TBSドラマ『VIVANT(第1シーズン)』感想
以下、作品の結末や核心に触れる内容を含みます。

序盤から、乃木が本当にただの冴えないサラリーマンなのか、ということは気になっていた。さすがに頼りなさすぎて逆に怪しかったので、「まあ別班だろう」と考えていた。
そのきっかけの一つが、太田梨歩がブルーウォーカーだと判明した場面である。世界的な天才ハッカーならいくらでも稼げそうなのに、なぜ丸菱商事で普通の会社員をしているのか。それは乃木と接点を持つためではないか。そして、そこまでして接触する必要のある乃木もまた特別な人物なのではないか、と推理した。結果的に乃木が別班だということは当たっていたものの、太田が丸菱にいたのは山本に脅されていたからなので、推理の根拠は完全に外れていた。太田は山本にも公安にも正体を見抜かれており、登場直後は「天才ハッカーのわりに結構ポンコツなのでは」と思った。ただ、後半では実力を見せてくれたので良かった。
他に意外だったのは、乃木と柚木薫が恋愛関係になることだ。バルカからの逃亡中は仲間という印象が強く、そこから恋愛に進むとは思っていなかった。
乃木と野崎の関係は好きだった。バルカへ向かう飛行機のあたりでは、野崎は乃木が別班だと知っており、乃木もそれを察している。さらに野崎も、乃木がそこまで察していると分かっている。そうした暗黙の了解を共有したまま会話をすすめている感じが良かった。
最も衝撃的だったのは、テントとの接触時に乃木が別班の仲間たちを撃った場面である。ここは一瞬、何が起きたのか分からなかった。テントのアジトで黒須を撃てた理由は、乃木の重さが分かる能力で説明がつけられたが、だからこそ、あそこで残りの四人まで殺す必要があったのかは気になった。テント側が「即死」と判断している以上、本当に死んだのかとしか考えられないが、物語の筋としてはどうしてもそうは思えない。
そこにはきちんとしたからくりがあり、それを成立させる役目を野崎が担っていたのが良かった。乃木は四人の命を残しつつ、テントには本当に殺したと思わせる必要がある。そこで、乃木は、野崎が救命や偽装工作をしてくれることまで計算に入れていたのであった。ここは乃木が野崎を信頼していたことも分かる良い場面だった。
ただ、それでもあそこまで危険な方法で潜入する必要があったのかは疑問だった。実際、乃木はテントのアジトで拘束され、しばらく雑務をやらされている。それでも賭けに出た根拠の一つが、ジャミーンがベキを「善い人」と判断していたことなのだと思う。単に父親だから信じたいというだけでなく、ジャミーンのお墨付きもあった。危険な賭けではあるが、踏み込む理由が用意されていたのは良かった。
テントの善悪は簡単には決められない。テロを請け負っていた以上、巻き込まれた人間もいるし、明確に悪い行為はしている。一方で、孤児や貧民を救うという目的があり、依頼を選ぶ際にも犠牲をなるべく減らそうとしていた。ある程度、"いのパ(犠牲となる命あたりの報酬・造語)"を重視していたように見える。もちろん、それでテロが正当化されるわけではない。それでも、善い目的のために悪い手段を使う組織という描き方は面白かった。
さらに、アディエルを救ったのがベキたちであり、そのアディエルの家で乃木が生まれていたと分かる流れにはぐっときた。つまり、間接的にはテントが乃木の命の恩人でもあるわけで、ここまで来ると単純な悪として見ることはできない。
それでも、テントの過去の悪事を帳消しにせず、最後にベキたちが責任を負う形にしたのも良かった。
ベキに乃木の潜入が見抜かれたあと、黒須と共に解放される場面も良い。「俺にだけは言って欲しかった」という黒須の言葉には、乃木への強い思いが表れていてぐっときた。また、「当然です。ずっと乃木さんのそばで鍛えてきましたから」という台詞も好きだった。ここは、二人の信頼関係が伝わってきて、かなり好きな場面だった。
バルカ政府との最終局面は、野崎が現れる場面には爽快感があったものの、そこまで惹かれなかった。多民族・多宗教国家で政府自体も盤石ではなく、ワニズも圧倒的な強敵には見えなかったので、比較的安心して見ていた。
最後にベキが日本へ戻り、上原への復讐に向かう展開は少し置いていかれる感じがした。乃木が父を撃って止めるという重い場面なので、もっと感情的に演出できたようにも思う。ベキは乃木が止めにくることも分かっていて、最後は息子に自分を止めてもらいたかったのだろう。そして、乃木が止めてくれるのであれば、復讐を果たさなくても明美は自分を許してくれる、という筋道も理解できた。ただ、それを踏まえても一連の場面はやや単調で急ぎ足に感じ、個人的にはそこまで強く響かなかった。
全体として、期待値が高かったぶん、それを大きく超えるほど面白かったわけではない。ただ、乃木と野崎の読み合い、仲間の別班を撃つ衝撃、テントの善悪を単純化しない構図、乃木と黒須の関係など、印象に残る場面は多かった。あとから振り返ると「あの行動にはこういう意味があったのか」と腑に落ちる場面が多い作品だった。

