機械仕掛けのわたしたち|とある仕立て屋の偏愛と願望について
みなさま、こんにちは。
コンテスト「#今年学んだこと」に、たくさんのご応募をいただきありがとうございました。
結果発表までの期間、「#今年学んだこと」にちなんだミニ企画を行います! 第1弾は「偏愛」をテーマに、noteクリエイターさんにご寄稿いただきます。題して「偏愛のススメ」。
今回ご寄稿いただいたのは、タケチヒロミさんです。
タケチヒロミさんはドレスの仕立屋さんであり文筆家。
タケチさんの「いとへん」への愛が高じた先にあるのはいったい……!?
タケチヒロミさんの偏愛の世界へどうぞ〜。
わたしは機械になりたい。
あの、動力で動く機械に。
だからといって機械ならなんでもいいわけではない。糸や布をつくる機械がいい。おっきくて、ガシャンガシャンいう、働きものの愛おしい機械たち。繊維機械たちは、かわいい。


動力は蒸気機関がいいとかまでは言わないけど、願わくばひとつのモーターで繋がっていてほしい。機械たちが、何かひとつの大きな力と繋がっている感覚。

気がつけば、ずっと服に関わる仕事をしてきた。前職のアパレル商品企画の仕事も含めると、もうかれこれ30年以上になる。今はウェディングドレスをつくる仕事をしている。
仕事柄、たくさんの繊維機械を見てきた。でも、「布をつくる機械ってかわいい」そんな風に思い始めたのは最近のことだ。それは、「いとへんの旅」と称して全国各地の布をめぐる学びの旅に出るようになってから。いとへん(糸偏)とは、文字通り糸に関する漢字の部首のことだが、じつは「繊維産業」をも意味する。
そんな「いとへんの旅」をするうち、わたしのなかにひとつの「問い」が生まれた。それを解き明かしてみたくなって、通信制大学院で研究をすることになった。
思いつきで始めた「いとへんの旅」が、研究にまで発展するなんて。2025年はその学びを「論文」という形にまとめようと奮闘する一年になった。
ドレスの仕立て屋が選んだかわいい繊維機械たち3選
さて、いきなりですがここで勝手にトップ3!
題して「ドレスの仕立て屋が選んだかわいい機械たち3選」
久留米絣の織機
まずは福岡県八女市にある「下川織物」さんで見た、久留米絣の織機たち。
工場に入ると、ガシャンガシャンと大きな音がして、どこか懐かしい機械油の匂いがした。ひとつのモーターに繋がった機械たちが、せっせと美しい絣の生地を織り出している。なんて美しく、頼もしいの。

久留米絣とは
福岡県筑後地方で200年以上作られている先染めの綿織り物。
括り(くくり)と呼ばれる技法で糸を染め分けることで、様々な模様を表現できることが特徴
工場には、古い機械たちが並んでいた。古いTOYOTAの織機もあった。日本の近代化と自動車産業は、もともとは布を織る機械から始まったそうだ。

お話を伺った3代目の下川強蔵さんは、小さい頃からおばあちゃんにおんぶされ、機械の音を子守唄のようにして育ったという。だから今でも、機械のネジがゆるくなると空気の揺れでわかるらしい。
わたしはそれを聞いて、うらやましいと思った。機械といっしょに育って、機械の声がわかるなんて。
混打綿行程の機械たち
次にご紹介するのが、トヨタ産業技術記念館の混打綿(こんだめん)行程の機械たち。綿のかたまりをほぐし、糸にするまでの下準備をしてくれるかしこい機械たちだ。



この一連の機械たち、滑車や歯車にいたるまでブルーグレーに金色の縁取りというクラシックな色調で統一されていて、とってもお洒落。

この機械仕掛けの感じが、まんま19世紀末の産業革命期(ヴィクトリア期)をイメージしたスチームパンクの世界観。とくにほら、綿を見る小窓なんて、まるで近未来SF映画みたいじゃない?
はたや記念館の木製機械
最後に紹介するのが、福井県勝山市のかつての絹織物工場を記念館にした「はたや記念館」にある、木製の機械たち。
ここでは、糸繰り機や道具類がすべて木製で、とても美しかった。働きものの、美しい機械たち。

木製の道具たちに真っ白な絹糸が巻かれ、動いている。工場全体にカラカラ、きゅうきゅうと木製の糸繰機が回る音が響いている。

彼らは「美しい絹織物をつくる」という目的を持った、愛おしい生き物のようだった。
糸繰り機で木枠に巻き取られた糸は、糊付けされた経(タテ)糸だけがひな壇にずらりと並べられる。

この糸は、大きな機械に繋がっている。経糸を生地幅に合わせて巻き取る機械だ。

木製機械、そして歯車やモーターの感じがスチームパンク好きにはたまらない。ネジとか歯車とか木製機械とか、いちいち萌える。

これらの機械は、ひとつのモーターで動かされている。かつては水車でモーターを作動させていたそうだ。

やっぱりひとつの生き物だ。

ここに居ると、まるでおおきな機械仕掛けの恐竜のおなかのなかにいるようで、うっとりとした気持ちになった。
ミシンとわたし
たくさんの機械たちを紹介してきたが、なんといってもわたしが最も愛して信頼している機械は、ミシンだ。

ミシンとわたしは繋がっている。
調子が悪かったら音でわかる。下糸がなくなっても、針がすり減ってきていても、油を差して欲しいときもわかる。ああ、この生地苦手なんだろうなあってときもすぐにわかる。わかりやすい。そんなときは、「いっしょにがんばろうよ」とあらためて気持ちをひとつにする。
もはやわたしたちは、「機械」と「人間」という別ジャンルに分かれているような感じがしない。
ひとつだ。
機械と人間という区別を超え、わたしたちは「美しいドレスをつくる」というひとつの意思を持った機械仕掛けの生き物になる。
そう考えると、うっとりする。
まあ、忙しいときの妄想なんだけどね。

