濃い味のお弁当になっているらしい。
それはその栄養士さんが、
「塩分は摂ってなんぼじゃい!塩じゃ!塩を持てい!」
と、あの日の調理師さんのように進退を賭けて味の濃さを求めているのだろうか。
それとも、計算すべきカロリーや栄養素といった要件は満たしつつ、薄くもなく美味しいレシピを完成させているのだろうか。
もしもそうであれぱ、味の薄さは栄養士さんの腕の違いということかもしれない。
「栄養士が考案したレシピ」
そう聞くと、健康的であることと同時に薄味でもあると覚悟をしている。
味よりも、とにかくカロリーが低いこと、そして塩分がないことだけに着目された料理。
そこに「美味しい」は後回し。
「健康のためには薄味を我慢して食べなさい」と言われている空気に、僕は箸を突き立てたい。
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路上にチップもらう用のシルクハットを置いてパントマイムするの、実はやってみたかったんです