宇宙人チョピット・エピソード0『旅のはじまり』
『旅のはじまり』
空がうっすらとピンク色に染まるころ、ひとつ目の月がこっちにしずむと、それを待っていたかのように、あっちのほうから、ふたつ目の月が顔をだしました。
ここは、名もない銀河のはずれにあるちいさな星、ピピット星ーーー。
その星のまんなかには、ドーナツみたいにぽっかりと、大きなあながあいています。
そしてそのあなの中は…といいますと、空からおりてきた虹で、たっぷりとみたされておりました。
虹は、青からむらさき、むらさきからオレンジ、オレンジからみどりへと色を変えながら、まるで、すやすやとお昼寝をするねこのおなかのように、ゆったり、ゆったりと、ふくらんではしぼんでいました。
…と。
その光が、ときどきしゅわん、しゅわんと舞い上がりはじめて、チョピットは、「まってました!」とばかりに、首をのばしました。
ピピット星人チョピット。
そのチョピットがかぶっている、もこもこした頭巾から、すみれいろをしたことり、チーチーがぴょこっと顔をだしました。
「なにかご用かチーチー?」
チーチーは、ピピット星でいちばんの発明家、『モケラーノ・ゼルファニウス・クァジリオン・リリンダリア・シグナルス・デルタ・オメガノン博士』が発明した、”チョットチーチーチー”…つまり、なんでも教えてくれる、ものしりなことりです。
「あ、いいえ、ちがうのです! この光がしゅわんしゅわんと舞い上がりはじめたら、そろそろ『ベルカント先生』と『オルフェ先生』がくる合図なのです!」
チョピットが、あなを指さしていいました。
「チチッ……」
チーチーはつぶらな瞳をくるくるまわして考えます。
「『ベルカント先生』と『オルフェ先生』とは、星と星をつなぐクジラだチーチー。
星の中心には、宇宙のエネルギーが集まってできた、『コア道路』とよばれるトンネルがあって…」
そのときでした。
虹色の光が、もぁーーーーんともりあがったかとおもうと、
シャララララーン!
星がこぼれるような音とともに、大きなふたつのあたま…クジラのベルカント先生とオルフェ先生があらわれました。
「やぁ、チョピットくん!」
「ひさしぶりだこと!」
ベルカント先生とオルフェ先生が、よくとおる声で、歌うようにいいました。
「ベルカント先生、オルフェ先生こんにちは!
こんどはどんな星にいってきたのですか? はやく、はやく!お話ききたいです!」
チョピットは待ちきれないように、まるいしっぽをピカピカ光らせていいました。
ベルカント先生とオルフェ先生は、星と星をつないで、その間をわたる星遊人(せいゆうじん)です。
チョピットはいつも、このふたりから、しらない星の話をきくのがだいすきなのでした。
「ふぉっふぉっふぉっ! まぁお待ちよ」
「きょうはチョピットくんにーーー」
「すてきなおみやげがーーー」
「あるのよ~」
ベルカント先生とオルフェ先生はそういって、金色に光る、まぁるい板をとりだして、チョピットの前にそっとおきました。
「きれいです! なんですか、これは!」
それはお皿のようにも見えます。
満月のようにも見えます。
でも、どちらともすこしちがいました。
まんなかにはポツッとあいた、ちいさなあな。
そして、板の表面には、ぐるぐるとほそい線が、何重にもきざまれていました。
それだけではありません。
見たこともない記号や絵が、びっしりと描かれたケースもいっしょにありました。
「ひろったんだーーー」
「ここへくるとちゅうーーー」
ベルカント先生とオルフェ先生が歌います。
「はるかうーんとむかしの話ーーー」
「どこかの星がおくったというーーー」
「宇宙へのーーー」
「メッセージーーー」
「宇宙への…メッセージ…?」
チョピットの目がかがやきました。
「チチッ…『宇宙へのメッセージ』といえば、むかしむかし、どこかの星が、まだ会ったことのない、はるか遠くのともだちへ、『わたしたちはここにいるよ』と、黄金のメッセージを送った、という伝説があるチーチー」
「その黄金のメッセージはーーー」
「今も宇宙をーーー」
「飛びつづけているとかーーー」
「いないとかーーー」
「も、もしかして……」
チョピットは、ごくりとつばをのみました。
「これが…そのメッセージかもしれない…ですか?!」
「ロマンだねぇーーー」
「ロマンだわぁーーー」
ベルカント先生とオルフェ先生は、歌うようにそれだけいうと、またシャララララーンと音をたてて、虹のあなの奥深くにもぐっていきました。
チョピットは、もういちど、まるい金色の板をみつめました。
この向こうに、まだ会ったことのない、だれかがいるような気がしたのです。
「『伝説』とは、事実である可能性より、作り話である可能性のほうが高いチーチー。信じすぎはおすすめしないチーチー」
チーチーがきいろいくちばしをとんがらせていいました。
ですがチョピットは、
「でも、ほんとうだったらワクワクします!」
というなり、かけだしました。
「もー!」
あまり気がすすまない様子のチーチーも、しかたなく後をおいかけます。
チョピットがやってきたのは、モケラーノ・ゼルファニウス・クァジリオン・リリンダリア・シグナルス・デルタ・オメガノン博士の研究所でした。
「え、ちょっ…マジ?! ヤバっ!」
レインボーカラーの頭巾をかぶったモケラーノ博士は、ケースに描かれた記号や絵を見たとたん、興奮気味にいいました。
「あんたたち、これはひょっとしたらひょっとするかもよーっ!」
どうやらケースに描かれた記号や絵は、このまるい金色の板の説明書のようでした。
モケラーノ博士は、引き出しから、
ネジを一本。
レンズを二枚。
光るパイプを三本…といった具合に、あれやこれやと道具をあつめて、再生装置を完成させました。
それからしんちょうに、まるい金色の板をセットしました。
そこからうつしだされたものはーーー。
その星の風景。
その星に生きるもの。
その星の音。
ことば。
あいさつ。
音楽。
そして、おいしそうな料理。
伝説は、ほんとうでした。
気の遠くなるほどの年月をこえて、この星が伝えたかったメッセージが、いま、ここに届いたのです。
チョピットたちは、しばらくのあいだ、そこにうつしだされた青くうつくしい星を、ただだまって見つめていました。
やがて、チョピットが、キュッと頭巾をかぶりなおしていいました。
「ワタクシ、この星にお返事をしたいです!」
…これが、チョピットの旅のはじまりでした。
まだ会ったことのない、はるか遠くのともだちへ。
こんどはこちらから、「お返事」を届けにゆくのですーーー。
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※今回登場した「黄金のメッセージ」は、1977年に地球から宇宙へ送り出された「ゴールデンレコード」にヒントを得ています。
ゴールデンレコードには、地球の音楽やあいさつ、自然の音や写真などが収められています。
いつか、宇宙のどこかのだれかに届いたらーーー。
そして、そのだれかが返事をくれたらーーー。
そんな想像から、チョピットのお話は始まりました。
これからも、引き続き読んでいただけたら、とてもうれしいです。
