iPod touch
中学2年生の時、
喉から手が出るほど欲しかったものがある。
それが、iPod touch。
スマホみたいな形をした、
“電話ができないスマホ”みたいなやつだ。
2歳上の姉が高校生になり、
スマホを持ち始めた。
外食した時や、家でご馳走を食べた時。
両親と姉がスマホを取り出して、
パシャパシャ写真を撮っているのが羨ましかった。
「スマートフォン」という名前の通り、
なんてスマートなんだろう……!と思った。
家族の中で、末っ子の自分だけが
スマホを持っていないのが少し寂しかった。
さらに、同じクラスや部活にも
iPod touchを持っている子が何人かいた。
Twitterやアプリゲームができるらしい。
Twitterは家のパソコンでやらせてもらっていたけれど、
自分の端末でツイートしたい!と思った。
今思うと、なにその願望って感じだけど。
欲しい気持ちが抑えきれず、
Appleの公式サイトを読み漁った。
そして母に、
「iPod touchが欲しい」と伝えた。
商品ページを見せながら、
かなり熱くプレゼンした。
「カメラにもなるし、音楽も聴けるんだよ!」
「アプリも使えるんだよ!」
しかし返ってきたのは、
「必要ないでしょ」
「携帯はまだ早い」
「あと2年したら買ってあげるから」
「音楽ならウォークマンあるじゃん」
「デジカメもあるじゃん」
という言葉。
違う。
ウォークマンでもデジカメでもなく、
iPod touchが欲しいのに……!
悔しくて、絶対に諦めたくなかった。
数日後、再びプレゼンをした。
「メールはできるけど電話はできない!」
「これは携帯じゃないの!(超重要)」
「Wi-Fiがないとネット使えないから安心!」
「スマホみたいに写真撮りたいの!」
二度にわたる熱弁の結果、
「自分のお金で買うならいいよ」
と、ついに許可が出た。
後日、母と電気屋さんへ実物を見に行った。
そこで欲しい気持ちはさらに加速した。
当時販売されていたのは、
iPod touch 第5世代。
カラーバリエーションが豊富だったが、
私は絶対にシルバーと決めていた。
Wikipedia情報によると、
32GBモデルで24,800円。
当時の私にはかなりの大金だった。
全財産では足りなかったため、
母に立て替えてもらい、
ローンのように少しずつ返済していくことになった。
今思うと、一括で払えない中学生に
購入を許してくれた母は本当にすごい。
「今払えないならやめなさい」と
一切言われなかった。ありがとう。
家に帰り、ウキウキしながら開封した。
パッケージから本体を取り出し、
手に取った瞬間 ── 固まった。
……外カメラがついてない?
一気に青ざめた。
欲しかったものと違うかもしれない。
泣きそうだった。
もう開封してしまった。
外カメラがないと意味がないのに、
なんでついてないの……。
私の下調べ不足だった。
第5世代には、
背面カメラやLEDフラッシュが省略された
16GBモデルも存在していたのだ。
私は「シルバーが欲しい!」しか考えておらず、
容量は少なくていいや、と
迷わず16GBモデルを選んでしまっていた。
私は半泣きで母に打ち明けた。
「これじゃなかったかも……」と。
すると母は、
「レシートも保証書もあるし、
交換できるか聞いてみよう?」
と冷静だった。
すぐに電気屋さんへ戻った。
私は内心、
“絶対無理だ……”と思っていた。
だって開封しちゃったもん。
テンションが地の底まで落ちている私の代わりに、
母が事情を説明してくれた。
すると店員さんは、
開封済みだったにも関わらず、
「交換しますよー!」
と、二つ返事で言ってくださった。
嬉しくて、申し訳なくて、
泣きそうだった。
店員さんは、
本来欲しかったモデルを見せながら、
「今度は大丈夫そうですか?」
と優しく確認してくれた。
あの時のありがたさは、
今でも忘れられない。
当時に戻れるなら、
絶対にカスタマーセンターへ感謝の連絡を入れたい。
それからは毎日iPod touchを使った。
ちょうど我が家のWi-Fiが壊れていた時期で、
家ではネットが使えなかった。
今思えば、
図らずもデジタルデトックスだった。
毎日ネット漬けになることもなく、
かなり健全な楽しみ方をしていたと思う。
イトーヨーカドーのセブンスポットや、
公共施設のフリーWi-Fiを駆使して、
ネットが繋がる場所で
ここぞとばかりにアプリをダウンロードした。
念願だったTwitter。
友達とのプリクラ画像の保存。
全部が嬉しかった。
母に立て替えてもらった24,800円は、
1年ちょっとかけてコツコツ返済した。
母がメモ帳に
「あと〇〇円」
と書いて管理してくれて、
月々のお小遣いから少しずつ払った。
お年玉で財布が潤った時は、
ローン返済に一気投入した。
完済した時の達成感は、
今でも覚えている。
ちなみにiPod touchは、
2022年に生産終了している。
少し寂しい。
私のiPod touchの中の音楽は、
2015年くらいで時が止まっている。
邦楽ロックにハマっていた頃。
TSUTAYAでレンタルしたCDを取り込み、
イヤホンで新しい曲を聴く時間が大好きだった。
当時のプレイリストを聴くたび、
中学生の頃にタイムスリップできる。
最近はデジカメやフィルムカメラが流行っているけれど、
iPod touchの画質もかなりエモい。
少しノイズ感のある質感。
ノスタルジーな独特な色味。
おもちゃみたいなシャッター音も好き。
全部が愛おしい。
思い出がたくさん詰まったiPod touch。
壊さないように、
無くさないように、
これからも大切にしたい。
