「これっきりですか?」アマノ文筆クラブ作品
アマノ文筆クラブのお題で書いています。
男は、憤慨した。
帰宅する会社員と学生で身動きが取れないくらい満員の電車に乗り、私は自宅と真逆の終点へ向かっていた。
毎週火曜日は、古武術の稽古があるからだ。
仕事の制服とお弁当を入れたミッフィーの茶色い手提げバッグは、何年前にもらったのか記憶に無い食パンのキャンペーンバッグだった。
稽古場でカバンから水筒を出すと、一緒に白い小さなゴミが出てきた。
よく見ると、綺麗に折りたたまれている。
サイズは1cmも無いくらい。
『なんだろう』
紙は、KOKUYOのレポート用紙を切った細長で、電話番号とメールアドレスが書いてある。
『連絡してください』
気持ち悪いゴミだな、と私は稽古場のゴミ箱に捨てた。
それから毎週火曜日、稽古終わりの自宅でカバンから制服やお弁当を出すと、その折りたたまれた小さな紙切れが一緒に出てくるようになった。
それから数週間後の火曜日。
稽古場の駅を歩いていると、柱の影から中年の男が目の前に飛び出してきた。
「何で連絡くれないの?」
あの紙切れの主だ。
私は無視して歩いたが、男は後ろをついてきた。
私は歩きながら先生にラインをした。
「中にどうぞ」
先生は稽古場の向かい側に立っていて、男の後ろから肩を抱えて稽古場に入れた。
ニコニコしている先生と生徒の男性6人に囲まれた男は、挙動不審になった。
私は数枚の細長いメモを男に見せた。
「キモいです」
「俺やで??」
男はびっくりした顔でそう言った。
「二度と近寄らないでください」
「俺やぞ??」
男は大声を出したが、ニコニコしている先生たちに怯んで、すぐに静かになった。
「入会します?」
先生は稽古に誘ったが、男は怯えて断った。
「じゃ、これっきりってことで」
先生は真顔でそう言ったが、男は
「これっきりですか?」
みんなが沈黙する中、
「これっきりってなに?!」
と私に向かってまた大声を出した。
「これっきりです」
私の一言で固まった男性は、先生たちに外へ連れて行かれた。
その日、私は最後の稽古を終えてガラガラの電車に乗って帰った。
それっきり、ミッフィーのバッグに小さな紙が入っていることはなくなった。
上記はフィクションです。
甘野充先生による「アマノ文筆クラブ」のお題に参加させていただきました!
お題で書くのは本当に難しい。でも書くことが楽しい!と思い出せるとても楽しいイベントのように感じています。
皆様も是非参加してみて下さいね✨
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