読書記録⑰よしもとよしとも『完本 青い車
まず言えるのは、紙の本として出るのはおそらくこれが最後です。時代の流れからして。
シリーズ最終話である『ライディーン』は執筆当時から、『青い車』を再度出すことがあったら追加収録して完結としたい、と思ってました。
それを実現したのが今回の形で、完全版で最後の本ということですね。90年代懐かしいねという読み方もいいけど、10年以上絶版が続いてたあいだで生じた未読の人達や若い世代に紹介されて伝わってほしい。今読んでも古い新しいに左右されない、シンプルに良いマンガとして伝わるのではないかな。
時代がいつだろうとただ毅然として『青い車』であればそれでいいし、それが『青い車』だと思ってます。──よしもとよしとも
もう40年近く経つ、よしもとよしとも知って。
その間出た単行本は9冊。うち4冊は復刊で重複してるから実質7冊。
これだけ長い間活動していて全作品の単行本持ってる(しかも昔は毎日本屋行ってたから、新刊出たらすぐ買ってると思う)数少ないマンガ家かもしれない。
1980年代なかば、デビュー作「日刊吉本良明」が「月刊ASUKA」に連載されている頃から読んでいたから、最初からリアタイで追い続けていることになる。
「ASUKA」は角川が1985年6月(8月号)に創刊した月刊マンガ誌。改めて検索してみたら今でも隔月で出ているらしい。検索結果によれば創刊号は山岸凉子表紙で、萩尾望都、竹宮惠子の名も見え、時代を感じさせるが、高口里純の「花のあすか組!」が掲載されていた雑誌という印象が強いかな。
そんな中に、今や腫れ物のような扱いになっている「ビッグE」こと江口寿史の「なんとかなるでショ!」と栗本薫+いがらしゆみこの「パロスの剣」連載目当てで立ち読みしていたのだが(すみません)、そこで見かけてついでによしもと作品「日刊吉本良明」も読むようになった。
「日刊〜」の連載というかデビューの経緯については、上記の姫乃たまによるよしもとインタビューで初めて知った。
漫画家であるお兄さん(検索してね)から「ASUKA」創刊に伴って作品募集していたのを聞いて、バンドのリズムマシン購入のための賞金欲しさに応募し採用〜連載となったという。
作品内容は、よしもと自身が投影されたかのようなマンガ家・吉本良明(大学生/途中中退、バンドマン)と同棲相手のさっちゃん(さつき)、そして愉快なバンド仲間等々(賞金で購入したリズムマシンも登場する)が織りなす、当時としてはまだ珍しかったであろう4コマエッセイ(風)ギャグマンガ。
ま、内容はあって無いようなものだし、初期なので絵柄もちょっとアレだけど、岡崎京子や桜沢エリカ、江口寿史らが登場し、ケラ(ナゴムレコード)、チャーミー(ラフィンノーズ)、モノクローム・セット(ミシン!)等々の名前が出て来るバンドネタなどの日常感が好きだったんだと思う。
松苗あけみの「純クレ」(純情クレイジーフルーツ)見ながら女キャラ描いてる、連載のページ数が増えて人気あるって内心喜びつつも胃に穴開けて死ぬ気で描いたら実は江口が連載に穴開けただけだったと、岡崎京子が連載中だった「セカンドバージン」のアシスタントにいって人の原稿なら責任感ないから早く描けることに気付いた等々の自虐ギャグ。

1990年に角川から単行本になった際は、帯にその2人(江口と岡崎)がコメントしている。

そういえばこの二人もかつては全単行本(全作品)持っていた。
岡崎京子なんて、もし持ってたら男の子ならデートしてくれるっていうくらいレアな『バージン』初版も(今でも)持っている。


義務感で買ってしまったものや自選集、岡崎が活動休止した後無理やりまとめられたもの等々処分してしまったけど、マンガ家江口が好きだったので画集は1冊も買ったことないよ!
