宇宙の謎を一掃する新理論──ダークマターとダークエネルギーは「幻」だったのか
私たちの宇宙を構成するもの。その約95%は目に見えない「何か」であると、長年信じられてきました。
内訳は、暗黒物質(ダークマター)が27%、暗黒エネルギー(ダークエネルギー)が68%。私たち自身を含む通常の物質は、わずか5%に過ぎません。
しかし、2025年11月、オタワ大学のRajendra Gupta教授が発表した新理論が、この宇宙観を根底から揺さぶっています。ダークマターもダークエネルギーも、実は存在しない可能性があると提唱しています。
宇宙の力が時間とともに弱まっている
Gupta教授の理論の核心は、シンプルかつ大胆です。
「宇宙の基本的な力──たとえば重力──は、時間が経つにつれて少しずつ弱くなっている」という仮説です。
この弱まりが、私たちには「謎の力が宇宙を加速膨張させている」ように見える。これがダークエネルギーの正体だというわけです。
一方、銀河や銀河団のスケールでは、この力の変化が空間的に分布することで、余分な重力が生じているように見える。これこそがダークマターの正体だと教授は主張します。
従来の宇宙論では、宇宙スケール(6億光年以上)と銀河スケールの現象を説明するために、ダークマターとダークエネルギーという別々の概念が必要でした。しかしGupta教授の理論では、たった一つの方程式でこれらすべてを説明できるといいます。
「宇宙の定数が変化するだけで、すべてが説明できるのです」と教授は語ります。
銀河の回転速度が示す真実
この理論の重要な検証の場が、銀河の回転速度です。銀河の外縁部にある星は、本来なら遅く回転するはずです。しかし実際には、予想よりもずっと速く動いています。これが「フラットな回転曲線」と呼ばれる現象で、ダークマター仮説が生まれた最大の理由でした。
Gupta教授の新理論では、「α(アルファ)」というパラメータが登場します。これは結合定数(基本的な力の強さを表す量)が進化することで現れる追加要素です。宇宙の大規模構造では、αは一定として扱われます。しかし銀河の内部では、通常の物質(ブラックホール、恒星、惑星、ガス)の分布に応じてαが変化します。
物質が密集している領域ではその効果は小さく、希薄な領域では大きくなる。この結果、銀河の外縁部にある星が予想より速く動く現象を、見えないダークマターのハローを仮定することなく、自然に説明できるのです。
https://www.mdpi.com/2075-4434/13/5/108
宇宙年齢は2倍に?
実は、Gupta教授は2024年3月にも、この理論の前身となる研究を発表していました。その時の主張は、宇宙の年齢が従来の138億年ではなく、約267億年である可能性を示すものでした。
この理論の鍵となるのは、二つの「定数」が実は変化しているという仮説です。一つは光の速度が時空を経ると減衰するという「疲れた光説(TL)」。もう一つは、宇宙定数が変化するという「共変動結合定数(CCC)」です。
この「CCC+TL」理論により、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した初期宇宙の驚くほど成熟した銀河の存在も、無理なく説明できるようになります。宇宙の発展タイムラインが実質的に引き伸ばされることで、巨大な構造が形成されるための時間が十分に確保されるのです。
一方で続くダークマター探索
興味深いことに、Gupta教授の理論が発表される一方で、世界中ではダークマターを直接検出しようとする実験が精力的に続けられています。
2025年10月には、LUX-ZEPLIN(LZ)実験が過去最高の精度でWIMP(弱く相互作用する重い粒子)の探索結果を発表しました。サウスダコタ州の地下約1.5キロメートルに設置されたこの検出器は、10トンの液体キセノンを使用しています。しかし、これまでのところダークマター粒子の確実な検出には至っていません。
同じく10月には、東北大学の研究チームが超伝導量子ビットをネットワーク化した新しい検出手法を提案しました。量子センサーを最適化されたネットワークパターンで結合することで、ダークマターが残す微弱な痕跡を検出する感度を大幅に向上させられるというのです。
さらに、ブラックホールの「影」の画像を利用した新しい検出方法も登場しています。事象の地平線望遠鏡(EHT)が撮影したM87やいて座Aの画像から、ダークマターの対消滅の兆候を探すという独創的なアプローチです。
科学的議論の健全さ
ここで重要なのは、Gupta教授の理論も、まだ一つの仮説に過ぎないという点です。従来の観測結果を説明する証拠は提示されていますが、他の研究グループによる独立した検証が必要です。教授自身も、この理論が標準宇宙モデルの他の観測結果と整合するかどうか、さらなる検証が必要だと認めています。
一方で、何十億ドルもの予算をかけたダークマター探索が、これまで一つも粒子を検出できていないという事実も重要です。もしダークマター粒子が発見されたとしても、それは通常の物質の約6倍の質量しか説明できません。95%の謎がそのまま残ることになります。
宇宙最大の秘密は「錯覚」なのか
「時に、最もシンプルな説明が最良の説明です。宇宙最大の秘密は、進化する自然定数が演出するトリックに過ぎないのかもしれません」とGupta教授は結論づけています。
この理論が正しければ、私たちの宇宙観は劇的に書き換えられることになります。目に見えない物質を探し続ける代わりに、重力や他の基本的な力が時間とともにどう変化するかを精密に測定することが、宇宙の本質を理解する鍵となるかもしれません。
科学の歴史を振り返れば、パラダイムシフトは常に激しい議論と検証を経て起こってきました。Gupta教授の理論が最終的に受け入れられるか否かにかかわらず、この挑戦的な提案は、私たちに宇宙についての固定観念を問い直す機会を与えてくれています。
宇宙の謎に挑む科学者たちの情熱と、異なる理論が競い合う健全な科学的プロセス。これこそが、人類を真理へと導く原動力なのだろうと個人的には信じています。
参考記事
〇A new equation may explain the Universe without dark matter(2025年11月6日)
〇Testing CCC+TL Cosmology with Galaxy Rotation Curves(2025年9月12日)
https://www.mdpi.com/2075-4434/13/5/108
〇宇宙年齢とダークマターの概念を一挙にひっくり返す理論(2024年3月23日)
〇Scientists may be closing in on dark matter's true identity(2025年10月1日)
〇New quantum network could finally reveal dark matter(2025年10月29日)
〇Event Horizon Telescope images reveal new dark matter detection method(2025年10月10日)
