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「頑張らなくなった」のではなく、頑張る理由を失った。

「頑張らない」は、いつ決めた?

「静かな退職」という言葉を、最近よく耳にするようになりました。

仕事はきちんとする。でも、それ以上は頑張らない。昇進や出世を求めず、必要以上の仕事も引き受けない。

そんな働き方を指す言葉ですが、働く人の相談に関わる立場として、私は聞くたびに少し引っかかるものがあります。

その人は、本当に自分で「頑張らない」と決めたのだろうか。

今はそう見える人でも、最初からその働き方を選んでいたとは限らない気がするのです。

以前はもっと、自分から職場に働きかけていた人もいるかもしれない。

私自身にも、一時そんな時期がありました。



まだ、職場に期待していた

以前の職場で働いていた頃、仕事をしていて気になることがあると、自分なりに改善方法を考えて上司へ話すことがありました。

別に、「成果を上げて評価されたい」とか、「早く昇進したい」と強く思っていたわけではありません。

もっと単純な話です。

毎日やる仕事なら、改善できるところは改善した方がいい。その方が自分たちも仕事をしやすくなる。

そんな感覚でした。

仕事をしていると、「ここを変えた方が効率がいいんじゃないか」「このやり方だと、また同じことが起きるんじゃないか」と思うことがあります。

そういうことに気づくと、自分なりに考えて上司へ伝えていました。

もちろん、当時の私には見えていなかったこともたくさんあったと思います。

それでも、自分なりに職場を良くしたいとは思っていました。

今振り返れば、その時の私はまだ、

「言えば、何か変わるかもしれない」

と職場に期待していたのだと思います。


まずは成果を出してから

ところが、提案をしても、なかなか話が進みませんでした。

上司から返ってくるのは、

「まずは自分のミッションで成果を出してから発言して」

「まだ未熟なんだから、会社のやり方をマスターすることを優先しなさい」

という趣旨の言葉でした。

私はもともと、自分の能力が高いと思っていたわけではありません。

だから「まず成果を出してから」と言われれば、

「まあ、そうなのかもしれない」

と受け入れていました。

今振り返っても、上司の言っていたことがすべて間違っていたとは思いません。

まずは会社のやり方を覚える。任された仕事で、求められる成果を出す。それも組織で働くうえでは必要なことだと思います。

ただ、同じようなやり取りが続くうちに、だんだん別のことを感じるようになりました。

今になって振り返ってみると、私は別に、自分の提案を採用してほしかったわけではなかったのだと思います。

「なるほど、そういう考え方もあるね。ただ今回は、こういう理由で今のやり方でいこう」

そう言われていたら、たとえ自分では腑に落ちなかったとしても、

「そういう考えなら、仕方ないか」

と、いったんは飲み込んでいたと思います。

そしてまた何か気になることがあれば、懲りずに話していたでしょう。

提案が通らないことより、

自分なりに考えたことを、まずは聞いてもらいたかった。

今振り返ると、私にはそちらの方が大きかったのだと思います。


言うのを、やめた

それから、私は少しずつ変わっていきました。

会議でも以前ほど発言しなくなり、仕事をしていて気になることがあっても、上司に話さなくなりました。

指示された仕事や求められたことはする。でも、それ以上のことには、あまり関わらない。

そんな働き方になっていきました。

ただ、

問題に気づかなくなったわけではありません。

改善案が浮かばなくなったわけでもありません。

ただ、それを口に出さなくなりました。

頭の中では「こうした方がいいんじゃないか」と思っている。

でも、そのあとに、

「まあ、言っても仕方ないか」

と考える。

そして、そのまま自分の中にしまう。そんなことが増えていきました。

当時から「もう思考停止で仕事をしよう」と決めていたわけではありません。

気づいたら、

「この人の下で働いている限り、何を言ってもムダなんじゃないか」

と思うようになっていた。

その方が、実際の感覚には近いです。


それでも、ラクにはならなかった

では、意見を言わなくなって仕事が楽になったかというと、そうでもありませんでした。

むしろ、「こうすれば少し楽になるのに」と思いながら今までのやり方を続ける。それはそれで面倒でした。

気持ちの面でも、楽になったわけではありません。

以前より仕事がつまらなくなり、「会社の中で、自分の存在価値ってなんだろう」と考えることもありました。

とはいえ、会社を辞めるほどでもない。上司と戦うほどでもない。

普通に働いていれば、給料はもらえます。

だったら、わざわざ抗わなくてもいいか。

そんな気持ちもありました。

でも、以前のように職場を良くしようとも思わない。

今振り返ると、その時は少しずつ、仕事に期待しなくなっていたのだと思います。


誰にも気づかれない変化

私が意見を言わなくなっても、仕事は普通に回っていました。

会社から求められた仕事はしていましたし、それで大きな問題が起きたわけでもありません。

表面上は、何も変わっていません。

今なら、上司には上司なりの考え方があったのだとも思います。

すでにある仕組みの中で、きちんと業務を遂行する。

それも一つの仕事の仕方です。

だから今振り返っても、上司だけが悪かったとは思いません。

ただ、一つだけ変わりました。

その職場から、

「もっと良くできるかもしれない」と考え、それを口にする人が一人減りました。

それだけです。

仕事は回り、本人も働いている。大きなトラブルが起きたわけでもありません。

たぶん、外から見ているだけでは分からない変化だったと思います。


「これでいい」と「もういい」

昇進を求めない。必要以上の仕事を引き受けない。決められた時間の中で、自分の仕事をきちんとする。

仕事以外にも大切なものはあります。

自分で考えたうえで、

「私は、これでいい」

と選んだ働き方なら、それも一つの選択だと思います。

でも、同じように見える人の中には、

「もういい」

と思った結果、そうなった人もいるのではないでしょうか。

何度か働きかけ、自分なりに考えて伝えてみた。

でも、だんだん期待しなくなり、必要なことだけをするようになった。

「これでいい」と「もういい」。

外から見れば、そんなに違わないかもしれません。

でも、本人にとっては結構大きな違いです。

少なくとも、私は「もういい」の方に近かったのだと思います。


いつから、言わなくなったのだろう

こうして振り返ってみると、私にとって「頑張る理由」は、給与や評価だけではなかったのでしょう。

「自分なりに考えて、それを話してもいい」

そんな小さな実感も、職場に働きかける理由だったのだと思います。

もし今、「昔より仕事へのやる気がなくなったな」「以前の自分なら、もう少し動いていた気がする」と感じているなら、すぐに「自分は怠けるようになった」と決めつけなくてもいいのかもしれません。

以前は、仕事の何に期待していたのか。

何を諦めたのか。

一度振り返ってみると、今の働き方になった理由が少し見えてくるかもしれません。

あなたが職場で、自分の意見を言わなくなったのは、いつからだったでしょうか。



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