よしもとについては、寡作な上、作品の重複が多い作家であるため、刊行された順に単行本に◯数字をつけ、収録作品を挙げていく。
この「月刊ASUKA」デビュー作を中心にまとめたのが、
②『日刊吉本良明』(角川書店/1990年7月)
1「日刊吉本良明」(86〜87年)⑥に再録
2「青春の吉本良明」(86年)⑥に再録
3「エレキの吉本良明」(86年)⑥に再録
4「7−12」(86年)
5「六月の桜」(86年)⑧に再録
6「岩窟王子」(90年/描き下ろし)⑥に再録
1〜3はエッセイ風ギャグ、4、5はストーリーもの。内容がシリアスだったため、「日刊〜」の中で、同棲相手のさっちゃんが4の作中のセリフを朗読して笑うというネタもあった。
本作はデビュー作品を含むにもかかわらず、連載終了後単行本化するのに時間がかかってしまったため、実はこれよりも先、1988年7月に単行本化されていたのが、
①『レッツゴー武芸帖』(双葉社)。
「漫画アクション」に週刊連載されていたもので、そのタイトルのとおり時代劇。手塚治虫的に言えばスター方式で「日刊〜」の自身を反映させた良明、さっちゃん(さつき)、達雄(バンド仲間)、鈴木孫惣(祖父?)等々が登場するよしもと唯一の長篇。
時は江戸、三代将軍家光の頃。良明が継承した幕府をも転覆させる力があると言われる剣術「夢幻流」の謎と、陽炎殺法(またの名をハレルヤハリケーンX)の遣い手まゆげの武士こと達雄、そして幕府サイドの新陰流柳生一族(宗矩、十兵衛)との対決を描く。
時代劇ではあるが基本はそのタイトルが示すとおりギャグで、いいんだよ細かいことはという設定と展開、そして漂う虚無観がとても良いのでお薦めです。
お薦めしていながらアレだが、1999年4月に新装版が出た(⑦『レッツゴー武芸帖』)ものの、現在絶版状態。衝撃的なラストのため、二度と再販、電子書籍化は出来ないと言われているので中古で探してください。
また作品連載にあたっては岡崎京子の陰ながらのサポートがあったというとても良い話もインタビューで語られている。
「レッツゴー〜」で時代劇を描いたよしもとが現代に舞台を移して怪獣モノ、防衛軍モノ、SFモノに挑んだのが、
③東京防衛軍(双葉社 /90年9月)。
本作も「漫画アクション」に連載され、「東京防衛軍〜東京ゴースト」(⑥に再録)と「同Ⅱ〜宇宙指令0.03」(⑧に再録)の2話から成る。
昭和から平成にかけて描かれたため、作中でも平成当初の浮かれたバブリーな時代背景に物語が展開される。
その時代と生きる人を切り取って描くよしもと作品の中でも、一番ストレートに「現代」が描かれている。
冒頭の炎上する芝浦インクスティック(当時あったライブハウス)〜再開発されたウォーターフロント、地上げにより無理やり変えられていく街並み、世紀末のカルト宗教、3%の消費税導入、金に浮かれ狂った日本人、四半世紀以上前、かつての経済大国だった日本…。
物語もギャグを交えながらの豪快なアクションで、今読んでも面白い。
ビルはガンガン壊れるし、人も大量に死ぬ。自衛隊も出動する。赤字経営のため健気に二足の草鞋を履きながら東京を守るため活動する怪獣特捜隊東京防衛軍隊員たち。なお本部は高円寺駅前仲屋むげん堂2階、Ⅱでは三軒茶屋fujiyama地下に移転だ。
登場する武器や戦闘機もギズモトロン、ギブソン、TOKAI、そして隊員衣装はDEVO風と細部のこだわりも熱く、また東京に襲来する敵の姿の描写も度肝を抜かれる。
しかし絶版!
