動物がいない保育室
保育室の壁面といえば、
だいたい動物がいることになっている。
にっこりしたクマ。
ほっぺの赤いウサギ。
運動会で走るパンダ。
新人の頃の私は、
それが“保育の標準装備”だと思っていた。
でも、ある日ふと思った。
……やっぱり、動物が笑ってるの違和感。
だってクマは笑わない。
ウサギは頬を赤らめない。
パンダは運動会をしない。
そもそも基本、座ってる。
それなのに壁の中では、いつも元気で、いつもにこにこしている。
その不自然さが、急に怖くなった。
「かわいさ」のために、
本来の姿が加工されている。
その加工に、こちらが慣れてしまっている。
何かがずれている気がした。
それ以来、私の保育室から動物が消えた。
別に宣言したわけじゃない。
ただ、貼らなくなっただけだ。
けれど周りがざわつくことはなかった。
むしろ後輩から言われたのは、
「先生の壁面って、カフェみたいですね」
……保育室にカフェみたいと言われる日が来るとは思わなかった。
要は、保育室っぽくないという意味だろう。
今、私が貼っているのは、花とか景色、
いわゆる“もの”だけ。
花や景色は使いやすい。
笑わせなくてもやさしいし、
泣かなくても季節が伝わる。
存在を無理に明るくしなくても、
ちゃんとそこにいてくれる。
子どもは、笑う日もあれば泣く日もある。
怒る日もあるし、機嫌が読めない日もある。
なのに壁だけが一年中、無意味に“にっこり”している世界より、
そのままの空気が流れているほうが、
私は落ち着く。
もちろん、動物で彩られた保育を否定するつもりはない。
普段笑わない存在が笑っていることで、
救われる人もいる。
ゆるキャラだって、そのひとつだ。
動物のいない私の保育室は、少し地味で、
誰も無理に笑っていない。
そのかわり、子どもの表情だけが季節みたいに変わっていく。
笑わせない壁でも、
たぶん部屋はちゃんとあたたかい。
