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短編小説|サスペンスのための雷

 雷はサスペンスのためにある! 雷神はサスペンス映画のブルーレイディスクが並ぶ自室の棚を指して、遊びに来ていた風神に語ります。
「令和にもなって人のヘソを取って喜んでいる場合じゃないわけよ。時代はサスペンスだね。思いもよらない展開、病みつきになる恐怖、欲と狂気にまみれた人間模様。いいよなあ、サスペンス」
 風神はコーラを飲みながら雷神の熱弁を聞いています。「そのサスペンスと雷がどう関係あるわけ?」
「関係大ありよ。物語のなかで驚きの新事実が発覚したとき、あるいは恐るべき敵がその姿を現すとき、ここぞというタイミングで、稲妻が光るのさ! ああいう雷を俺は落としたいね。そうだ、せっかくだから今から下界に雷を落とそうぜ」
「ゲームやろうぜ、くらいの感覚で言うよな、お前」と風神。

 雷神はノートパソコンを開いて、下界のマップをスクロールします。「どこがいいかなあ。絶海の孤島か、人里離れた廃村か、森の奥に佇む洋館か」
「変なところばっかり探すのな」
「サスペンスといえば、だろ。でもよ、なかなか現実で猟奇的な事件は起こらないし、シリアルキラーも見つからないんだよなあ」
「こんな熱心に殺人鬼を探しているのは探偵か警察かお前くらいのもんだよ」
「あ、ここはどうだ? 廃村とまではいかないが、人が少ない田舎の村落。何かが起こりそうな予感がする」
「映画の観すぎだろ。のどかな村じゃねえか」
「寂れたバス停に少年がひとりいるな。それより年上の女の子が通りかかるところだ。風神、ちょっと風を吹かせてくれよ」
 怪訝そうな顔で雷神を横目に、風神はノートパソコンの画面に表示された扇風機のマークのボタンをクリックします。

 女の子の被っていた白い帽子が風に吹かれて、少年の足もとに落ちました。女の子はバス停に近づきます。「よしよし、今だな」と雷神は傘のマークのボタンをおしました。にわかに雨が降り始めます。
「なんだよ、雷は落とさないのか?」と風神はコーラを傾けます。
「事件が起こるタイミングを待たないと。人と人が出会ったら、何かしら事が起こるはずだ」
 女の子は帽子を拾い、バス停のベンチに腰を下ろします。雨宿りをすることにしたようです。隣りに座っている少年は、下を向いています。
「事件、もう起きてるんじゃないか?」と風神はコーラを飲み干しました。
「え? まだ誰も殺されてないじゃないか」
「いや、ほら。あの男の子の顔を見てみろよ」
「紅いな」
「だろ? あ、女の子が微笑んだ。これは今だな」と風神は勝手に電気のマークのボタンを押しました。
 雷は落ちません。けれど、少年の心に電流が走ったのが見てとれます。
「バス、しばらく来ないといいな」と風神。
「ああ」と雷神はモニターに映る少年と少女を見つめながら頷き、呟きます。
「つぎは恋愛映画を観ようかな」







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小牧幸助|小説・エッセイ 牛乳を買って金曜よるに一杯やります。