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鍬形蕙斎「隅田川両岸絵巻」―西を望む隅田川図について(國華1557号〈特輯 隅田川図巻〉要旨)

樋口一貴

鍬形蕙斎筆 隅田川両岸絵巻 北海道 小樽芸術村浮世絵美術館
絹本着色 巻子装1巻 縦36.7㎝ 全長401.1㎝

 鍬形蕙斎の主な画業に、「江戸一目図屛風」(津山郷土博物館)と「隅田川図屛風」(サントリー美術館)という屛風をはじめとする一連の江戸名所図がある。本稿では文政4年(1821)頃制作の「隅田川両岸絵巻」(小樽芸術村 浮世絵美術館)を紹介し、これら二つの屛風や他の江戸図と比較することによって、改めて蕙斎の江戸図の評価を試みる。
 川の東岸から西側を望む構図で、画巻という極端に横長の画面中を、隅田川が上流から下流へ向かって横断する。隅田川を題材としたほとんどの画巻は、西岸から東を望むのに対して、本図の構図は対照的である。筑波山の描写に始まり、富士山を背景にした江戸城を過ぎて、河口と湾を囲む遠景で終わる。屛風と画巻という画面形式の相違はあるものの、図様の観点からすれば「隅田川両岸絵巻」は「江戸一目図屛風」の下部から派生しており、視点の高さと隅田川を横一直線にする構図は「隅田川図屛風」と共通する。
 蕙斎は東から西を望む江戸一目図を多く制作したが、そこには必ず隅田川が含まれており、名所を擁する隅田川と市街、江戸城、そして富士山を一目に収めている。「隅田川両岸絵巻」は墨東から西を望むことによって、西岸と東岸の都鄙を対照させつつ隅田川流域から内湾海岸線までを視野に収め、中景には台地、遠景には筑波から富士、上総までの名所・名物を描きだす。これは一連の江戸一目図の制作意識の文脈上にあり、採択された名所は制作当時の江戸名所を反映している。本作品にユニークなモチーフは筑波山であり、隅田川が画面に対して水平に流れ、その遠景の左右に富士と筑波を配置する絵画は、この作品が最も初期の作例ということになる。筑波と富士は方角的には「一目」で見ることは不可能だが、画巻形式で川の流れに沿って上流から下流へと自然に空間と視点を横移動することで、違和感なくシームレスに江戸から遠望できる二名山を同一画面に収めている。


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