速い思考と遅い思考(システム1とシステム2)
社内の研修で顧客交渉のロールプレイをする場面がありました。
顧客のニーズと、こちらのニーズがいくつかあって、一致しているものもあれば、不整合なものもいくつかあります。ケースの中では、それぞれの背景や立ち位置などの複雑な文脈があるのですが、単純化すると「不整合なニーズ」は2つでした。これを説得することになります。
かなり限られた時間で行うのですが、緻密に論理構成を考えて記憶しようとするタイプの人もいれば、ざっくりと要点を捉えてストーリーとして頭の中に入れておくタイプの人もいました。
文章で時間をかけてやり取りできるのであれば前者でいいかもしれませんが、対面で交渉をする場合は、後者のタイプがわかりやすく上手くできていました。
「システム1とシステム2」を意識するといいと思うよ、とお話ししました。
システム1とシステム2とは何か
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンが書いた「ファスト&スロー」で有名になりましたが、システム1とシステム2については、以下のようなことが記述されています。
・脳の中には2つのシステムがある。システム1は自動的に高速で働き、努力はまったく不要か、必要であってもわずかだ。システム2は、複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる。
・あなた(システム2)が考えたり行動したりすることの大半は、システム1から発している。だがものごとがややこしくなってくると、システム2が主導権を握る。最後の決定権を持つのは、通常はシステム2である。
つまり、システム1とは、直感的で速い思考。ワーキングメモリが不要だけど、バイアスもかかりやすい。システム2は、論理的で遅い思考。ワーキングメモリが必要だけど、最終的な意思決定はこちらが行うこと、になります。
心理学においては、二重過程理論として1970年代頃から研究がされていますが、「システム1」「システム2」という名称を最初に提案したのは、認知心理学者のキース・スタノビッチとリチャード・ウェストです。「心は遺伝子の論理で決まるのか-二重過程モデルでみるヒトの合理性」という書籍にもなっています。
わかりやすく解説しているブログもありました。
テンポの速い会話はシステム1でしている
もしかするとシステム2ですら、尋常ではないスピードで動く人がいるかもしれませんが、多くはないでしょうから、ここではそういう人は例外として考えます。
何かを交渉しようとする場で考えると、全体の情報と論理構造を詳細に把握するのは、システム2です。これもある程度必要なのですが、システム1で大事なポイントを押さえて、ストーリーとして頭に入れて、厳密に記憶しようとしすぎない。情報量が多い場合は、メモや資料などをすぐに見られるように用意しておく。意思決定はシステム2でしているので大事なのだけど、完璧を求めすぎない。システム2に注力しすぎると、棒読みになったり、相手の話が頭に入らなかったり、話が膨らまなかったりします。
自転車に乗るときは、体をどういう順番で動かすかを考えることもなく乗っていると思いますが、実際には論理的に説明できる理に適った動作をしているのだと思います。ただ、説明をしようとすると、ものすごく労力も時間もかかるし、本当に説明したら、脳を消費して疲労感がすごいことになると思います。
仕事における会話が苦手な人はシステム1を意識しよう
仕事における会話が苦手だと思っている人の中には、システム2ばかりを使っている人も多いのではないでしょうか。
そうだとすると、それは最初の一言、二言ぐらいは大丈夫だと思いますが、あらかじめ想定した展開にならないと変化に適応するのに遅くなるか、ついていけなくなって黙り込むことになるのだと思います。
自転車に乗る時に全てなぜ次の動作をするのかを考えながら漕ぐと、ゆっくりとしか進めなくなりま。その人は感覚的に乗る人(これが普通だと思いますが)とスピードが合わなくて並走が難しいことに似ています。
考えれば考えるほど、システム2を使ってしまっている人もいるのではないでしょうか。この状態に陥っていることに気がつくことから始めるのがよいと思います。
場数を踏むことによって、いつの間にかシステム2がシステム1になっている人もいるでしょう。自転車に乗れるようになるのも、泳げるようになるのも、理論はあると思いますが、実際に体を動かさないと習得できません(システム1にならない)。仕事における会話も、実際に何度も実際に繰り返すことが必要です。
やってみようという精神と行動、それから緻密な準備を全て記憶しようなどとは思わずに、短いストーリーを無意識の中に入れて、委ねてみることが良い方法なのだと思います。