そしてこの年に刊行された3冊目の単行本が、
④『よしもとよしとも珠玉短編集』(双葉社/90年12月)
1「エリーゼのために」(90)⑧に再録
2「すきすきマゾ先生」(90)⑥に再録
3「吠えろフェンダー」(90)⑧に再録
4「おはようこんにちは」(89)⑥に再録
5「優雅で感傷的な世紀末麻雀」(89)⑧に再録
6「よいこの街角〜第1話/夏休み、第2話/補習授業、第3話/残暑、第4話/未来の冬の日」(88)1、2話のみ⑥に再録
7「じじいの伝説」(88)⑧に再録
ここまでの3冊がコメディ要素が強かったのに対し、本書は様々なマンガ誌に発表されたストーリーものを集めたもの。
今回再刊された『青い車』が90年代のよしもとの集大成だとすると、こちらはデビューから80年代の総括的な作品集。1964年生まれなので、20代の瑞々しいよしもとよしとも大全とも言える。
それぞれの主人公は高校生や大学生、社会人となっているあたりにも自身の年齢的な移り変わりが感じられる。
帯に「ちょっとエッチな〜」ってあるけど、人間生きてりゃご飯も食べるし排泄もするし、オナニーもセックスもするんだから描写としては特別なことではないんだと思う。それを描こうとしないマンガ家がどうかしてる。
個人的には4のと切ない人間関係がとても好き。
体育大会で教員に玉入れの玉投げるのとテストちぎって窓から巻くのと自殺する根性のエピソードは他作品でも使いまわしされているから実体験なのかな。
そこから6年の時を置いて出たのが、
⑤『青い車』(イースト・プレス /1996年)
1「青い車」(95)
2「オレンジ」(96)
3「ツイステッド」(95)
4「マイナス・ゼロ」(95)
5「一人でお茶を」(96)
6「NO MORE WORDS」(95)
7「銀のエンゼル」(91)
今回の⑨『完本〜』は、上記の作品に加え、一連のシリーズ作でありながら発表時期の都合で後述の作品集⑥に収録された
8「ライディーン」(97)
を含めたもの。
本書についてはまた後に触れる。
すでにこの頃には過去の作品集①〜④が絶版状態だったので、それらの収録作+新作を再編集、復刊したものが1998年から1999年にかけて3冊刊行された。
まずは
⑥『Gratest Hits +3 』(双葉社 / 98年)
1「Jr:」(97)
2「すきすきマゾ先生」(90)④
3「おはようこんにちは」(89)④
4「東京防衛軍・第一部」(89)③
5「日刊 吉本良明」(85〜87)②
6「よいこの街角」第一話、第二話(88)④
7「秋の夜長」(90)
8「ライディーン 」(97)⑨に再録
これらはよしもとの中ではお気に入りの作品たちらしくベスト盤といった位置づけ。「+3」であるおまけ作品の1、8は⑤「青い車」以降の新作、7はタイミング的に④に含まれなかった作品かな。
1の30過ぎの男が小学校に通うお話の設定や展開が最高です。また8も⑤の作品集に登場するレコード屋店長「町田」サーガの一編だが、ある程度歳をとって読むと感慨深さが増す傑作。
続いて先に触れた⑦『レッツゴー武芸帳』の復刊版はよしもと自身が描いてない謎のセンスない表紙、いしかわじゅんとかいう人(悪意です)の解説を収録した新装版。表紙のダサさといしかわじゅんとかいう人の文章がイヤで買わなかった。元のほうが表紙カッコいいし、復刊なのにおまけもなかったし。
⑧『コレクターズ・アイテム』(ベストセラーズ /99年7月)
1「アヒルの子のブルース」(98)
2「東京防衛軍第二部」(80)③
3「エリーゼのために」(90)④
4「吠えろフェンダー」(88)④
5「優雅で感傷的な世紀末麻雀」(88)④
6「6月の桜」(86)②
7「じじいの伝説」(87)④
本書は、巻末のあとがきにいわく
時代の変化に対応できなかった、一般的に見て成功とは言えない、等の理由で「グレイテスト・ヒッツ」の選からもれたものが中心になって編集されています。(中略)
