小説|まつぼっくりをポケットに
からっぽな寒空の日、幼かった君は僕をポケットに入れてくれました。包まれる暖かさは忘れられません。いつのまにか君は僕を失くしましたね。ポケットに穴が空いていて。僕は今でも他のまつぼっくりと一緒にあの道ばたに転がっています。
君は歳を重ねるごとに、あまり僕のほうを見てくれなくなりましたね。けれど、僕は嬉しかった。下を向かず前を向いて歩く君の横顔を見上げていると、誇らしい気持ちになったものです。そうして君は大人になりましたね。
また僕は君の顔がよく見えるようになりました。大人になってから君が下を向くことが増えたからでしょうか。しかし、君は僕が目に入っていないようです。心がからっぽなまま歩いているような気がします。十月の寒空の下で。
僕にもポケットがあればいいのに。そう思います。君を僕のポケットに入れて、暖まってもらえれば。でも、それは叶いません。それならばせめて、僕に気づいてくれませんか。君が僕を心に入れてくれれば、もうからっぽではないでしょう。
ショートショート No.390

photo by Kosuke Komaki
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