青春は、そんなにきれいじゃない
母校、松商学園の監督インタビューがSNSで話題になっている。
長野大会で優勝したあと、松宗監督は、ベンチに入れずスタンドから応援していた3年生たちに向かって言った。
「連覇の要因は君たちです」
SNSには、
「泣いた」
「涙が止まらない」
「こんな監督のもとで野球をしたかった」
そんな言葉が並んでいた。
私も見た。
いい監督だと思った。
松宗監督自身、高校時代は松商野球部にいながら、一度も公式戦のベンチに入れなかったという。
だからこそ、スタンドにいる選手たちに声をかけたのだろう。
その気持ちは、よくわかる。
でも私は、
そこまで泣けなかった。
たぶん、昔のことを知っているからだ。
私が高校生だった頃も、松商の野球部は強かった。
甲子園にも行った。
私は吹奏楽部だったので、アルプススタンドから応援した。
グラウンドにいる野球部員たちは、学校のヒーローだった。
スタメン。
エース。
四番。
勝てば、さらに輝く。
甲子園で勝てば、もっとヒーローになる。
でも野球部には、その何倍もの部員がいた。
二軍、三軍。
そして、ベンチにも入れない選手たち。
甲子園まで来ても、彼らがいるのはグラウンドではない。
私たちと同じ観客席だった。
ユニフォームを着て、
声を張り上げて、
グラウンドにいる仲間を応援する。
「頑張れー!」
「打てー!」
私たちと一緒になって応援していた。
でも私は、その本人たちから聞いたことがある。
「早く負けろって思いながら応援してる」
一瞬、笑いそうになった。
でも、
笑えなかった。
ひどいとも思わなかった。
むしろ、
そりゃそうだと思った。
同じ野球部なのだ。
同じ高校生なのだ。
同じように練習してきた。
なのに、
あいつはグラウンド。
自分は観客席。
そして勝てば勝つほど、
あいつらはヒーローになっていく。
自分たちは観客席で、
そのヒーローの名前を叫ぶ。
そりゃ、
嫉妬もする。
「頑張れ!」
と思う気持ちと、
「もう負けろ」
と思う気持ち。
両方あったって、おかしくない。
だから私は、
「ベンチに入れなくても、仲間のために一生懸命応援した選手たち」
という話を聞くと、
そうだよね、
と思う。
でも同時に、
そんなにきれいなもんでもないよな、
とも思う。
悔しい。
羨ましい。
なんであいつなんだ。
俺だって出たかった。
そんな気持ちを抱えながら、
それでも同じユニフォームを着て、
観客席から声を出す。
私にはその姿のほうが、
ずっと人間らしく見える。
そして、
グラウンドにいる選手たちも、
やっぱりすごかった。
大勢いる野球部員の中から選ばれて、
学校中の期待を背負って、
甲子園のグラウンドに立つ。
勝てばヒーローになる。
その代わり、
負ければ自分たちが負けたことになる。
選ばれなかった側には、
選ばれなかった側の感情がある。
選ばれた側には、
選ばれた側の重さがある。
どちらが偉いとか、
どちらが大変とか、
そういう話ではない。
ただ私は、
今回の監督の言葉を聞いても、
どうしても、
あの頃のアルプススタンドを思い出してしまう。
「頑張れー!」
と叫びながら、
「早く負けろ」
と思っていた野球部員たち。
あれも、
間違いなく青春だった。
青春は、
そんなにきれいじゃない。
私はそのほうが、
ずっと好きだ。