ちなみにこの単行本のタイトルは当初「失敗作品集」とつけられる予定だったのですが、それじゃああんまりだという編集の平沢氏の意見もあって変更となりました。
もっともだよな。
と、寄せ集めレアトラック商法感がある。
唯一収められた新作にして、2026年現在、単行本に収録されている最新作である冒頭の作品1についても
「アヒルの子のブルース」(98年5月/ストアvol.3)は唯一の新作なのですが、これは次回作へ移行する際に必要な「ウミ出し」と言える作品で、特に5頁2コマ目の描写が僕は好きではありません。
というか、嫌いだ。
とはいえ、描かなければ次回作へ進めない。
作品そのものも、客観的に見て面白いのかどうか自分にはわからない。
これまでならば単行本には絶対収録しなかったタイプの作品ですが、今回は本の性質上あえて収録してみました。
とのこと。
そのコマの描写というのは文章による残酷な行為のモノローグ。
ここで話は岡崎京子に戻る。
リアタイで新作を読み続けてきて「リバーズ・エッジ」(93年)あたりから、やたら「暴力」や「死」がネタとして出てくるのはどうなんだろうって当時思っていた。
先のセックスやオナニーは日常の一部だと思うけど、現実世界(日本)ではそんな簡単に人は犯罪に巻き込まれないし、殺すことも殺されることもないし、バイオレンスにも満ち溢れていない。
そういう荒んだ描写にはしるのはこれまでの女の子の日常世界を描いてきた作風と比べて、安易に劇的な展開にし過ぎるのではないか。普通の女の子が描けなくなって逃げるようにそういう世界に踏み入れてしまったのかぁって。
当時の岡崎の世界観の変化にどういった心的要因が働いていたかは分からない。岡崎はその後間もなく1996年に交通事故による後遺症のため作家活動を停止してしまった。
今にして思えばたった10年程度だったずっと岡崎作品を読み続けていたのでショックだった。当時ほかのマンガ家も似たようなこと言ってたけど言い方悪いが、この世にはアレな漫画家たくさんいるのに何故岡崎京子がそんな目に合わなければならないのか?というのもあった。
そして同時に、そうしたヘヴィな方向へシフトチェンジしたことで非因果的連関の原理が働いたのかなぁって。
それにしてももう岡崎が活動休止してもう30年も経つんだなぁ。
先の姫乃たまインタビューによれば、よしもとよしともも90年代に入って、『青い車』(⑤、⑨)に至るまでにいろいろな苦悩を抱えていたという。
少し下の世代(松本大洋や山田芳裕といった独特な描写や表現をするマンガ家たち)の台頭により、彼らに負けぬよう強迫観念的に新たな表現スタイルを模索していたとのこと。
江口寿史が編集長となって刊行していたコミック誌「COMIC CUE」というのがあって、1994年の創刊号によしもとが描いた作品が「バナナブレッド'95」。この時期の試行錯誤が顕著に表れており、単行本未収録となっている。
タイトルは大島弓子の「バナナブレッドのプディング」から。そして作品ラストでは同作品からのセリフの長々と引用がされており、動きのない一枚絵のコマにモノローグが3ページ。掲載誌の編集後記で、その許可をとるために江口が大島先生と連絡をとろう(当時はFAXで)と苦心していたことが記されていた。


内容は笑いも感動も表現の凄さも中途半端で何をしたかったのかよく分からない。一部の同業者は褒めてくれたとインタビューにあるが、内輪で受けててもダメだよね。
また単行本未収録のおそらく失敗作としてはほかにも同じく「COMIC CUE」第9号(1999年)に掲載された「4分33秒」も。タイトルからしていかにもアレだけど、一枚絵にモノローグだけがのったもので、もはやマンガでもないという。

もともとマンガ家デビューのきっかけがリズムマシンだったように、よしもとについては影響を受けたマンガよりも音楽の方が色濃く作品に反映されていると思う。
