見出し画像

いろあさきまを【字母歌】


字母歌「いろあさきまを」


いろあさきまを(色浅き真魚)
ひめゐしな(秘めゐし名)
とほりてけうは(透りて仮有は)
そこつから(底つ虚)
ぬるやせちのわ(ぬるや世知の輪)
むえんゆおれ(無縁ゆ織れ)
ゑみもすくよ(笑みも透くよ)
ふねたへに(舟妙に)

《意訳》
淡い色の真魚まお
その真魚を秘めていた(汝の)名(真名まな)。
透き通るようにして、世界が因縁の和合による仮の存在だと見えてくる。
それは水底のから
世俗の知恵の輪は、濡れながら緩んでいく。
縁のないところから舟を織れ。
笑みさえ透けていく。
舟はたえのように、たえに現れる。

48文字使用パングラム。すべて清音。

用語補足

な 【汝】
代名詞
そなた。おまえ。▽対称の人称代名詞。目下の者や親しい者に対して用いる。

weblio古語辞典

とほ・る 【通る】

③すき通る。すける。
◇「透る」とも書く

weblio古語辞典

け‐う【仮有】

仏語。この世に存在するものは、すべて因と縁の和合によって生じたもので、仮のものでしかないということ。

コトバンク

そこ‐つ【底つ】

〘 連語 〙 ( 「つ」は「の」の意の上代の格助詞 ) 底の。底にある。

コトバンク

ぬ・る

ほどける。ゆるむ。抜け落ちる。

weblio古語辞典

ぬ・る 【濡る】

ぬれる。

weblio古語辞典

せ-ち 【世知・世智】
名詞
①仏知に対して、俗世間の凡夫の知恵。◇仏教語。

weblio古語辞典

む‐えん【無縁】

〘 名詞 〙
① 仏語。あることがらに対して、その生起や消滅に何のかかわりもないこと。

コトバンク


格助詞
《接続》体言、活用語の連体形に付く。
①〔起点〕…から。…以来。

②〔経由点〕…を通って。…を。

③〔動作の手段〕…で。…によって。

④〔比較の基準〕…より。

weblio古語辞典

たへ 【栲】
名詞
こうぞの類の木の繊維で織った、白い布。また、布類の総称。

weblio古語辞典

たへ・なり 【妙なり】
形容動詞ナリ活用

①神秘的だ。不思議だ。霊妙だ。

weblio古語辞典

AI解説


この字母歌「いろあさきまを」は、魚を詠んだ詩であると同時に、存在そのものが透けてゆく過程を描いた、沈潜する経文である。

冒頭の「色浅き真魚」は、淡い魚影であり、また「真(まこと)」がまだ濃く染まりきらぬ状態を象徴する。
真理は強い光として現れるのではなく、むしろ淡く、透けるものとして立ち上がる。

続く「秘めゐし名」は、この詩の鍵となる。名とは、世界を固定し、対象を掴み、意味を与えるための枠である。ここでの「名(な)」は、もともと「汝(な)」――すなわち呼びかけの語にも掛かっている。
ゆえにこの一句は、「真魚を秘めていた名」であると同時に、「真魚を秘めていたあなた」としても読める。

「透りて仮有は」は「透き通る」ことである。仮有とは、因と縁の和合によって仮に成立した存在であり、実体ではない。
名も世界も、因縁が一時的に織りなした仮の構造にすぎないことが、透過として露わになってゆく。

その透過の果てに現れるのが「底つ虚」である。
底つは海底・根源を呼び出し、虚(から)は空虚ではなく、仏教的な空(くう)に近い空性を帯びる。
存在の底には、掴むべき実体ではなく、虚がある。

「ぬるや世知の輪」において世知は仏教語であり、世俗に生きる凡夫の知恵(世智)を指す。
処世の論理、名付けの回路、意味づけの循環――それらが輪となって回り続ける。
しかしその輪は「ぬる」。
濡れて絡みつくと同時に、やがて緩み、ほどける可能性を含む。

そして詩はここで反転する。
「無縁ゆ織れ」。
仮有が縁の和合によって成立する世界ならば、無縁はその縁を断った地点である。
格助詞「ゆ」は起点・経由・手段を担い、無縁から、無縁を通って、無縁によって舟を織れと告げる。
縁を捨てることは終わりではなく、舟を生む生成の起点となる。

「笑みも透くよ」において透過は、世界だけでなく表情にまで及ぶ。
救いは光ではなく透明化として訪れる。笑みさえ透け、重みが抜け、意味の輪が静かにほどけてゆく。

結句「舟妙に(たへに)」は、不可説の生成として詩を閉じる。「妙に」は玄妙であると同時に、栲(たへ)――白布――にも掛かり、舟が織物として現れることを暗示する。
無縁から織られた舟は、栲布のように白く、妙に現れる。

この字母歌が描いているのは、世界の否定ではない。因縁の仮の世界が透けて見えたとき、その虚の底からなお舟が織られ、渡るための媒体が生まれるという、静かな生成の物語である。

暗号

6×8に並べ替えて🟥、🟦、🟨、🟩の順で読むと

いをとはぬわれよ(意を問はぬ我よ)
いろあさき(色浅き)
まなうらのおくに(まなうらの奥に)
ふねたへに(舟妙に)


となります。



今回は以下のモチーフをパングラムに落とし込みました。

独楽、ましよ 意を問ふなかれ水底みなそこに沈みしいをのしままに

『筆名試論III:益子真魚視という深層名──アナグラムと禅的象徴』益子禅一朗

いはむろのいをのごとくに仄白くひらめき棲まふまなうら深し

『白』益子禅一朗

いをの血の色の意もの奥や身の内のに満ちたるの気

『コオリウオ』益子禅一朗



いいなと思ったら応援しよう!