なんか、ない?いいアイデア|#片想い文芸部
アイデアも、いいかげん尽き果てた。
彼女に恋をしてからというもの、なりふりかまってはいられなかった。
映画のチケット、落としたシャーペン、今日の星座占い。
なにかにつけて話しかけ、少しでも笑顔にしたくて笑わせた。
直球勝負で「デートしてください!」と誘った日もあった。
でも、いつも彼女はすました顔で、あいまいな返事をするだけ。
もういい加減あきらめるべきなのかもしれない。
でも、僕のするバカげたことで、太陽みたいに笑う彼女を見るだけで、どうしようもなく繰り返してしまうんだ。
何度だって跳ね上がる。君の笑顔に届くまで。
でも、それも限界だ。
なんか、ない?いいアイデア。
「引いてみるのもありじゃない?」
昼休み、呆れ顔の親友からもらったアドバイス。
それもいいかもしれない。押してダメならなんとやら、だ。
その日から僕は彼女をあえて避けてみることにした。
日に何度も見ていた彼女に会えない。
自分で決めたことなのに、ひどく息苦しい。
まるで水から打ち上げられた魚みたいだ。
この苦しみの中でずっと生きていくんだろうか。
そしていつか、この痛みも消えてしまって、魚は陸地で生きられるようになってしまうんだろうか。
それは進化か、はたまた退化か。
僕にはわからない。
廊下で偶然すれ違った時、まともに彼女の顔を見れないまま、小走りで通り抜けてしまった。
彼女は変に思っただろうか。
でも今、なんでもないように過ごす君を見てしまったら、僕はどうにかなってしまうと思ったんだ。
彼女に会いに行かなくなって一週間。
彼女は今頃部活だろうか、とぼんやりしながら校門をくぐろうとした。
門のところに、彼女がいた。なぜ。
「遅かったじゃんか」
僕に話しかけているのか?なぜ。
「部活今日休みなの」
そうなんだ。で、ここにいたのは、なぜ。
「……」
なにもいわないのは、なぜ。
僕の中の“なぜ”が、都合のいい妄想ばかりを膨らませていく。
肩にかけたカバンの取っ手を指でぎゅっとねじりながら、彼女はうつむき続けている。
考えろ、考えろ。この状況を納得させるだけのリアリティを。
「ねぇ、なんか言ってよ」
こっちの台詞なんですよ。なぜ。
「こっちから声かけたことなんてないから、何言ったらいいか、わかんないよ」
夕日が民家の窓に反射してやけにまぶしい。
胸に差し込む閃光に、息が止まる。
急に水に投げ込まれたら、魚だって悲鳴をあげる。
「得意でしょ、いろいろ考えるの。こんな時、どうするのがいいの」
胸の奥で、栓の外れる音がした。
枯れたと思っていた泉が、今や新鮮な水をたたえて、滾々と湧き上がる。
どうやって君を笑顔にしようか。
どうやって君の隣で、笑おうか。
僕に水をくれた君に、宙返りだって、なんだってしようじゃないか。
彼女はおずおずと僕のシャツの袖を掴んで、上目遣いでとどめをさす。
「ねぇ、どうしたらいい? なんか、ない?――いいアイデア」
#片想い文芸部 「アイデア」に寄せて。
冒頭も終わりも入れてみました。
最近湿度が高くて、まるで水の中を歩いているような毎日ですね。
魚になれば、こんな夏も快適なのかしら。
息ができないほどの恋なら、苦しみもまた喜びでしょうね。
でも湿気、君はだめだ。暑さも御免こうむりたい。
秋よ来いと願いつつ夏に向かってまいります。
いいなと思ったら応援しよう!
楽しんでくださってありがとうございます。紺夜灯にこんぺいとうをひと粒あげてもいいよ、と思われましたら、こちらからよろしくお願いします。あなたの感想が、あなたのひと粒が、私の大きな糧になります。