80年代のよしもと作品に流れていたのはパンク/ニューウェイヴ系の音だった。無骨でもストレートなロックでもない、斜に構えて世界を見て皮肉に笑うもの。そういえば「宝島」で恒松正敏(ex.Friction、E.D.P.S)にインタビューしていたのも読んだ覚えがある。

それが80年代末期からのハウス〜テクノ系ミュージックの台頭により意識が変わったという。
先の「バナナ〜」はハウスミュージックに近いコラージュ(サンプリング)や同じコマのループなどが導入されていてそれっぽい感じになっている(前述のとおり見事に失敗に終わっているが)。⑤−5や6でもこうした試みがなされている(失敗だと思うよ)。
試行錯誤、そして迷走するよしもとだが、ちょうどその頃(1995年)、阪神・淡路大震災が起こり、また帝都を揺るがす地下鉄サリン事件もあった。そして時を同じくして、誕生した子の育児もあって、人間の生死に関する意識が変わったという。
──(姫乃)90年代半ばが大きなターニングポイントになっているんですね。
よしもと:完全にターニングポイントですね。その後の阪神・淡路震災がかなり衝撃で、人って死んじゃったらおしまいじゃんって知ったんです。ちょうど長女が生まれて子育てをやっていて。
──命の重さを痛感する時期でもありますね。
よしもと:それまで俺は人との関わりの中で駆け引きみたいなことを考えちゃってたんです。こういうことを言ったらカッコ悪いとか、相手はいまの発言をどう思ってるのかなとか、すごい考えて自分の中で壁を作ってた。でも赤ちゃんってそういう壁を突き破って要求してくる。腹が減りゃ泣くし、眠けりゃ泣くし、そのストレートさに触れていたら、人間ってこれでいいじゃんって思ったんです。当時のテクノもオシャレじゃなくて、サンダルと家着のTシャツでクラブ行って、好きなように踊って帰ってくるみたいな開放感があって、それにも影響を受けて、もうシンプルでいいじゃんって。自分の絵は自分の絵なんだから、別に古かろうが新しかろうが知るかって思えたんです。それでできたのが「青い車」です。
ある日、人は大きなものに巻き込まれあっけなく亡くなってしまうし、生まれたばかりの赤ちゃんは本能のままに泣き、笑い、眠る。
「おしゃれとかじゃなくて、自分の好きなものが好きだって生きている人たちを描こうと思った」。
単行本の表題作ともなっている「青い車」はこうして描かれた。
幼い頃事故にあい一命はとりとめたものの少し変形した顔と周りより2年遅れの人生を歩むことになった主人公。生きてることをラッキーだと思ったという。
レコード屋で働く彼は2か月前に起こった何千人の人が亡くなった地震と同じ日、恋人を交通事故で亡くした。
ある日、彼のもとにその恋人の妹が訪ねてくる。
彼女は姉を弔うため海に投げたいと花束を持って現れる。その海に向かう車のなか、そして海辺での会話により明らかになる過去…。
そうしたシンプルな物語背景に、浮かぶモノローグの言葉。タバコ、車、靴といった小道具。流れる小沢健二の「ラブリー」(94)。
単行本の表題作にもなっている、2004年にはARATAと宮﨑あおいで映画化もされている(この「読書記録」の中でたびたび映画化されたものを取り上げてますが大体見てないです。映画ってそんなに好きじゃないんです。すみません)。
よしもと自身も「マンガ史に残る傑作」と自己評価し、今回の新装版のキャッチコピーにおいても「1990年代の青春マンガ、ひいては当時の日本のカルチャーを象徴する作品として、今なお読み継がれている」とある。
しかし正直、個人的にはこの「青い車」はいまいち響いてくるものがなかった。淡々とした起伏のない展開、主人公のキャラ設定、魅力ないヒロイン。まだ枯れるには早いぞって当時は思っていたし、今回改めて読んでもそのいまいち感は変わらなかった。だいたいそんな読み継がれるような傑作だったらこんな長い間絶版状態にはならないでしょ。
⑨『青い車』(太田出版 /2025年)
1「青い車」(95)
2「オレンジ」(96)
