見出し画像

【大相場解説】フジクラのPER推移を並べてみたら驚いた ー 大相場を「評価の変化」で読み解く

フジクラのPER推移を時系列で並べたのは、何気ない作業のつもりでした。

2021年、予想PERは4.41倍。2022年、7.50倍。2023年、12.85倍。2024年、28.14倍。2025年、41.16倍。そして2026年予想、46.17倍。数字を並べて、思わず手が止まりました。5年間で、約10倍(4.41→46.17)。

株価が34倍になった理由を「業績が良かったから」と説明することはできます。でも、この数字の変化を見るとそれだけではないとわかります。市場がこの会社を「見る目」そのものが変わっていた。業績拡大と評価拡大が同時に起きた時、株価はどう動くのか。フジクラはそのお手本のような銘柄です。



並べてみたら、手が止まった

最初にフジクラ(証券コード:5803)のPER推移を時系列で並べてみたのは、正直なところ「作業」の一環でした。銘柄分析の素材集めのつもりで、スプレッドシートに数字を入力していった時のことです。

4.41倍、6.33倍、12.32倍、16.34倍、46.17倍。

2022年3月期末から2026年現在まで、5年分のPERを縦に並べると、そこには妙な感覚がありました。PERというのは「1株あたり利益の何倍で株が買われているか」という指標です。通常、業績が良くなれば利益が増え、PERは下がる方向に働きます。なのに、この数字は下がるどころか、10倍以上に膨らんでいる。

フジクラの株価は2020年の底値(245円)から2025年の高値(29,810円)まで約34倍になりました。それだけ聞くと「業績が大きく改善したから」と思うかもしれません。実際、業績は改善しています。でも、PER推移を並べた瞬間、その説明だけでは何かが足りないという感覚が生まれました。

「業績の変化と評価の変化は、別の話だ」と気づいたのはその時です。

業績だけで解くと、どこかおかしい

フジクラの業績を確認すると、確かに大幅な改善が見られます。EPS(1株あたり純利益)は2021年度の水準から2026年度予想まで約10倍に拡大しています。売上高も、2021年の6,437億円から2026年予想の1兆1,430億円へと2倍弱になりました。数字だけ見ると、立派な成長企業です。

EPS(1株あたり純利益)も、2019年度は5.09円でした。今この数字を見返すと、正直笑えてきます。現在の507円と比べると約100分の1。同じ会社の話だとは、にわかに信じがたい。

ここで少し計算してみます。

株価は大まかに「EPS × PER」で決まります。EPSが10倍になったなら、PERが変わらなければ株価も10倍になるはずです。でも実際の株価は34倍になった。差分は3倍以上あります。この「残差」はどこから来るのか。答えは明らかです。PERが10倍近く拡大したからです。

EPS約10倍、PER約10倍拡大。この2つが同時に起きたことが、34倍という株価上昇の正体です。

この計算をした時、正直しばらく画面を見直しました。単なる「業績が良かった株」ではなく、「市場の評価そのものが変わった銘柄」だとわかった瞬間でした。

図表①:フジクラ(5803)予想PER推移グラフ(2022〜2026年)

PERの上昇は「業績の評価」ではなく「何者であるか」という認識が変わったことを示しています。2022年に4倍台だったのは、この会社が「老舗電線メーカー」として見られていたからです。2026年に46倍になったのは、「AI時代の必需品を作る高収益企業」として見られているからです。業績の数字は変わっていますが、それ以上に「文脈」が変わりました。

4つのフェーズで読む「評価変化」の物語

評価はどのように変わっていったのか。時系列を追うと、4つのフェーズが見えてきます。

埋没期(2019〜2022):「この株に未来はあるのか」

この時期のフジクラは、投資家から見て地味な銘柄でした。PERは4倍台、配当もほぼなし(2021年は5円)、業績も「回復基調」とは言えるものの劇的な数字ではありませんでした。

2022年3月末時点の予想PER4.41倍は、「誰も見ていない」状態の象徴でした。電線という業種への先入観、配当の少なさ、派手さのなさ。投資家が積極的に注目する理由がなく、この会社の株は淡々と、静かに動いていました。

再発見期(2023前半):「AIバブルとこの会社は関係あるのか」

2022年末から2023年にかけて、データセンター投資のニュースが増え始めていました。その頃、私自身も漠然と考えていたことがあります。「AI時代に電線の需要が増えるなら、どの会社が一番恩恵を受けるのか」。その問いが頭の片隅にありながら、当時のフジクラには正直ピンと来ていませんでした。

SWR(間欠接着型光ファイバーリボン)という言葉を知ったのも、この時期です。従来比で35%細径ながら同等以上の心数(光ファイバーの本数)を実現するフジクラの独自技術は、データセンターの高密度配線に完全に適合していました。それ以前からある技術でしたが、「文脈」が変わった瞬間、評価が動き始めたのです。

SWRという3文字が急に意味を持ち始めた瞬間が、この相場の最初の転換点だったという気がします。技術が変わったのではなく、世界が変わったのです。

加速期(2023後半〜2024):「なぜフジクラだけがここまで上がるのか」

2024年は、チャートを見るたびに目を疑う一年でした。年間上昇率+628%。日経平均株価の構成銘柄で断トツの1位です。住友電工も古河電工も上がっていましたが、その動きはフジクラと比べると別の相場にいるようでした。

上方修正が出るたびに株価が跳ね上がり、空売りを仕掛けていた投資家が次々と踏み上げられていく。PERが16倍を超えた頃から、「これは普通の株ではない」という感覚が出てきました。PERは12倍台から16倍台、さらに28倍台へと駆け上がっていきます。

