ロボットと古書店の少女
誕生日。木製の丸椅子の上で少女は背伸びをします。でも、古書が並ぶ本棚の天板まで、はたきが届きません。十一月のため息が白く消えます。椅子から降りると、古書店の店先で大きな金属音がしました。向かってみれば廃棄する古書を積んだ少女の軽トラに、泥だらけの古いロボットがもたれかかっていました。バッテリーが切れたのでしょう。迷いつつ、少女は店舗兼自宅にロボットを蹴り入れます。
戦前の型の電源プラグで少女はロボットを充電しました。まもなく立ち上がったロボットを少女は見上げます。「お前、どこから来た?」。何を聞いてもロボットは覚えていません。自分の誕生日さえ。少女は泥を拭ってやりながら、充電が終わったら警察へ突き出そうと決めて、再び店番を始めました。また本棚を掃除しあぐねていると、少女の手からはたきを取り、ロボットは天板をはたいてくれました。
五年前の終戦まで使われていた町外れの監視塔のてっぺんに、少女とロボットは座ります。古書店が小さく見えました。丸一年前に出会った日のことを語りあいながら、少女はロボットが買ってきてくれたバターケーキを食べます。少女の誕生日ケーキでした。戦前は両親と誕生日によく食べたと前に少女が話したことをロボットは覚えていたのです。少女は涙を流す代わりに、ロボットにパンチしました。
昨日を知ることは、今日を知ること。両親からの受け売りを少女が何度も語るので、やがてロボットも店にお客さんがいないときは古書を読むようになりました。小説。辞典。数学書。自伝。紀行文。あらゆる本を読みあさりましたが、ある種類の本だけが古書店にはありません。少女が眠りについた冬の夜、買い取り拒否と書かれたダンボールに積まれた本に、ロボットは冷たい鉄の手で触れました。
数日後、雪降る町をひとりロボットは監視塔から見下ろします。ロボットは自分の誕生日を知りました。彼が読んだのは戦争の記録書です。五年前に戦争を終わらせたのは、その前年に量産されたロボットでした。兵器が造られた六年前の今日が、彼の誕生日です。空を飛べないのは幸いだったと彼は思いました。ロボットは錆びた欄干に汚れた両手をかけます。降る雪が空へ昇っていくように見えました。
買取不可で廃棄となった古書の海が、柔らかくロボットを受け止めます。パジャマを着た少女が運転する軽トラの荷台で、ロボットは大の字になって天を見上げていました。少女に蹴り込まれてロボットは狭い助手席に座ります。寝癖を直しながら、少女は脚を伸ばしてアクセルを踏みました。そうして下を向くロボットのほうを見もせずに、言いました。「まだバターケーキのお店、開いてるかな」
ショートショート No.416

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