3「ツイステッド」(95)
4「マイナス・ゼロ」(95)
5「一人でお茶を」(96)
6「NO MORE WORDS」(95)
7「銀のエンゼル」(91)
8「ライディーン」(97)⑥
順は不同となるが収録作品を簡単に。
7は「日刊吉本良明」で描かれていたよしもと自身を反映した主人公良明とヒロインさつき(と思しき2人)のリアルな関係が描かれた私小説的な作品。ヒリヒリと痛い。姫乃たまインタビューでも(今回の再刊にあたって読み返し)ヤバいなと思うくらいめちゃめちゃリアルと語っている。
6は先にちょっと触れたけどとり・みきの「遠くへいきたい」にインスパイアされたと思われる4✕3の正方形12コマセリフなしマンガ。
そして⑥のところで触れたけど、本作品集には裏主人公がいて、「青い車」で主人公の青年が働くレコード屋の「町田店長」がその人。
2も主役の少年がその店で働いており、ちらっと登場。3では白バイのお巡りさんに停車させられてるモブ役。なおこの「ツイステッド」という話は、1993年に25歳の若さで夭逝したマンガ家高木りゅうぞうのカヴァーという体をとったオリジナル作品。高木の同題の作品からインスパイアされたもの。こちらも先述の江口寿史編集の「COMIC CUE」に掲載され、オリジナルの高木についての問い合わせが相次いだという。高木りゅうぞうについては奇しくも昨年、復刊ドットコムから全作品を収めた単行本が刊行されている。絵柄が趣味に合わないので未読ですが、再刊されるという情報が出たとき世界(の一部)がどよめいた。
4では町田店長は友人の所有するタイムマシンで江戸時代に飛ばされその時代の人として生き、ある日ふと自分が21世紀から来たことを思い出し「あの時代はあれでよかったなぁ」と未来を振り返る。
5でもふ気づいたらどことも知れぬいかがわしい海岸に。諸々の作品からのサンプリングが挿入される問題作。そして今回新たに再録された8ではタイトルとなっているY・M・Oの曲が流行した1979年のトンガッた時代の高校生マチダくんが主人公。
個人的にはこの4、5あたりのとんでもない展開の話が好きだし、8での好きな女の子相手に東京ロッカーズシーンのSPEEDについて熱く語ってしまうマチダくんのエピソードもとても良い。
「青い車」を読んだ時の物足りなさは、こうしたよしもとを求めてしまっていたからであり、それはストーリーモノの最新作にして、コロナ禍に数多くのマンガ家が日替わりリレー形式で描き下ろしていた「OHANAMI 2020」にも当てはまっていた。
【MANGA Day to Day】#8-❷
— MANGA Day to Day【公式】 (@mangadaytoday) September 20, 2020
※2020/9/20追加公開
「2020年4月8日」
よしもとよしとも
『OHANAMI 2020』(1/2)#mangadaytoday #daytoday #漫画が読めるハッシュタグ #毎日13時ごろ更新 pic.twitter.com/QmzsMcQNBI
実はこの記事は『完本青い車』購入後、昨年(2025年)の秋くらいに書き始めたんだけど、メンタルとの戦いがあったり、江口寿史問題があったり岡崎京子のこと思い出して作品読み直したりしていて、半年くらいうだうだとなってしまった。
書いたと思えばよしもとがいろんな表現で冒険すればダメ出し、成熟して上手くまとまればそれじゃねぇ!っていうイヤな読者だけど、40年も読み続けてるし、「OHANAMI 2020」だってよしもとが読みたくて函入の7,150円もした「愛蔵版DaytoDay」買った。

今回の「青い車」だってサイン本(今回の見出し画像ね)欲しさに2冊も買ったから、許して。
そして江口はもうトレースイラストレーターでいいけどよしもとよしともはマンガ描け。まだまだよしもとのワクワクする作品が読みたいんだよ、俺は。
*画像は全て私物から撮影したものです。