高原期(2024後半〜現在):「PER46倍はバブルなのか、正当なのか」

現在のPER46倍(株価ベースでは約52倍)を見て、私は正直まだ答えが出ていません。EPSが今後も伸び続けるなら正当化できる水準かもしれない。でも、これが当初の電線株のPER4倍台だった頃と同じ会社だと思うと、何か巨大な思い込みの上に立っているような、落ち着かない感じがします。バブルとは言い切れないが、割安とは絶対に言えない。このグレーゾーンにいること自体が、今のフジクラを象徴していると思います。

図表②:フジクラ(5803)株価推移+4フェーズ区分チャート(2019〜2026年)
図表③:フジクラ大相場カタリスト年表(2019〜2026年)

なぜフジクラだけだったのか

同じ「電線メーカー」なのに、なぜフジクラだけがここまで突出したのでしょうか。電線業界の御三家(フジクラ、住友電工、古河電工)を比較すると、その差は明確です。

住友電工と古河電工もデータセンター向けの需要は取り込んでいます。それでも2024年の株価上昇は、住友電工が40%前後、古河電工が50%前後という水準でした。フジクラの628%とは比較になりません。

この3点を調べた時、特に引っかかったのが選別受注という考え方でした。粗利の低い案件を意図的に断るというのは、電線という装置産業の会社がやることとしては、かなり異質な発想です。2025年3月期の営業利益率は13.8%に達しました。住友電工の6.9%、古河電工の3.9%と比べると別次元の数字で、これを見た時に「これは本当に同じ業種の会社なのか」と思いました。

もう2つの差も調べるほどに面白かった。SWR(間欠接着型光ファイバーリボン)の技術優位性は、データセンターの高密度配線というニーズにぴったり噛み合っていた。そして融着接続機(光ファイバーを現場でつなぐ機器)の世界シェア1位という強みが、ケーブルと接続機のワンストップ体制を実現し、顧客が乗り換えにくい構造を作っていた。SWR技術や融着接続機のシェアは調べれば出てきますが、経営の選択として高収益を意図的に設計していたという事実は、チャートを眺めているだけでは気づかないことでした。

住友電工と古河電工のチャートをフジクラと並べた時、改めてその動きの異質さに気づきます。同じ業種カテゴリに属していながら、実態はまったく異なる収益構造の会社でした。

図表④:電線御三家(フジクラ・住友電工・古河電工)比較表(2025年3月期)

「評価の変化」を見る目を持てた人は、何を見ていたか

分析をひと通り終えた時、正直に言うと少し悔しい気持ちがありました。2022年のPER4倍台という数字を当時見ていたとしても、私がそこから「評価変化の芽」を読み取れたかどうか、自信がないからです。業績の改善だけを見ていたら、これほどの株価上昇は予想できない。カタリストと需給の連鎖を含めて3つが同時に起きた時、初めて34倍という結果が生まれます。これを後から並べると自明に見えますが、2022年の時点でこれを見通せた人間は、ほとんどいなかったはずです。

では、次の銘柄を見るとき、何を確認すれば「評価変化の芽」を見つけられるでしょうか。私自身がこの分析を通じて意識するようになったのは、以下の3点です。

1つ目は、PERが過去5年の自社レンジの中でどこにいるか、という確認です。現在のPERが歴史的に低い水準にあり、かつ業績が改善傾向にある場合、評価変化が起きやすい素地があります。

2つ目は、EPS成長率とPER成長率の「どちらが主導しているか」の把握です。EPS成長だけが主導している場合は「業績回復株」であり、PER拡大が始まっている場合は「認識が変わり始めた銘柄」である可能性があります。後者は、初期段階を捉えられれば大きなリターンにつながります。

3つ目は、PERが低い理由が「市場の無関心」なのか「構造的な問題」なのかの区別です。フジクラの2022年時点のPER4倍台は、構造的な問題ではなく「電線株というカテゴリへの先入観」がもたらした無関心でした。この区別ができるかどうかが、評価変化の初期段階を捉えられるかどうかの分かれ目です。

この3点を意識するようになってから、スプレッドシートに数字を並べる時の見方が少し変わりました。数字そのものを見るだけでなく、「なぜこの評価になっているのか」を問うクセがつき始めた気がしています。


評価変化という「補助線」が見えると、相場が違って見える

フジクラの大相場を振り返ると、「業績が良かった」という説明だけでは、34倍という結果を説明できません。EPS10倍という業績の実態変化と、PER10倍という評価の変化が、同時に起きたことが本質でした。

「評価変化」というレンズを持てた人は、2022年のPER4倍台という時点で、まだ市場が気づいていない何かを見ていたことになります。それは具体的なデータかもしれないし、業界構造への理解かもしれない。あるいは「AI時代に電線の需要が増えるなら、技術力のある会社が恩恵を受ける」という仮説かもしれない。

投資の世界では、「全員が気づいた時にはすでに高い」という現実があります。フジクラの場合、PER4倍台だった2022年に気づいた人は、2026年現在の46倍台という評価を見るポジションにいます。その間に何が起きたかをたどることで、次の相場の「評価変化の芽」を見つけるための補助線が少し見えてくると思います。

大相場はいつも、「誰も見ていない頃」に種が撒かれています。フジクラがそれを教えてくれました。

電線御三家の比較については、以前こちらの記事でもデータを整理しています。ファンダメンタルズの詳細を確認したい方はあわせてご覧ください。


フジクラの大相場を調べていて、ひとつ気になったことがあります。2022年に予想PER4倍台だったこの会社を、あなたは当時知っていましたか。知っていたとして、何かを感じ取れたと思いますか。もしよろしければ、コメントで教えてください。

大相場株解説シリーズの分析はこれからも続けていきます。スキ(♡)を押していただくと、同じテーマに関心のある方にもこの記事が届きやすくなります。

いいなと思ったら応援しよう!